受け継がれてゆくニューオリンズのスピリット
プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンドは、1961年から続くニューオリンズのヴェニュー、プリザヴェーション・ホールの専属バンド。地元で定期的にライヴを重ねながら、コーチェラやボナルーやフジロックなど、大型フェスでも聴衆を湧かせてきた。今回話を聞いたのは、ライヴのために来日したリーダーでベーシストのベン・ジャフィ。93年にバンドに参加したメンバーだ。
「僕がバンドに参加したのは22才の時だったけれど、その時、最長のメンバーが93才だった。93年から98年の5年間に3人のメンバーが他界した。そこから新しい世代が台頭して、バンドが徐々に変わっていった。20年近くこのバンドにいて、もはや自分はバンドの中では若僧ではなくなった。ミュージシャンとしても成長したし、バンドの中でも古参になったんだ。その時に、自分の義務や役割に気付いた。そう、新しい世代のミュージシャンを紹介していくという任務があると思ったんだ。自分が若僧だった時に上の世代にそうしてもらったように、若いメンバーをフックアップしなきゃと思った」
そんな彼らの最新作『ソー・イット・イズ』は、リリース前に3人新たなメンバーが加入し、キューバをテーマに制作された。TVオン・ザ・レディオのデヴィッド・シーテックがプロデューサーに迎えられ、メンバーがキューバを訪れた際に得たインスピレーションが大きく作用した作品となっている。
「アメリカではニューオリンズを南部っていうけれど、実は南部じゃなくて北カリブなんだよ。キューバとニューオリンズは僕らにとっては繋がっているということ。実際、キューバ音楽を聴くとニューオリンズっぽいなって思ったし、キューバの人たちも僕らの音楽を聴いてこれキューバ音楽だなと思ったらしいんだ。だから、キューバを訪れてみて家族と再会したような気分だった」
そんな彼らの来日公演だが、実に瑞々しくフレッシュな演奏が繰り広げられていた。バンド最高齢(83才)のチャーリー・ガブリエルが健康上の理由で来日をキャンセルするというアクシデントもあったが、そのぶん若手が奮起。サックス、トランペット、トロンボーンがパワフルなブロウを聴かせ、ラストでは客席に降りて演奏。ドラムのシャノン・パウエルは、ドラム・ソロを披露するのみならず、ゴスペル流儀のヴォーカルをたっぷり聴かせてくれた。伝統を保ちつつも、革新を恐れず前進する彼らの姿勢が浮き彫りになったライヴだった。受け継がれてゆくニューオリンズのスピリットの片鱗を見た。そんな思いだ。