その名前だけでも、皮膚感覚で、伝統とか積み重ねの重みのようなものを感じてしまう人もいるだろうか。ニューオーリンズ・ジャズを継承~流伝するために1961年に同地に構えられたのがプリザヴェーション・ホールであり、そこを根城とする映えある楽団が同ジャズ・バンドだ。

PRESERVATION HALL JAZZ BAND プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド ザ・ベスト Sony Music Japan International(2014)

 「生まれたときにすぐ横にあったわけで、僕にとってはあまりに普通に存在するものであり、ワクワクするものではなかった。他の人の話を聞いて、そんなにドキドキできる場なのかと思ったりもしたな(笑)」

 そう答えるのは、現在バンドの音楽監督をしている、ウッド・ベース他を担当するベン・ジャフィ(写真、一番左)。1971年生まれの彼は同ホールを設立し、同バンドの一員でもあったアラン・ジャフィの息子だ。

 「ニューオーリンズという、音楽が背骨にある街にはずっと誇りを持っていた。小さな頃から、父と一緒にパレードやジャズ・フューネラルに加わり、無形のものを受け取っていたからね。我が街と音楽は不可分な関係にあり、僕も他のメンバーもミュージシャンになるのは生まれた時に決まっていたんだよ」

【関連動画】プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンドの2013年作『ザッツ・イット!』収録曲“That's It!”

 

 音楽専攻の大学を卒業した1993年、バンドに加入。当初は父親(87年に死去)世代の構成員が多かったが、徐々に代替わり。より良いサポートを心配りする立場から、新しい創造のためのインスピレーションを与える存在へと、彼の役割は変わっていった。

 「その変化が実を結んだのが、新作『ザッツ・イット!』だ。やっと、我々の“新しい顔”というものにたどり着いたと思っている。過去のニューオーリンズ音楽の歴史に敬意を持つことと今の自分たちを反映させることは相反することではない。それは、ライ・クーダーがやったブエナ・ビスタも、ザ・ブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマレディスミス・ブラック・マンバーゾも同じ。我が先達のジェリー・ロール・モートンだって、昔から新しいものを意識してやっていた。第一、僕はルイ・アームストロングだけじゃなく、ジェイ・Zにも影響を受けているわけだからね」

PRESERVATION HALL JAZZ BAND ザッツ・イット! Sony Music Japan International(2013)

 伝承から創造へ。その逞しくも、楽しさに満ちあふれた表現の流れは、その歩みを括った『ザ・ベスト』→『ザッツ・イット!』と聴けば、“一聴”瞭然。そして、それは米国黒人音楽に脈々と流れる音楽大河を高揚感やペーソスを介して鮮烈に受け止めることに他ならない。ちなみに、すべてオリジナル曲で固めR&B/ヴォーカル濃度を高めた新作は、彼と米国個性派ロック・バンドであるマイ・モーニング・ジャケットジム・ジェイムスが共同制作。ベン曰く、「同じヴィジョンを持つジムは、まさに同士」とのことである。