日本のシティー・ポップやAORの大ファンを公言するタイ・バンコク在住のシンセ・ポップ・トリオ、ポリキャット(POLYCAT)。彼らが2017年10月11日にリリースした日本デビュー盤『土曜日のテレビ』を引っ提げた来日ツアーを開催中だ。公演では日本語詞曲も収録された同作からのナンバーはもちろん、山下達郎の“いつか(SOMEDAY)”など彼らがリスペクトする日本産の楽曲のカヴァーを披露し、ファンを大いに魅了しているそうだが、ツアーはいよいよ明日10月28日(土)、東京・代々木公園でおこなわれる〈earth garden ”秋” 2017 第13回代々木クラフトフェア〉でのステージが最後となる。
ここでは最終公演を目前に、音楽ライターの金澤寿和氏がポリキャットへ行ったメール・インタヴューを掲載。数々のアルバムやコンピ作品をリリースしている〈Light Mellow〉シリーズのプロデュースに、「AOR Light Mellow」や「Light Mellow 和モノSpecial」などの書籍の著者としても知られ、日本一AOR~シティー・ポップを知り尽くしているとも言える氏に、彼らの音楽性の旨味を紐解いてもらった。これを読んで興味を持った人はぜひ明日のライヴに足を運んでみてほしい。 *Mikiki編集部
タイの音楽シーンは隆盛期。僕らはオールドスクールなシンセ・ポップを演っているし、どちらかというとインディー路線かな
山下達郎や角松敏生など、ソウルやファンクの香りがする和モノの都市型ポップスに影響を受けたアジアの若手インディー・グループが、昨今注目を集めつつある。先陣を切ったのは、インドネシアから登場したイックバル(Ikkubaru)。既にtofubeats、Negicco、Especia、スカート、星野みちるらと共演を果たして着々と支持を広げているが、その後を追うように、今度はタイ・バンコクからニューカマーが現れた。80s感覚のシンセ・ポップを今様にアップデートした3人組、ポリキャットである。結成は2011年。
「チェンマイのパブでよく演奏する仲間だったんだ。ある時、たまたま映画『ハングオーバー!2』に出演するチャンスがあって、それから自分たちの楽曲でデモを制作するようになった。それがバンドのスタートだよ」。
タイでは既に2枚のアルバムを発表し、2作目『80 Kisses』(2016年)がヒット。インディー・バンドの枠を飛び越し、世代を跨いで支持を広げているそうだ。タイ国内の音楽フェスにも多く出演し、ライヴ・バンドとしての実力を蓄えつつある。
「『80 Kisses』は、僕らもあそこまでヒットするなんて予想していなかった。最初のアルバム『05:57』(2012年)も、セールス的にはあまり良くなかったからね。『80 Kisses』も似たようなセールスだろうと思っていたんだ。でも、蓋を開けるとそうじゃなかった。だから、僕らにとってあのアルバムは、僕らの期待を良い意味で大きく裏切ってくれた最高のアルバムなんだ」。
不勉強にしてタイで発売されているアルバムは聴いたことはないが、きっとメンバーの成長ぶり以上に、彼らを取り巻くシーンが急速に変貌を遂げ、受け入れ側の準備が整ってきたのではないか。要するに、需要と供給のバランス、タイミングが合ってきた、ということである。彼らのPVがYouTubeで再生回数1,000万回を超えたというのは、まさしくその証左だ。
東南アジアではシンガポールがかなりの音楽都市として知られ、また近年ジャカルタではエリア最大級の音楽イヴェント〈Java Jazz Festival〉が開催されているが、果たしてタイの音楽シーンはどのようになっているのだろうか?
「今のタイの音楽シーンは隆盛期と言えると思う。いろいろなジャンルの音楽で溢れているから。大きく分けるとポップ・ミュージックとタイのカントリー・ミュージックがメインで流行っているね。ただ、そのカントリー・ミュージックの新世代が、いま着々と人気を獲得している感じだよ。メイン・ストリームには食い込まないけれど、ヒップホップもインターネットを通じて徐々に認知されている。僕らはどちらかというとインディー路線だね。レーベルもそうだし、オールドスクールなシンセ・ポップを演っているし。でも僕らに近いアーティストは、トイズ(The Toys)やルクーピーチ(Lukpeach)、テレックス・テレックス(TELEx TELEXs)、DCNXTRなど、結構存在しているんだ」。
前述した、ポリキャットに先駆けて日本デビューしたイックバルの存在は知っているのだろうか?
「知らなかったから、いま調べたよ。たぶん僕らと似たような音楽性だよね。すごく好きだな。コード進行とヴォーカルの声がすごくイイね」。
これまでにJ-Popのカヴァーを少なからず取り上げているイックバルだが、自身のオリジナル曲に日本詞を載せたのはポリキャットの方が先。日本デビュー盤『土曜日のテレビ』収録曲のうち4曲は、誰もがビックリ、シッカリした日本語で歌われている。
「最初のアイデアでは、タイ語で歌うシティー・ポップだったんだ。だけど、レーベル・オーナーの助言で、〈日本らしい音楽をやるのに、なぜ日本語で歌わないんだい?〉って訊かれてね。〈確かに!〉って僕らは思ったんだ。だから日本語で歌ったんだよ」
なるほど、日本に住んでいるとあまりわからないが、東南アジアの音楽マーケットに於いて、日本がどのようなポジションにいるのかが伝わってくるエピソードだ。韓流のように芸能チックなメジャー・アーティストたちとは大きく違うインディー・シーンで、しかし彼らは地に足がついた歌をカジュアルに歌い、同世代からの共感を得ようとしている。少し前であれば、彼らはきっとガレージ系のオルタナティヴなポップ・ロックを演っていたことだろう。それがいまでは、シティー・ポップやAORになっている。日本ほどではないが、アナログ・レコードを愛でるリスナーたちも少なからずいるそうだ。歌詞はまずヴォーカルのナ(Ratana Janprasit)が最初にタイ語で書き、それを日本語に翻訳しているそう。