ゲイリー・ニューマンの新作『Intruder』が好調だ。さる5月にリリースされた同作は前作『Savage (Songs From A Broken World)』(2017年)に続き全英チャート2位を記録、健在ぶりを見せつけているのである。

78年にチューブウエイ・アーミーとしてセンセーショナルなデビューを飾ってから40年近く、コンスタントに活動を続けてきた。シンセ・ポップの元祖としての実績・名声は揺るぎないが、彼のすごいところは、ここ数年音楽的に過去最高と言っていいぐらいの充実期にあることだ。ダークでゴシックでインダストリアルなエレクトロニック・サウンドは完全に今の音楽として機能していて、同時期に現れたニューウェイヴ組たちの多くがノスタルジーでしかないのに比べ、彼の現役ぶりは歴然としている。

初めてインタビューした彼は予想以上に雄弁で、そして論理的。自らの音楽についてここまで冷静客観的に分析・説明できるミュージシャンはそうそういない。ひとつの質問に対しての答えが懇切丁寧すぎて、用意した質問の半分も訊けなかったのが残念。

 

やれることは全部やった

――アルバムのリリースから3週間が経ちましたが、反響はいかがですか?

「素晴らしいね。自分が予想していた以上の反響があるよ。実はちょっと心配していたんだ。前作がイギリスで2位になったので、今回もそれくらいのいい成績を残せるかどうか、けっこうナーヴァスになってたんだよね。でも、私自身はこのアルバムの出来にはとても満足していて、アートワークなども含め、やれることは全部やったと思える作品だよ」

『Intruder』収録曲“Intruder”

――『Intruder』は、ここ最近のあなたのアルバムではもっとも充実した作品だと思います。今作がこれほどの傑作に仕上がった要因はなんだと思いますか?

「おそらく、プロデューサーのエイド・フェントン(Ade Fenton)のおかげだろうね。もちろん私が曲を書いているけど、私が作ったデモに彼が手を加えてくれた。その貢献が素晴らしかったんだ。サウンドを非常にプロフェッショナルなものに仕上げることができた。

もうひとつ理由を挙げるなら、私がここ最近、すごくいい状態にあることかな。ソングライティングに関して、ここ2、3作はとてもいい状況にある。それが今回のアルバムで消えてしまうんじゃないかとちょっと不安だったけどね(笑)」

――ちょっと心配しすぎじゃないですか(笑)?

「おかげさまで、ソングライティングについてはいい状態のままでいられていると思う。長いキャリアを象徴するような時期だと感じている。そういった私の曲とプロデューサーの貢献、その2つが重なって、素晴らしい作品が出来たと思うね」

 

鬱を吐き出した『Splinter』、アポカリプス後の未来を描いた『Savage』

――新作は『Splinter (Songs From A Broken Mind)』(2013年)、『Savage (Songs From A Broken World)』という2作を受けた作品です。前2作はどういうアルバムで、あなたにとってどんな意味を持つ作品だったのでしょうか?

「『Splinter』は、2009年頃から苦しんでいた鬱状態の時期に作ったもので、そのことを吐き出した作品だった。非常に大切な作品で、鬱状態を切り抜けること、自分が置かれている状態や何が起こっているのかを理解することの助けになってくれたアルバムなんだよ」

――ええ。

「“Lost”という曲を例に挙げよう。私と妻は長年――もう30年以上一緒にいるんだけど、当時は私の鬱状態がひどくて、2人にとって初めてと言えるぐらい辛い状況に陥っていた。私は妻の元から去ろうと思っていたし、妻もそう考えていたから、悲嘆に暮れるばかりの毎日だった。

そこで、“Lost”を書いて、自分の感情や、私が犯したひどい過ちを理解しようとしたんだ。愛すべき思い出や大切なことは、口論をしてしまうと忘れてしまいがちだ。でもあの曲を書くことによって、その大切なことを思い出すことができた。だから『Splinter』は非常にパーソナルなアルバムだけど、私の人生においてとにかく重要で誇るべき作品なんだよ」

2013年作『Splinter (Songs From A Broken Mind)』収録曲“Lost”

――なるほど。

「『Savage』は、まったく別の作品だ。気候変動の問題がベースになっている。未来の、アポカリプスの100年後の人類が主人公だ。なので、SF的な作品と言える。人類がそれに対処しなかった場合にどうなってしまうのか、とかね。両作は、どちらもまったく異なる理由で、私にとってとても重要なアルバムだね」

――2作は、今作にどのように繋がっていったのでしょうか?

「『Splinter』とは繋がっていないね。『Savage』は、気候変動問題による、人類のありうべき未来についての作品で、『Intruder』は、現在の問題にフォーカスしている。ただ、人類というよりは地球の視点から描いたアルバムなんだよね。もし、この星が言葉を話せたらどんなことを語るか、世界の状況についてどんなことを感じているか――そういったことに重点を置いている。なので、この2作は気候変動問題で繋がっているけど、前者は人類の視点から人類の未来を描いたもので、後者は地球の視点から現在の問題を描いている、という関係性にあると言えるだろうね」

 

娘の詩から生まれた『Intruder』

――『Intruder』の構想は、いつどのような形で生まれたのでしょうか?

「制作は2年ほど前にスタートした。ただ、気候変動という点で前作『Savage』と次の作品をどう繋げるか考えていたんだけど、それがぜんぜん思い浮かばなくてね。

そんななか、当時11歳か12歳だったいちばん下の娘のエコー(Echo)が、『Earth』という詩を書いたんだ。そのポエムは、私たちの星(地球)が太陽系の他の惑星に話しかけているというもので、人類がいかにひどいことを地球に対してやっているのかを語っているものだった。とても美しい詩だったよ。彼女は、いまの地球の状況を深く理解していて、地球への強い共感やエンパシーを持っている。それが『Intruder』のコンセプトに繋がっていった。つまり、私は娘のアイデアを盗んだというわけさ(笑)」

――じゃあ娘さんにお金を払わないと(笑)。

「実は1か月前に、娘にはアイデア料を支払ったんだ(笑)。彼女はそれを使って、自分の部屋をデコレーションしてるよ」

――いい話です。

「娘の名前はアルバムにクレジットされていて、彼女の詩はアルバムのすべてのフォーマットで読めるようになっている。だから、彼女にもお金が入ってくる。それは当然のことで、彼女の詩からこのアルバムはスタートしたのだから、彼女なしにはこのアルバムはありえなかった。とても感謝してるよ」

 

才能あふれるプロデューサー エイド・フェントンの貢献

――では、アルバム制作のプロセスについて教えてください。

「全曲、ピアノからスタートする。朝、スタジオへ行って、まったくなんのアイデアもない状態で鍵盤を前にして、何かが降りてくるのを待つ。どの曲もメロディーから始まるんだ。そのメロディーを繋ぎ合わせていき、いい音だと思えたらコンピューターに入力して、音をレイヤリングし、すべてフルのレベルのプロダクションまで自分で行う。エイドに送る前に、自分でプロダクションまでやってしまうんだ。

歌詞は、音がすべて仕上がった状態から書きはじめる。というのも、音楽がドライヴして、歌詞を導き出してくれるからね。音楽がムードや雰囲気を作ってくれて、それが言葉をドライヴさせて、自分が描きたいものへと導いてくれる。前の段階が次の段階へ導いてくれる。事前に計画することは、まったくない。私は、次に何が来るかをただ待っているだけなんだ。曲が音楽を、音楽がプロダクションを、プロダクションが感情や雰囲気を、それらがリリックを、そしてリリックがヴォーカルを導いてくれる。

すべてが出来上がったら、それをエイドに送るんだ。私はLA、彼はイングランドにいるので、会うことのないままにファイルを交換して作り上げたんだ」

――同じ部屋で作業をしたわけではなかったんですね。

「ああ、ファイルのやりとりだけだよ。でも、FaceTimeで何度も話し合ったり、一緒に音楽を聴いたりしたから、十分コミュニケーションはとれている。彼のおかげで、よりよいプロフェッショナルなものになったんだよ」

――プロデューサーのエイド・フェントンは、2006年のアルバム『Jagged』以降、今作まで、あなたのすべての作品を手がけています。改めて、彼はあなたの創作プロセスにおいてどんな役割を果たしているのでしょうか?

「一人で作業していると、時々、それが良いのか悪いのかがわからなくなってくるときがある。エイドは、そんなときに自信を持たせてくれるんだよ。〈すごくいいね〉とか、あるいは逆に、〈それはよくない〉とかはっきり言ってくれるんだ。確信を持てないとき、信用できる助けほど大事なものはない」

――わかります。

「でもそれを超えて彼が素晴らしいのは、そのスキルや才能だ。曲を送ると、すぐに音の方向性を理解してくれる。曲のダイナミクス――曲のクライマックスや静かな部分、そして曲の流れなど、彼に渡す前の私の努力をすべて理解してくれる。そして、それに磨きをかけてくれる。音楽に込めたオリジナルのフィーリングや響き、ダイナミクスをすべて把握して、よりクリアに、プロフェッショナルなものにしてくれる。

それは、彼の才能やスキルがあってこそで、他の人が簡単にできることじゃない。私の音楽への理解やシンパシーがあるからこそなんだ。彼の今作への貢献は非凡で、ずば抜けたものだよ」

 

トランプに感謝しないと

――今作を作るにあたって、特に心がけたこと、注意したことは?

「特にこれというのはないね。というのも、私にとってはすべての要素が重要だから。歌詞が語っていることを表現するために、それをバックアップする音楽はその感情に合った、素晴らしいものであることが必要だ。音楽がそういうものでなければ、歌詞が力強いものとして伝わらない。素晴らしい音楽でも、馬鹿げていて子どもじみた歌詞だったら、音楽のパワーが台無しになる。両方が非常に重要なんだよ。アルバムのスリーヴもそう。イメージやアートワークも、すべてが重要だ。スリーヴがなければ、『Intruder』というアルバムも機能しない。

『Intruder』カヴァー・アート

すべてが繋がっていて、重要で、繊細に結合している。個々のパーツだけを取り上げても良い悪いの判断ができない、複雑な機械のようなものにすごく近い。噛み合った歯車が同時に動くことによって機能する機械というかね。不要な部分はひとつもない。すべてが重要なんだ」

――前作の制作時に大きなトリガーになったのがドナルド・トランプの登場だったと聞いています。ありがたいことに、彼はもう大統領を退きましたね(笑)。

「ははは(笑)。そうだね」

――今回、そうしたトリガーとなるものは娘さんの書いた詩だったのでしょうか?

「そうだね。実は、前作の『Savage』を作っていたとき、気候変動についての作品を作ろうとは意図していなかったんだ。ただ当時、『Ruin』という本を書いていて――まだ書き上げていないんだけど――その本の内容が『Savage』のテーマになったんだ。その本からアイデアを借りてきて、アルバムが気候変動についての作品になっていったんだ。

その後、ドナルド・トランプが現れて、彼が〈気候変動なんてない〉と言ったり、パリ協定から離脱したり、何も対処をしなかったりと、彼の無知に対するリアクションのようなものとして『Savage』が出来上がった。『Intruder』は、『Savage』から始まった旅路の途上にあるものだね。なので、ドナルド・トランプに感謝しないといけない(笑)」

 

人類に裏切られた地球が叫びを上げている

――『Intruder』の歌詞のテーマについてもう少し詳しく訊かせていただけますか?

「どの曲も、地球の視点から、地球が感じていることを書いている。1曲目の“Betrayed”では、私たち人類から裏切られた地球の思いを綴っている。人類が地球にとって〈新しいもの〉だったとき、地球は生命に必要なものをすべて与えて、私たちはそれによってまったく別の生き物へと進化できた。私たち人類は地球と共に育ってきたけど、いまは地球に歯向かって、恩を仇で返している――そういう曲なんだ。

“I Am Screaming”は、地球が叫んで人類に問題を指摘している、という曲。地球は、私たちに大きな警告を発している。気候変動による災害や嵐、海面上昇、(北極と南極の)氷が溶けていること――これらは地球の叫びで、警告なんだ。〈私の声が聞こえないのか、これが見えないのか〉という苦しい叫びを人類が無視していること、そのフラストレーションについて書いた曲だ。

『Intruder』収録曲“I Am Screaming”

“The Gift”という曲は、コロナ禍についての曲。地球がCOVID-19を〈武器〉として人類の数を減らそうとしている、というもの。地球のメカニズムが人間たちに反撃して、人口を減らして地球へのダメージを少なくしようとしているということ。

『Intruder』収録曲“The Gift”

アルバム全体は、矛盾について書かれているね。神の存在する証拠はないのに、多くの人々が神の存在を信じようとしている。でも、気候変動のような地球の危機はたくさん証拠があるにもかかわらず、多くの人々が目を逸らし否定して、信じようとしない。人々は信じがたいことについて、信じようと努力している。けれども、多くの巨大な証拠があるのもかかわらず、気候変動の問題を認めていない。これほど明確なのに、無関心でいる。そんな2つの矛盾した考え方を描いているんだ。

そして“The End Of Dragons”については……。私は、ドラゴンがたまらなく大好きなんだよ(笑)。ドラゴンを愛していて、庭に20個もドラゴンの銅像を置いている。

『Intruder』収録曲“The End Of Dragons”

それはともかくとして、“The End Of Dragons”では、ドラゴンの神話と地球の状況をパラレルに描いている。ドラゴンは、人に滅ぼされた生き物だ。それは、私たちがいまこの星に対してやっていることと重ね合わせて考えられるね。地球は生き延びようとしていてそれに対して反撃して、人類は敗北寸前だ。なので、両者にちがいはあるが、パラレルに考えることによって見えてくるものもある。

そして、“A Black Sun”は、14歳の真ん中の娘が書いた素晴らしい歌詞による曲で、人類に対する愛が変化していくことについて書かれている。地球は人類を迎え入れて必要なものをすべて与えてきたのに、私たちの態度が変わってしまって、愛するどころか地球を傷つけている。それに対して地球は反撃している、という状況だ。

『Intruder』収録曲“A Black Sun”

子どもの頃の愛というのは、すごく純粋だよね。親も若くて、親の死なんて想像もできないし、愛の終わりは遠い先、永遠に続いていくかのように感じる。その間は夢も見られるし、夢を叶えるための時間も十分にある。でも、時間が経って年を取っていくと、愛は痛みに変わっていく。私はいま63歳だが、妻を見て、〈私たちにはあとどれくらいの時間が残されているのだろう?〉と思うんだ。子どもの頃はピュアで痛みのなかった愛が、痛みに満ちたものに変わっていく。親やパートナー、自分の死や変化を見るにつけ、恐怖を感じるようになる――そういった変化について書かれた曲なんだよ。

ドラゴンの神話もそうだし、いま私たちが置かれている状況もそうだし、このアルバムではどの曲も地球の状況とパラレルに、同じ状況を描いたものだと言えるんだ」

 

私たちには時間がない。次世代こそチャンスを握っている

――気候変動や地球の危機という緊急事態に直面している私たちは、地球に対してどんなことができると思いますか? 

「私たちの世代にできることは、問題をより多くの人々に広めて、説得しようとすることだけだ。投票によって、私たちが直面した喫緊の問題である気候変動やこの危機に対して、多くの人々が行動を起こすようにすること。政治家たちにプレッシャーをかけて、彼らが行動できるように背中を押すこともできる。いまの世代が直接的な対処を実行に移すことは難しいかもしれないが、次世代こそがチャンスを握っていると信じている。私たちができるのは、変化を遅らせることだけだ。

ジョー・バイデン大統領は、とても正しいことをやっている、ただ、彼が動かせるのは議会の半分だけだ。もう半分の共和党議員は、彼のやることすべてに反対している。そして、マジョリティーは危機を認めていない。彼が状況を進展させようとしても、そこには大きな障壁がある。なので、私たちはそういった人々を説得する――アメリカについて言えば、共和党派の人々を説得し気候変動の危機を認めさせて、バイデンがより多くのことができるように助けることが必要なんだ。それしか、やれることはない。

抜本的な変化はもちろん必要だと思う。それには新しい世代の人々の思索や行動が必要になってくる。抜本的な変化を起こすには、たくさんの人々を動かすための膨大なエネルギーが必要だ。それをこの世代が果たすのは難しい。トランプがホワイトハウスにいた4年間は、気候変動を認めない彼の無知が大きなダメージになって、フェイクを信じるように人々の考えを捻じ曲げてしまった。この厳しい状況でできることは、多数の証拠を見せて、より多くの人々が問題に気づけるようにすることだけだ。そして、次の世代がそれを実行できるように繋げていくこと。いずれにせよ、私たちの世代にはそれほど時間が残されていないんだ」

 


RELEASE INFORMATION

リリース日:2021年5月21日
配信リンク:https://garynuman.lnk.to/IntruderTW

TRACKLIST
1. Betrayed
2. The Gift
3. I Am Screaming
4. Intruder
5. Is This World Not Enough
6. A Black Sun
7. The Chosen
8. And It Breaks Me Again
9. Saints And Liars
10. Now And Forever
11. The End Of Dragons
12. When You Fall (Bonus track on deluxe CD, vinyl and digital formats)
13. The End Of Dragons (Alt Piano) [Bonus track on vinyl and digital formats]