Streiht Outta Bompton
30年のキャリアを誇る西海岸の大ヴェテランが、言わずと知れたNY最高の職人と手を組んだ! 新しい血も加えながら東西のハイブリッドを試みてOGのフレッシュな底力が発揮された驚異の名盤がこれだ!
MCエイト、10年ぶりのニュー・アルバムという触れ込みも散見されるものの、10年前の『Representin'』はCMW名義による『Represent』(2000年)のジャケを替えただけの盤なので、実際は11年ぶりの新作であって……と、細かいことを申しますが、まあ、レジェンダリーな部分は称揚されても実際はそんなもんです。とはいえ、世の認識がその程度だろうと、御大が改めてor新たに脚光を浴びた契機となったケンドリック・ラマー“m.A.A.d city”(2012年)がやはり鮮烈だったのは言うまでもない。コンプトンの悪の側面を明快に演じるのにエイトはまさに適役だったということだろう(同じ趣向で一昨年にもDJカム『Miami Vice』に出演した)。
80年代後半にCMWことコンプトンズ・モスト・ウォンテッドを結成し、90年代にはソロ・ラッパーとしてGファンクの流行とは別角度から支持を集めていた、NWA組やDJクイックと並ぶコンプトンの重鎮。ご機嫌に連発される〈ジィ~ヤ〉の名調子でも知られ、近年も旧知のデイム・ファンクをはじめとする後進から客演を乞われたり、Gな方面ではいまなおコンスタントに露出はあるが、“Def Wish II”(92年)をDJプレミアがリミックスしていたり、ピート・ロック“One Life To Live”(98年)やマルコ・ポーロ“West Coast Love”(2013年)に客演するなど、燻し銀な語り口の魅力はエリアを制限するものではもちろんない。てなわけで、久しぶりの公式アルバムとなる『Which Way Iz West』がプレミア主宰のイヤー・ラウンド経由で出るのも頷ける流れではある。
今回の動きに至る前ぶれとしてはプレミアがミックス/マスタリングを担当した『Keep It Hood EP』(2014年)があったが、そこで全曲のビートを制作したブランク・シナトラが今回の新作でも大半をプロデュース。オーストリアはウィーン出身のブランクはドイツでサフ・ダディらと活動してきた経歴の持ち主で、いわゆるユーロ勢ならではのGへの憧れよりも往年のNYスタイルに則ったサンプリング主体の音作りに長けた人。つまりは各曲に例のスクラッチで合いの手を入れてくるプレミアの手捌きとも当然のように相性がいいのだ。それゆえに鬼太なベースのうねるGファンク“Gangsta Gangsta”(コラプトとの絡みもかっこよすぎる!)を作ってもG志向の人とはまるで雰囲気が違い、全体的に往年のCMW~エイト作品とはまるで感触が異なるものの、ソウル使いの華やかなループがヴェテランの振る舞いにドラマティックな躍動感を付与したその成果は明らかで、どこを切っても最高の瞬間が用意されている……とか言っておきたい。
客演では“Represent Like This”で変わらぬアクの強さを披露するWCを筆頭に、プレミアとは旧知のレディ・オブ・レイジ、イグジビットやB・リアルといったエリア不問の実力者たち、さらにバンピー・ナックルズらが好演。主役も含めてラッパーとしての余生を単に安直な繰り返しに終始しない姿勢は頼もしいし、そうでなくても小利口なあれこれをブッ飛ばせるほど豪速球のカッコ良さで勝負してくれたことにひたすら感動する! 感動した! 傑作!