90’sソウルやR&Bをルーツとする若いアーティストを耳にした新しいリスナーにも相応しい内容に

 

デビュー時のキャッチフレーズは〈天使と悪魔を飼う男〉。具体性よりもムードやニュアンスを重視するコピーが躍っていた時代だったということもあるけれど、端正なマスクと180cmを越えるたくましい肉体を持ち、弱冠19歳ながら大人びた表情も漂わせる〈ソウルフルでありながらディープすぎずスウィートすぎない〉ヴォーカルを聴かせていた彼の個性を表すのに、そんな突飛なフレーズも添えたくなる……と今にしても思える。〈R&Bシンガー〉と紹介されることの多い彼だが、デビューした頃はまだ、R&Bというジャンルも日本の音楽シーンにおいて成熟していない時期……。

近年はミュージカルや朗読劇など舞台アクターとしても活躍している彼──米倉利紀が、昨年春にデビュー25周年を迎え、そのアニヴァーサリー・イヤーの締めくくりとして、このたび2編のアルバムを届けた。

『besties: side-a』『besties: side-b plus』と題されたそれらは自身初のオフィシャル・ベスト・アルバムとなるもので、前者はデビュー・シングル「未完のアンドロイド」をはじめとするシングル表題曲やアルバムのリード曲で構成された3枚組、後者はシングルのカップリング曲やアルバム曲、さらに提供楽曲のセルフ・カヴァーなどで構成された5枚組。ほぼ休むことなく活動を続けてきた25年だけに、2作トータルで8枚組109トラックという破格のヴォリュームをもってしてもあくまでハイライトだが、長らく入手困難だった音源も数多く収録されていることから、熱烈なファンにとって非常に喜ばしい内容と言えるだろう。

また、90年代のブラック・コンテンポラリーやUKソウル、R&Bに倣ったJ-POPをプレイしているDJやその時代の音楽をルーツとしているヤング・ジェネレーションのアーティストを耳にする機会も多いことから、それらを体験した新しいリスナーが、米倉利紀の音楽を掘り下げるきっかけになるパッケージとしても相応しい内容と言えるだろう。25年という長い時間をかけて積み上げられたディスコグラフィー、〈今聴いてイイ曲〉もいっぱいだ。