Johnny O'Neal @ Smalls, (C)Takehiko Tokiwa

 

週末のニューヨークの夜にトリップしたような、極上のサウンド

 1980年代にアート・ブレーキー(ドラムス)&ジャズ・メッセンジャーズで脚光を浴びたデトロイト出身のピアニスト/シンガーのジョニー・オニールは、1986年にニューヨークのシーンから姿を消し、アトランタ、セントルイス、モントリオール、デトロイトに活躍の拠点を移した。HIVとの闘病など、幾多の困難を乗り越えて2010年にニューヨークにカムバック、ジャズ・クラブ〈Smoke〉の土曜の深夜、〈Smalls〉の日曜深夜のレギュラー・ギグを務め、そのジャズのトラディションに則ったバップ・スタイルのピアノと、シルキー・ヴォイスが紡ぎ出す歌は、ニューヨーク・シティ・ナイト・ライフの重要なピースとなっている。毎週ステージを共にする、若手のベン・リューベンス(ベース)とイテイ・モーチ(ドラムス)のトリオに、ふらりとクラブに現れてシット・インしたように、ロイ・ハーグローヴ(トランペット、フリューゲルホルン)とグラント・スチュアート(テナー・サックス)がゲストで参加している。

JOHNNY O'NEAL In The Moment Smoke Sessions Records(2017)

 「ギグはいつも私にとって大事なイヴェントだ。だから全ての瞬間にベストを尽くす」というオニールの信条から、タイトルを『In The Moment』とした。オープニング・チューンは、今年生誕100年を迎えたセロニアス・モンク(ピアノ)に捧げた。1979年に初めてニューヨークにやってきた時、デトロイトの大先輩のバリー・ハリス(ピアノ)に連れられてモンク邸を訪れ、夢のような時を過ごしたそうである。アルバムには、ヴォーカルをメインにしたジャズ・スタンダード、メッセンジャーズ時代からプレイしていたオリジナル、そしてホイットニー・ヒューストン(ヴォーカル)、アース・ウィンド&ファイアーなどのカヴァーはピアノに専念し、スタンダード曲と全く違和感なくブレンドしている。週末のニューヨークの夜にトリップしたような、極上のサウンドがスタジオで繰り広げられる。現在61歳のオニールは、自らがブレーキー、モンクらから受け継いだジャズの篝火を、共演する若いプレイヤーたちに伝えたいと語る。今その炎は、灯された。