21世紀の弦楽四重奏法を背景に、モダンと古典をひとつの地平から眺める――

 30~40代の奏者から成るディオティマ弦楽四重奏団の歴史は意外に古い。設立は1996年、創立メンバーのチェロ奏者ピエールや、古参のヴィオラ奏者フランクの音楽院修了後まもなくと聞いた記憶がある。

 〈学生時代の顔見知り〉だった彼らのために私が初めて弦楽四重奏曲を作曲した時(《赤い大地》2005年、フランス文化省委嘱)、ディオティマは既に世界中でひっぱりだこの四重奏団となっていた。

 ディオティマがすばらしいのは、古典作品も現代作品もそれぞれに美しい音色で繊細緻密に作り上げるところだ。しかし、そのための練習は細部まで熾烈なもので、写真のようにつかみ合いとまではいかずとも、演奏上の解釈や技術に関する彼らのやりとりは、時にいたたまれなくなるほど厳しい。瞬間沸騰型王子ザオ(第1ヴァイオリン)、常にマイペースのピエール、間で穏やかに、しかししばしばグサッと核心を突く言葉で調停を試み、火に油を注いでしまうこともあるフランク。コンスタンス(第2ヴァイオリン)は一番の新参だからか、写真とは異なり、たおやかに皆の助言や提案に耳を傾けている。

 そんな個性のぶつかり合いや絶妙なバランスを第3者として見ているとなんとも面白く、それが彼らのための2曲目の作品(《Brains ブレインズ》2017年、ラジオフランス委嘱)の基本的なアイディアになった。

 《Brains》とは4つの楽器それぞれの脳(人格)を指す。個性の形成は、考え方、ふるまいなど脳の働きに負うところが大きい。脳のさまざまな機能のなかで、この10分の小品においては〈ミラーニューロン〉と〈個性の形成〉が発想源となっている。

 高等生物は〈ミラー(鏡)ニューロン(神経細胞)〉の働きによって他者のふるまいをまね、それを通して言語や身振り、他者に共感することなどを学び、社会性を身につけてゆく。まねの巧拙やその特徴は各個体の個性であり、それぞれの差異にもつながっている。

 〈さあお手本ですよ〉と〈主題〉をお披露目する第2ヴァイオリンに続き、〈簡単簡単! もっと速く弾けちゃうもんね〉と1番乗りでまねする第1ヴァイオリンを、〈ヴァイオリンより体が大きいからどうしてもそう器用にはいかないなあ〉とヴィオラが追う。チェロはといえば、〈今それやる気分じゃないんだよね〉とスルー、大分経ってから、まねのつもりの同音連打を突拍子もない高音トレモロでやおら始める。…こうした個性の違いによる〈まねエラー〉が曲の進展を促す。

 ディオティマの各奏者たちの個性を肉眼で確かめ、それぞれの性格を想像しながら聴いていただくと、より楽しめるかもしれない。

 


LIVE INFORMATION

ディオティマ弦楽四重奏団来日ツアー 2018
○6月9日(土) 16:00開演 会場:松本市音楽文化ホール(長野)
○6月12日(火) 18:30開演 会場:横浜みなとみらいホール 小ホール(神奈川)
○6月13日(水) 19:00開演 会場:明治学院大学(東京) レクチャー&コンサート
○6月15日(金) 19:00開演 会場:青山音楽記念館 バロックザール(京都)
○6月16日(土) 18:30開演 会場:大原美術館・本館2階ギャラリー(岡山)
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