ポップで軽やかな音の裏にある繊細と大胆
フランス語圏と日本の音楽交流を目的とするコンサート・シリーズ〈TANDEM〉で、フランス出身のシンガー・ソングライター、アルバン・ドゥ・ラ・シモーヌが来日した。ライヴでは自ら弾くキーボードにチェロとヴァイオリンが加わった編成で、新作『僕たちの中のひとり』を中心にパフォーマンスした。
「声は、天から与えられたギフト。根本的な質は、レッスンでも変わらないもの。僕の声は繊細なので、それを生かすにはバンド編成ではなく、チェロとヴァイオリンといったアコースティック楽器がいいと発見し、前回のツアーからこの編成になっている」
アルバンは、アレンジャー、ミュージシャンとしても長く活躍し、フランス語圏ではヴァネッサ・パラディの音楽監督としても知られている。その彼が自分の声に合うサウンドを模索し、辿り着いたのが〈スケルトン〉。新作もその方法でレコーディングされた。
「3枚目まではシンセを駆使したアルバムを作っていたけれど、僕の声には合わない。ブカブカの洋服を着ているような違和感があった。それを数年前のツアーで打開することができた。100人収録の会場でマイクを使わず、肉声で歌った時に、これだ!!と確信した。歌を中心に音楽を作ればいい。新作ではピアノを録音し、続いて歌をピアノの前に座って歌った。弾き語りの雰囲気を出すのが狙いで、これを2日間で録り、その後にアレンジする方法でレコーディングしたんだ」
この方法をアルバンは、〈スケルトン〉と呼んでいるわけだが、そのなかでさらなる工夫があった。ピアノの弦とハンマーの間に布を挟み、ピアノの響きを調整した。それがたとえば、アルバム冒頭で流れる、なんともやわらかな音色のピアノを生むことになった。
ライヴではアンコールでさかいゆうと共演し、名曲“La Vie En Rose”を歌ったのだが、どこか不慣れなぎこちなさがあったのが気になった。
「実は生まれて初めて歌ったんだ(笑)。フランスにはこの曲のような古き良きシャンソンがある。歌のレベルが高く、特に歌詞が素晴らしいので、比較されがちというか、美しい歌詞を期待されてしまう。だから、毎回生みの苦しみも(笑)。アルバムは、コンセプトに縛られず、曲を書くなかで見えてくる共通点が毎回あって、新作は、愛と時の流れがテーマになった。愛のない人生は寂しいけれど、愛の存続は難しい。愛の問題に時間が絡むことが多い。そんなことを歌っている」
音楽に限らず、アート界との交流も多いアルバン。動物が映る個性的なジャケットは、フランスの人気現代作家で友人のソフィ・カルの作品だという。