夢を見せてくれるもの。現実を教えてくれるもの。美しいもの。醜いもの。人はさまざまな物語に囲まれて生きている。〈物語を語り継ぐ〉という意味を持つ、eddaという名前のシンガー・ソングライターは、子供の頃からさまざまな物語を集め、自分でも作り出してきた。彼女はこれまでをこんなふうに振り返る。
「学校以外はほとんど家から出なくて、ずっと家で映画とかアニメを観たり、本を読んだり、ゲームをしたりしていましたね。私服なんて要らないぐらい家にいて、自分の好きなものだけに囲まれていたいと思っていました」。
そんななかでギターを学ぶようになると、音楽は彼女にとって大きな存在になっていった。そして高校を卒業すると、YUI、絢香らを輩出した音楽塾ヴォイスに入ったことが彼女の運命を変えた。
「ヴォイスに入るまでは、音楽を自分で作るなんて思ってもみなかったんです。ただ、ギターを好き勝手に鳴らして歌っていただけで。でも、音楽のことを勉強するなかで、〈こんなものを作ってみたい〉というものがいっぱい思い浮かんできて。それから音楽を作ることが楽しくなってきたんです」。
彼女の曲作りで重要な役割を果たすのが〈物語〉だ。彼女は物語を作るように曲を生み出していく。
「自分が観た映画や読んだ本のなかで気になるキャラクターを見つけたら、その子のストーリーを考えて歌にするんです。あと、メロディーが思い付いたら〈このメロディーだったら、こういう性格の子の歌にしよう〉って想像したり。まず、キャラクターをしっかり決めるのが重要なんです」。
その一方で、日常(現実)を題材にした曲は「考えても、一言も歌詞が出てこない。SNSもやっていなかったので、普段みんながどんな話で盛り上がっているのかもわからないんです」と苦笑する。そんな彼女のメジャー・デビュー・シングル“チクタク”のタイトル曲は、TVアニメ「Infini-T Force」のエンディング・テーマ。アニメ好きの彼女にとっては、またとないチャレンジになった。
「ちょっとダークなアニメなんですけど、〈エンディングでホッとひと息つけるような曲にしてほしい〉って監督から言われたんです。もともと、明るいけど憂いがある歌が好きだったので、楽しみながら作りました」。
ポップなメロディーと力強いビートでドラマティックに展開していくなか、ラップ・パートがあったりと、“チクタク”には盛りだくさんの要素が詰め込まれている。
「ラップはテンション上げてやったつもりなんですけど、レコーディングで〈なんでそんな棒読みなの〉って笑われて。もう、曲に喰らい付く感じでやりましたね」。
そして、あとふたつの収録曲“ディストランス”“魔法”は、映画「アヤメくんののんびり肉食日誌」の主題歌と挿入歌。“ディストランス”は、映画の主人公、アヤメと椿の恋愛を銀竜草という花のイメージに託して。“魔法”は、実際の映像を観ながらインスピレーションを膨らませて曲作りをしたという。「3曲とも本編の主人公に近いキャラクターを思い描いて曲を書きました」と彼女は語るが、デビューして物語を人に聴かせる立場になったことで、彼女と物語の関係に何か変化はあったのだろうか。
「曲を作っている時が、いちばんその物語の世界と繋がっているんです。でも、録音まで終わると、物語の部外者になってしまった気がして……。ただ、最近は曲を聴いてくださった皆さんの意見を聞いているうちに、また物語と強く繋がっているような気持ちになってきて。歌うのがすごく楽しいんですよね」。
いま、彼女の前には外の世界と一緒に作り上げていく新しい物語が広がっている。その記念すべき1ページ目が“チクタク”なのだ。
edda
92年生まれ、福岡出身のシンガー・ソングライター。イラストやジオラマなども創作し、自身の音楽作品のジャケットも手掛ける。YUIや絢香、家入レオ、chayを輩出した音楽塾ヴォイスでの学びを経て、2017年に〈物語を語り継ぐ〉という意味を持つeddaをアーティスト名として活動を開始。5月末にファースト・シングル“半漁人”を自主レーベルのErzahlerより福岡限定でリリース。7月には初の全国流通盤となるミニ・アルバム『さんかく扉のむこうがわ』を発表。DIRECTIONSや中川晃子、早船将人、橋本ルルら個性的なクリエイターが携わった“人魚姫”“不老不死”のMVでも注目を集め、このたびメジャー・デビュー・シングル“チクタク”(Colourful)を10月11日にリリースする。