台湾の室内楽アンサンブル、シカーダ(Cicada)が昨年11月にリリースした最新アルバム『White Forest』を引っさげて4月に再来日を果たす。今回のツアーは全国4都市を周遊。4月12日(木)の福岡papparayrayを皮切りに、13日(金)の北九州・小倉城庭園、14 日(土)の東京VACANT、15日(日)の大阪・天満教会にて公演を行う。
シカーダは作曲とピアノを担当する江致潔を中心とした5名によって結成され、2010年にオーラヴル・アルナルズのライヴのオープニング・アクトとしてデビュー。以来、ポスト・クラシカル・シーンに新風を吹き込む存在として注目を集め、2016年の初来日公演でも成功を収めた。
ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、アコースティック・ギターという編成で、エレクトロニクスを使わず、アコースティック楽器からさまざまな響きを生み出す彼らの音楽は、ミニマルやポスト・クラシカル、ニューエイジだけでなく、ポストロックや音響系の世界観とも共鳴する。聴く人のバックグラウンドによって、変幻自在にその印象を変えるサウンドスケープと言えるかもしれない。
シカーダの創作活動において大きなテーマとなっているのが〈自然〉である。沖縄の南西に位置する台湾周辺の海は、イルカやクジラの生息地としても知られる大自然の宝庫。そんな台湾の海をテーマとしたアルバム2作をコンパイルした『Ocean』(2015年)をリリースして以降、彼らは映画のサウンドトラックやフェスティヴァルへの出演などへと活動の場を広げてきた。それに続くのが、今作『White Forest』。アルバム・タイトルは海底に広がる白い森――すなわち白化した珊瑚礁を連想させる。
クラシック音楽では、歴史上さまざまな作曲家たちが自然からインスピレーションを得て作品を生み出してきた。バロック後期のヴィヴァルディによる協奏曲集『四季』(1723年)、ロマン派・国民楽派のスメタナによる交響詩集『わが祖国』(1882年)より「モルダウ」、近代ではドビュッシーの交響的詩「海」(1905年)など枚挙に暇がない。
そして現在においても、マックス・リヒターは『四季』をリコンポーズし、ルドヴィコ・エイナウディは土・水・空気・火の四大元素(エレメンツ)をモチーフにし、オーラヴル・アルナルズは大自然の広がる故郷アイスランドの各地を旅しながら楽曲を制作している。20世紀半ばから若者の心を掴んできたロックやポップスが〈人間の感情〉を歌う音楽であったのに対し、21世紀にふたたび〈自然〉をテーマとした音楽が新しい世代の関心を集めている現象には考えさせられるものがある。