グリーンランド語で歌う最初のロック・バンド〈スミ〉のドキュメンタリー
音楽は社会を変えることが出来るのか? 70年代、アメリカの公民権運動、世界各地の先住民復権運動など多くの人たちが自分たちのアイデンティティを求めて立ち上がった。遠い北の島国グリーンランドも例外ではなかった。「サウンド・オブ・レボリューション~グリーンランドの夜明け」は、そんな時代に結成され、社会に大きな影響を与えたロック・バンド〈スミ〉のドキュメンタリー映画である。
グリーンランドでは、当時母国語で表現活動を行う事はとんでもない事だとされていた。教育もすべてデンマーク語で行われ、デンマークの統治下において従順でおとなしいグリーンランド人であることは非常に重要なことだった。若者たちは皆、高等教育を受けるために親元を離れ本国に渡り、そこで祖国を忘れ、グリーンランド語を忘れていった。
そこに出現したのが、グリーンランド語で歌うバンド、スミである。メンバーは留学先のコペンハーゲンで出会い、このユニークなバンドを結成。中期ビートルズにも似たポップなメロディとプログレッシブなアレンジ、過激なグリーンランド語の歌詞で、グリーンランドの人口の20%がレコードを買うという圧倒的な人気を獲得する。残念ながら学業終了とともにバンドは解散するが、その数年後グリーンランドは自治権を獲得し、教育やメディアなど、すべてが自分たちの言葉を取り戻す方向へと大きくシフトしていく。現在でもデンマークからの完全独立は非現実的だが、住民の90%がグリーンランド語を話すこの状況は、世界の危機言語史上、類のない例だと評価される。地球温暖化の影響を大きく受け、イヌイットの狩猟文化は壊滅的だ。時代とともに人々の暮らしは変らざるを得ないが、少なくとも言語が残れば、それはグリーンランドにおける1つの勝利と言って良いのではないだろうか。映画の中では、スミの意志をつぐ若いバンドの1つとしてナヌークのエルスナー兄弟が紹介されるのも必見だ。