ゲイリー・ニューマンが9月にリリースした最新アルバム『Savage (Songs From A Broken World)』が、全英チャート第2位に輝いた。また、それに先駆けて彼は、今年5月にUKの権威ある音楽賞、アイヴァー・ノヴェロ賞でソングライティングを称える〈インスピレーション・アワード〉を受賞している。すでに前作『Splinter (Songs From A Broken Mind)』(2013年)も全英20位を記録していたが、ここにきて完全復活を果たしたと言っていいだろう。

70年代後半にチューブウェイ・アーミーとしてデビュー。シンセサイザーの無機質なサウンドを使いながら情緒溢れる音楽を奏でるスタイルを確立し、同バンドでのセカンド・アルバム『Replicas』(79年)と、続くソロ名義での初作『The Pleasure Principle』(79年)、さらに『Telekon』(80年)と3作連続で全英トップに輝く快挙をなしとげたのは、今から37年ほど前のこと。エレクトロニック・ポップを代表するアーティストとして一時代を築いたゲイリー・ニューマンだったが、やがて時代の流れのなかで第一線からは退いていった。

しかし、90年代も半ばになるとフー・ファイターズやマリリン・マンソンが“Down In The Park”を、続いてナイン・インチ・ネイルズも“Metal”をカヴァー。その他にもメタル系ではフィア・ファクトリーが“Cars”を取り上げたり、クラブ系ではアーマンド・ヴァン・ヘルデンが、やはり“Cars”をサンプリングに使った“Koochy”で大ヒットを飛ばす。また、デーモン・アルバーンやオーブらが参加した『Random: Gary Numan Tribute』(97年)というトリビュート盤も作られるなど、ずいぶん前から再評価に向けての機運は何度も高まっていたものの、本人の復調にはなかなか結びつかない状況が続いていた。

ようやくとも言える今回の復活の背景にはさまざまな要因があるようだが、なによりも大きいのは、数年続いたという精神的な苦境を乗り越え、充実した内容の作品を完成させたことだろう。実際に『Savage』の音には力強い生気が漲っているし、コンセプトも世界の現実にきっちりと対峙したものになっている。以下、最新のインタビューをお届けしよう。

GARY NUMAN 『Savage (Songs From A Broken World)』 BMG/HOSTESS(2017)

 

ドナルド・トランプへのリアクションとして出来上がったアルバム

 ――最新作の全英2位獲得おめでとうございます。すでに前作を発表した頃には、自分自身でも、アーティストとしてふたたび大きな充実期を迎えているという実感を得ていたのではないかと思うのですが、現在の心境を聞かせてください。

「正直、最高の気分だった。最初は信じられなかったよ。発表までは緊張がどんどん増して、妻から結果を聞いた時は、涙が出た。いろんな感情が沸き起こってきてね。79年と80年に自分のアルバムがNo.1になった瞬間も素晴らしかったけれど、それから30年以上、そういうことは起こらなかった。でも、とにかく音楽を作って作って、この場所にまた戻ってきたんだ。1位ではなくても、長年がんばってきて掴んだものだから、自分にとってはかなり大きな意味のあることだね」

『Savage (Songs From A Broken World)』収録曲“ When The World Comes Apart”

――90年代のオルタナティヴ・バンドたちによるゲイリー・ニューマン再評価は、かなり以前から始まっていたので、もっと早くこうなっていてもよかったと思うのですが、どうしてここまで時間がかかったのだろうかと自分では思いますか?

「自分ではわからないな。ただただ、今それが起こったことが嬉しいだけさ。すごく美しい瞬間だったから、待つ価値はあったと思う。心から幸せを感じているよ。ここ25年、自分が書いてきた音楽は極めてヘヴィーだったから、あまりラジオ向きではなかった。多くの人に届けるという点で、それは大きな問題だったかも。

まあそれだけでなく、理由はさまざまなんだと思う。でも、今回はタイミングもあったんだろうし、レーベルも本当にがんばってくれた。今回のアルバムの音楽はヘヴィー過ぎないし、コーラスのメロディーもしっかりとしている。それも良かったんだろうね」

――最新アルバム制作時のムードなどについては、それまでと何か違ったところがあったでしょうか?

「前回との大きな違いは、ドナルド・トランプ。それがすべてだね。アルバムの曲を書きはじめたときは、環境や気候に関するものを書くつもりは全然なかったんだ。ただ書きたいがままに曲を流れに任せて書いていた。同時に小説も書き進めていたのだけれど、そちらの方でそういったことをテーマに執筆していたんだよ。

そんななか、トランプが現れた。彼が現れたことで、その問題がますます大きくなるように感じた。そして、3、4曲目を書いている時点で、このアルバムが自然と小説の音楽ヴァージョンになっていることに気がついたんだ。それが結果としてアルバムのコンセプトになった。

トランプがいなかったら、そうはなっていなかっただろう。彼の発言へのリアクションとして、このアルバムが出来上がったんだ。賛成できないことがたくさんあったし、聞いていてむず痒かった。みんながせっかく地球温暖化を理解しつつあり、世界がそれに対して取り組もうとしていて、それが過去の問題になりつつあったのに、彼が就任したことによって、それがまた突然大きな問題になったわけだからね」