ひとつ、またひとつと地図に新たな目印を描き足しながら続けてきた旅の途中の1作目。それぞれの物語を抱えた登場人物たちが暮らす〈タングの街〉に広がる風景とは?

 〈物語を語り継ぐ〉という意味を持った名前通り、デビュー以来、曲ごとにさまざまな物語を紡ぎ出してきたシンガー・ソングライター、edda。記念すべきファースト・アルバム『からくり時計とタングの街』は、メジャー・デビュー曲“チクタク”やTVドラマ「探偵が早すぎる」の主題歌“フラワーステップ”などシングル曲を織り交ぜながら、eddaの世界をさらに広げる作品になった。タイトルからして童話のような雰囲気だが、アルバムの世界観を彼女はこんなふうに説明する。

 「インディーでリリースしたミニ・アルバム『さんかく扉のむこうがわ』(2017年)は、 eddaという人物が〈さんかく扉〉という架空の扉を開けて、その向こう側にある世界で物語を集めている、というコンセプトだったんです。そのあとに出した『ねごとの森のキマイラ』は〈さんかく扉〉の向こう側にある森の話で、その森の先に『からくり時計とタングの街』があるんです」。

edda からくり時計とタングの街 Colourful(2018)

 アルバムのオープニングを飾るインスト曲“からくり時計”は、まさに物語のプロローグといった趣。編曲を手掛けたのは、『ねごとの森のキマイラ』にも参加したdetune.だ。

 「“からくり時計”はエンディングの曲“導きの詩”から生まれたもので、音色とか雰囲気が共通しているんです。この2曲でアルバムを挟んで、全体に筋を通そうと思いました。detune.さんはずっと憧れの存在で、その不思議で奇妙な世界に影響を受けてきたんです」。

 detune.はこの曲以外に“星のない空”のアレンジを担当しているが、そのほかにも、ササノマリイやビッケブランカといったアーティストが参加。「メロディーやキーがコロコロ変わっていく曲にしたかった」という“フラワーステップ”、「音楽のおとぎ話のようなキラキラした音や少年っぽい感じが合ってると思って」ササノにアレンジを依頼した“エメラルド”、中世風のメロディーを持つ“トントン”など多彩なナンバーが並んでいる。そこで大きな役割を果たしているのが、アルバムの半数の曲でコラボレートしているミワコウダイだ。ミワはeddaが音楽を教わった恩師。今回、アルバムに収録されたミワとの共作曲は、メジャー・デビュー前に作られたものらしい。

 「いちばん古い曲は“星のない空”で、ミワさんが〈曲を書いたから歌詞をつけてみろ〉って言ってきたんです。宿題みたいな感じでした(笑)。ミワさんと作った曲はどれも気に入っていて、歌詞も一字一句変えたくないくらいの完成度なんです。作った時から、全然、古くなっていないんですよね」。

 そんななかで、特に彼女のお気に入りなのが“宇宙ロケット”だ。そこには彼女らしい物語世界が広がっている。

 「この曲は『ねごとの森のキマイラ』に入っている“グールックとキオクのノロイ”と対になっている曲なんです。月の女の子と仲良くなった地球人の男の子の話で、月の子は『かぐや姫』みたいに月へ帰ってしまう。それで月の子に会うために、主人公はがんばってロケットを作って月に行こうとするんです。曲の中で最初は少年だった主人公が成長して青年になるので、1番と2番以降の歌い方を変えているんですよ。“グールックとキオクのノロイ”のほうは、月に戻って地球での記憶を失った月の子の話なんです」。

 そんな設定を知ったら“グールックとキオクのノロイ”も聴かずにはいられない。そんなふうに、曲ごとにさまざまな物語が詰まっているのがeddaの歌の魅力だ。ちなみにアルバム・タイトルの〈タング〉とはeddaの大切にしているテディベアの名前。“merry”はタングがココロを手に入れるため、願いを叶えてくれるお月様を探して旅に出る、という歌だとか。「歌う時は登場人物に成り切って歌う」というeddaのストーリーテラーとしてのこだわりは、アートワークからも感じられる。

 「デビューした時から、アルバムを出す時は本みたいな仕様にしたいと思っていたんです。初回盤にはブックレットが付いていて、そこに地図が入っているんですよ。その地図には、〈さんかく扉〉〈ねごとの森〉〈からくり時計とタングの街〉が描かれていて、これまでeddaが旅した場所がわかるようになっています。さらに初回盤に付いているDVDには地図にある〈森の家〉でのライヴ映像も収録されていて、絶対、初回盤がおすすめです!」。

 ページをめくるように、曲ごとに新しい風景が広がるeddaの歌。『からくり時計とタングの街』を地図替わりにして、そのファンタジックな世界を旅してみよう。

eddaの作品。

 

『からくり時計とタングの街』に参加したアーティストの作品。