Page 2 / 3 1ページ目から読む

中東も西洋もすべての人種がひとつになっている近未来を描く

――前作『Splinter』には〈Songs From A Broken Mind〉というサブ・タイトルがついていたのに対し、今作『Savage』には〈Songs From A Broken World〉と対になるような言葉がつけられています。これらのアルバムには何か関連があるのでしょうか?

「この2作品のテーマはまったく違うものなんだ。『Splinter』の制作当時、僕は3年間ほど鬱を抱えていて、すごく大変な時期にいた。曲を書くことで自分について深く考え、精神状態のバランスを保っていたんだよ。自分が何を書こうとしているのか、何を伝えようとしているのかを探りながらね。まるで、自分のセラピストや心療内科医と話しているような感じ。だからある意味、『Splinter』は自分にとってセラピーのようなアルバムだった。

でも今作では、前回のように不安定ではなかったし、以前よりもハッピーだった。『Savage』はパーソナルな内容ではないし、未来科学主義について書かれている。サブタイトルが表している通りにね。サブタイトルをつけようと思ったのは、僕の娘の発言がきっかけだった。〈パパ、今度のアルバムのテーマは何なの?〉と聞いてきたから、それを説明したら、〈じゃあ、壊れた世界についてのアルバムなのね?〉と言ってきたんだよ(笑)。それを聞いて、良いサブタイトルだなと思ったんだ(笑)」

『Splinter (Songs From A Broken World)』収録曲“I Am Dust”

――ジャケットのイメージもあってか、アルバムのあちこちにエキゾティックなムードが感じ取れます。こうした要素はどのようにして出てきたものなのでしょうか?

「それは中東からの影響が関係しているんだと思う。アルバムのなかでは、中東の楽器もいくつか使用しているよ。執筆中の小説とも関係しているんだけれど、その小説のテーマは近未来で、そのイメージのなかに、中東も西洋もすべての人種がひとつになっているというのがあるんだ。温暖化が進み、地球からは水がなくなり砂漠だらけ、そんな状態で、みんな人種や宗教のことなんて考えてはいられない。同じ問題を抱える立場にいる我々は、仏教であろうが、キリスト教であろうが、肌の色が何色であろうが、そんなことを考えている時間も余裕もない。誰もが、ただただ生きようと必死なんだ。それで、アルバムの音楽でもそれを表現したくて、中東の音楽の要素を取り入れることにした。

あと、個人的に中東の音楽が好きなんだ。本当に美しいと思うし、西洋のメロディーとは違うからね。アルバムのジャケットに書かれた文字もアラビア語に見えるけれど実は英語で、それを通しても、世界がひとつになることを表現したかった。ジャケットの人物が着ている服も、中東の人が着ている服に見えて、実は違うんだ。ものすごく暑い状況のなかで人が何を着るかを想像して考えた。あれくらい肌を隠したくなるだろうと思ってね。ジャケットのデザインから音まで、全部がテーマと繋がっている。このプロジェクトは、自分にとって本当に大きなプロジェクトなんだよ」

――つまり本作は、その小説のサウンドトラックのような作品なのでしょうか?

「その通り。曲の中では、小説の中のキャラクターや状況が表現されている。例えば“My Name Is Ruin”という曲があるんだけど、〈Ruin〉というのは小説に出てくる登場人物で、彼の娘が誘拐され、彼女を見つけるために〈Ruin〉は旅に出るんだ。その旅を通して、彼はどんどんアグレッシヴになっていく。それで、〈Ruin(破滅、堕落)〉というあだ名をつけられるんだけど、ついに娘を見つけたとき、彼は自分が前とは違う人間になっていて、父親としてはもうふさわしくない人間であることに気が付くんだ。

これは一例で、アルバムではさまざまなストーリーやフィーリングが表現されている。インダストリアルなサウンドと壮大さを兼ね備えた作品に仕上がったと思うよ」

『Splinter (Songs From A Broken World)』収録曲“My Name Is Ruin”

 

僕自身はテクノロジーに恐れを感じている

――ところで近未来が舞台といえば、最近日本でも続編が公開され「ブレードランナー」(82年)には、あなたが79年に作った『Replicas』というアルバムが影響を与えていると言われていますね。あなた自身は、フィリップ・K・ディックの原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(68年)について、当時どのように捉えていたのでしょう?

「僕はフィリップの大ファンで、12歳くらいのときから彼の本を読んでいる。影響も受けているし、僕にとっては大きな存在だね。彼の未来の見方、捉え方に魅力を感じた。テクノロジーが未来を支配するという考え方は、自分たちが正に進んでいる方向だと思うし、それに魅了されて、あの本は何年間も繰り返し読んでいたよ」

――もし続編の「ブレードランナー2049」をご覧になっていたら感想を教えてください。

「あの映画はもう2回観た。すごく良かったよ。素晴らしかったし、美しかった。最初に映画館で観たときは、サウンドがあまり聞こえなくて、セリフを理解できない部分がいくつかあったんだ。だから、映像を楽しむことにした。ヴィジュアルはすごく美しかったね。そして、2回目は字幕が付いた作品を上映している映画館に行くことにしたんだけど、そこでやっとセリフを十分に理解することができたんだ。映画をより理解できたし、本当に最高だった。また観にいくと思うね。それくらい気に入ったよ」

「ブレードランナー2049」予告編

――人間の孤独感について、アンドロイドという存在を通して深く思いを寄せるという手法が持つ魅力について、今どう考えますか?

「実は、僕自身はあまりテクノロジーのファンではないんだ。テクノロジーには恐れを感じている。

子供にも、あまり深くは関わらせないようにしているんだ。14歳になる長女にだけスマホを使うことを許可していて、下の2人はiPodとiPadを使うことだけ許可している。それでもすごく厳しくしていて、平日は使用を一切禁止しているし、週末のほんの数時間だけ使用していいことにしているんだ。車の中では使っていいことにしているけれど、それも音楽を聴くことのみ。レストランで食事をしていたり、友人と一緒に時間を過ごしたりしているときは、自分の子供には会話をしてほしい。ただ座って電話を見ているような子には育ってほしくないんだよ。

人間同士のコンタクトというのはすごく大切だと思う。同時に、使い方を間違えなければ、素晴らしい機能が期待できるものでもあるということは十分に理解しているけどね。使い方が本当に重要で、テクノロジーと関わりすぎないことが大切だと思う。携帯をなくしたら、支払いも、どこかに行くことも、コミュニケーションも何もできなくなってしまうような状態は、とても恐ろしいことだよ」

――アナログ・モジュラー・シンセサイザーに関するドキュメンタリー映画「アイ・ドリーム・オブ・ワイヤーズ」(2014年)は、あなたの曲名からタイトルをとっていますし、出演もされていますね。あなた自身は、エレクトロニック・ミュージックに関するテクノロジーの進化が、自分の作品にどんな影響をもたらしたと感じていますか?

「膨大なサウンドにアクセスできるし、それを操作して作りたいサウンドを実現することもできる。そういうところは素晴らしいと思うし、音楽におけるテクノロジーに関しては、僕は魅了されているよ。可能性を広げてくれるし、作業をスムーズにしてくれる。自分のサウンドパレットを広げてくれるし、アルバム作りをよりエキサイティングにしてくれていると思う。アイデアを素早く形にできるのは素晴らしいよ。

昔は、それをなかなか形にできずに、アイデアの新鮮さや、アイデアそのものが失われることが多々あった。でも今はテクノロジーのおかげで、それをきちんと活かすことが可能なんだ」

「アイ・ドリーム・オブ・ワイヤーズ」予告編