人を喰ったようなバンド名は、もしかしたら誤解を招くかもしれない。というのも、キャベッジがユーモアを備えていることは事実なのだが、彼らは至ってマジなバンドだからだ。己の信念に忠実で、強いモラル意識を備えている。かつ、英国の音楽シーンで起きている大きなウネリを形成するグループでもある。

CABBAGE Nihilistic Glamour Shots BMG Rights/HOSTESS(2018)

 そう、EU離脱を控えて混迷を深める彼の地では、ほかにもナショナリズムの台頭、保守党政権下での福祉切り捨てなどなど問題が山積み。不透明極まりない現状をマイノリティーの視点から語るグライム勢に対し、ロック勢も負けていない。アイドルズ、ライフ、シェイム、ライス……とキレまくったインディー・パンクスが、切迫感溢れる音と言葉で問題提起を行っている。大半はイングランド南部の出身だが、ここにファースト・アルバム『Nihilistic Glamour Shots』を送り出すキャベッジは、誇り高きノーザン・バンド。マンチェスター郊外のモスリーで2015年秋に誕生している。「英国とナショナリズムの関係は好きじゃないけど、ノーザンであることを心から誇りに感じているよ。詩人のテニスンも〈ノースこそ偽りなく情け深い〉と綴っていたしね。右派のシンクタンクは北部の人間を否定することに躍起になっている。でも北部には権力層との闘争の長い歴史があるんだ」(リー・ブロードベント:以下同)との言葉通り、キャベッジもまさにその伝統を継承しているのだろう。

 そんな彼らはBBCの〈Sound Of 2017〉にノミネートされて注目を浴び、精力的にツアーをしながら、実に30以上の楽曲を発表してきた。にもかかわらず、アルバムに収められているのは新曲がほとんど。その時々の時事問題を曲にしてスピーディーに世に出してきただけに、「去年リリースした楽曲でさえ古く感じるから」と新たに曲作りを行ない、コーラルのジェイムズ・スケリーと彼の片腕であるリッチ・ターヴィをプロデューサーに迎えて録音している。音楽的にも、これまでは〈ポスト・パンク系〉とざっくり評されることの多かった5人だが、ジェイムズ&リッチの後押しもあり、ライヴで磨いた演奏力を駆使してスタジオで実験。サーフ・パンクに始まり、ノイズ・ロックやカントリーを経て、サイケデリックなジャムでフィナーレを迎えるまで、恐ろしく多様なスタイルを消化してみせた。他方、リーとジョー・マーティンのツイン・ヴォーカルは引き続き鋭い社会批評を展開し、階級格差、武器貿易、マスキュリニティーといった幅広いトピックを論じる。

 「そういった曲で人々を〈教育する〉なんてことは考えていないんだ。僕は独学ってものを重視していて、人それぞれが常に学び続ける必要性があると思っている。題材は僕らの心を捉えて離さないこと、僕らを悩ませることばかりなんだけど、いまの世界は急速に動いているからネタに不足はないよ」。

 また彼らは、過去にも多数のミュージシャンを魅したオカルティストのアレイスター・クロウリーを影響源に挙げており、曲の中で、あるいは逆さの十字架が見えるジャケットでオマージュを捧げている。つまりすべてにおいていわく付きのアルバムだから、『Nihilistic Glamour Shots』というタイトルにも当然裏がある。グラマラスに見えて実は物事がツールとして悪用されている社会を、現実の世界もデジタルの世界も虚構や偽りだらけの時代を、批評するものだ。

 「〈ニヒリスティック・グラマー〉とは僕らが作った表現で、いまの経済や社会生活やエンターテイメントに対する見解を表している。その核にあるのは、激しい渇望感を生んで無限の消費を招く、人間性を欠いた淀みだ。みんなグラマラスなセレブを真似て買い物をしなければとプレッシャーに苦しみ、SNSのチェックに何時間も費やして自分のエゴを苛み、劣等感を抱き、心に空いた穴を埋めるためにさらに金を使う。そういう暗黒の世界に放たれる〈弾丸〉が、僕らの音楽なんだよ」。

 


キャベッジ
リー・ブロードベント(ヴォーカル)、ジョー・マーティン(ヴォーカル)、オーウェン・クリフォード(ギター)、スティーヴン・エヴァンス(ベース)、アサ・モーリー(ドラムス)から成る5人組。2015年にマンチェスターで結成し、2016年1月にファーストEP『Le Chou』をリリースする。同年末にBBCの〈Sound Of 2017〉へ選出されて知名度を上げ、コーラルのジェイムズ・スケリーをプロデューサーに迎えた2017年のセカンドEP『The Extended Play Of Cruelty』がヒットを記録。その後、ブロッサムズらとのツアーをはじめ、ライヴ活動を精力的に展開するなか、4月4日にファースト・フル・アルバム『Nihilistic Glamour Shots』(BMG Rights/HOSTESS)が日本盤化される。