LOUDER THAN EVER
kiLLaから新たなるソロの刺客、KEPHAがフィジカル・デビュー。ただ、このメロディアスかつディープな味わいは、本隊とはまた違う可能性に溢れているようで……

 均質化や平準化が進む一方、世界中で多様化が一気に顕著になり、シンプルにヒップホップを一本の流れで語ることが不可能になっている昨今。それゆえに、今後はこれまでの〈世界標準〉や〈シーンの最先端〉的な相対的な惹句は形骸化して、リスナーそれぞれの好みの中でのカッコ良さや、アーティストそれぞれの備えたヴィジョンや新しさがより大切になっていくのだろう。で、そうした時代になればなるほど、もともと独自の美意識や揺るぎないサムシングを共有して集まったkiLLaのようなクルーは強い。彼らの2018年は初のフィジカル・フル・アルバム『GENESIS』のリリースで始まったわけだが、その年のラストを飾るのはKEPHAの初CD作品となるソロ・アルバム『T O K Y O I T E』。YDIZZYとArjunaに続くソロでのフィジカル作品として実に強力な一作に仕上がってきた。

KEPHA T O K Y O I T E kiLLa/bpm tokyo(2018)

 94年生まれ、東京で生まれ育ったKEPHAは、kiLLaの結成時から活動してきたラッパー/シンガー。もともとkiLLaとYENTOWNが知られるきっかけになった“Seven Sinners”(2015年)をはじめ、バウアー“Night Out”のリミックス(2016年)、BCDMGでの“Poser”(2016年)、そしてもちろんkiLLaとしての“HOTTOKE”やYDIZZYの諸曲、Arjunaの“say good bye to Tokyo city”(2017年)などで頭角を表してきた。今回のアルバムは先行で配信リリースされた2作のEP『T O K Y O I T E: I』と『T O K Y O I T E: II』をまとめるのみならずボーナス音源をプラスして、KEPHAという個人の現在進行形をパッケージしたものだ。

 エグゼクティヴ・プロデューサーとして全体を統括するのは、WILYWNKAやBESを手掛けてきた関西のプロデューサー/エンジニアのNOAH。この手合わせがKEPHAにより開かれたある種のポップネスを開眼させたのは想像に難くない。アトモスフェリックなビート上で淡々と言葉を吐き、スムースなフロウで歌う主役の姿はイントロに続く切実で美しい“IDWD”からディープに染み入ってくる。トリップ・ホップもトラップもエレクトロニカも折衷したベース・ミュージック的な展開でうねうねうねる太い流れはクルー内の他の作品と比べても異質で、それゆえにフレッシュだ。さらにアブストラクトな“GOSSIP”ではyahyelのMiru Shinodaがプロデュース参加するという、意外ながらも妙に納得のコラボが実現。TOKYOの賑わいと孤独、表通りと路地裏、妖しさと怪しさをトータルで表現した本作は、故郷へ向ける眼差しとはまた違う視点で現在のTOKYOを描き上げている。アーバンにしてエッジーな印象の強かったkiLLaだが、KEPHAの今回選んだ方向性によってまた彼らなりの意味においての新たなポップネスが規定していくかもしれない。この先へ向けての期待も大きく膨らむような一枚じゃないだろうか。