神奈川・逗子の海岸近く、閑静な住宅地のなかに白壁で佇む映画館兼カフェ、CINEMA AMIGO。〈映画を観ながら食事の出来るシネマカフェ〉というキャッチフレーズのもと、居心地のいい空間と美味しいお酒/料理を提供している同店は、近隣の住民はもちろん、県外の映画好きからも愛され、賑わいを見せている。

そんなCINEMA AMIGOで開催されている、ライヴとDJ、野外での映画上映を合わせたイヴェントが〈Half Mile Beach Club〉(以下、HMBC)だ。主催は、同名の集団であり逗子に縁の深いミュージシャンやDJ、VJ、写真家――各分野で活動する若者たち10人のコレクティヴ。DYGLやYogee New Waves、SaToAといったインディー・シーンの注目バンドの演奏に加えて、「ヴァージン・スーサイズ」(99年)、「アメリカン・スリープオーバー」(2010年)、「オアシス:スーパーソニック」(2016年)など、特に音楽好きの琴線をくすぐる作品を上映してきた。筆者も一度足を運んだのだが、8月の晴れた日、マジックアワーの空を背景に、潮風を浴びながらの「はじまりのうた」(2013年)鑑賞は、生涯大事にしたい宝物のような体験だった。

また、彼らはバンド・HMBCとしても、東京近郊を中心に精力的な活動を行っている。当初は山崎優平(ヴォーカル)、宮野真冬(ギター)、都筑真也(ドラムス/パーカッション)の3人でライヴを行ってきたが、昨年にベースの高橋遥とサンプラーの朝倉卓也が加入。現在はVJを含む6人編成となった彼らが、この度、初の流通盤EP『Hasta La Vista』をリリースした。

チルウェイヴ的なダウンテンポが特徴だったトリオ時から一転、今作ではパーカッシヴなビートとうねるベースライン、艶やかなロック・ギターを打ち出したインディー・ダンス的なサウンドへ。90年代前半のマッドチェスター/バレアリックを彷彿とさせる享楽的なグルーヴは、多くのリスナーを酩酊させ、ダンスフロアへと誘うだろう。今回のインタヴューでは、都筑を除くプレイヤーの4人が集合。音楽的な背景はもちろん、イヴェント〈HMBC〉のテーマ、さらには逗子へのビタースウィートな想いなど語ってもらった。

Half Mile Beach Club Hasta La Vista 249(2018)

 

逗子に合う音楽って何だろう

――Half Mile Beach Clubとは、今日来てくれた4人だけでなく、同名の主催イヴェントに関わっているメンバーの総称、コレクティヴ的な集団を指しているそうですね。アーティスト写真を見ても9人いらっしゃいます。

山崎優平(ヴォーカル)「写真を撮っているのもメンバー(渡邉伶奈)なので、現在は10名ですね」

――なるほど。上の写真でファインダーを覗いている方もメンバーなんですね。気が利いてます(笑)。みなさんはどのように集まられたんですか?

宮野真冬(ギター)「僕とDJの小林兄弟(遼、晋)という3人で、よく地元の逗子で〈レコードを聴く会〉を家に集まってやってたんですよ。じゃあ、この延長線上でパーティーができないかと思ったんです。同時期に、僕は山崎とドラムの都筑とバンドもやっていたので、じゃあ演奏もできたらいいよね、と。そこで、会場のCINEMA AMIGOの副館長である八ッ橋(諒)が〈AMIGOでやれば〉と言ってくれて、じゃあ君はカクテルを作ってくれというので6人になり。それが2013年でしたね」

山崎「当初は宮野と2人でライヴをやっていたんですけど、その後サポートのベースで高橋さん、シンセで朝倉さんに入ってもらって、以降ふんわりとメンバーになってくれた。あとVJのメンバーの木村風志郎も途中から入ってもらったんですが、彼も同級生。なので、逗子の音楽仲間から派生していった感じですね」

 

――宮野さんは、どうして〈レコードを聴く会〉をもっと大きくしたいと思ったんですか?

宮野「レコードを聴きにお互いの家に行きあっていたんですけど、なんでこうも友達が増えないんだろう……と(笑)。逗子で僕ら3人のみで完結するわけない、もうちょっと音楽好きはいるよなって思ったんです。あと、ちょうど逗子海岸の海の家で騒音が問題になっていた頃で。海の家で鳴っている音楽を否定するわけじゃないですけど、あれが逗子に合う音楽なのかな?という疑問もあって。じゃあ、僕らがふだん散歩とかをしながら聴いている音楽が流れて、そういったライヴを観られる場所を作りたいなとイヴェントをはじめたんです」

――なるほど。当初から逗子という地域性を反映したことをやりたいという意識はあったんですね。

宮野「必ずしも僕らが作る曲という形ではなかったんですけど、呼ぶアーティストであったりDJでかける曲であったりというのは、なるべくその時期の逗子――季節とか街並みに合うものという意識はあったと思います」

 
 

――そして、毎回のイヴェントでは、野外での映画上映もあって。こちらのセレクションもすごく素敵ですが、どういった基準で作品を決められているんですか?

宮野「ひとつあるのは、なるべく音楽に近い映画であること。必ずしも『はじまりのうた』とか『あの頃ペニー・レインと』(2000年)とかいわゆる音楽映画でなくてもいいんですけど、シーンのなかで音楽が有機的に使われている作品というのは意識していますね。あとは夏の逗子で爆音でオアシスを観たいなとか(笑)、そういう季節感もポイントになったり」

――ゲスト・ライヴをされるアーティストも映画とのマッチングを意識している気がしました。「ヴァージン・スーサイズ」とannie the clumsy、「EDEN」(2014年)とマイカ・ルブテとか。

宮野「そうですね。どちらが先というのはないんですけど。たとえば前回の『アメリカン・スリープオーバー』なら、作品全体を包む倦怠感みたいなものを意識しつつ、そのなかで子供たち1人1人がすごく葛藤していて、点と点が行ったり来たりしている映画なので、その行き違いの感覚は(ライヴ出演した)South Penguinの音楽に近いなと思ったんです。あと、全体に漂っている淡いトーンはbeipanaさんに合っているなとか。SaToAと『はじまりのうた』で組んだときは、映画が発しているメッセージと彼女たちのスタンスがすごく近いと感じたから。彼女たちのようにDIYでやることは、そのぶん大変さや痛みがあると思うんですけど、そのなかであんなにキラキラした音楽を作っていて、それが作品中のキーラ・ナイトレイに通じるなと思って」

 

 

インディーとクラブの中間にいたい

――HMBCが作る音楽も、イヴェントを重ねるごとに変化していったんですか?

山崎「CINEMA AMIGOでHMBCを始める前――山崎と都筑と3人でやっていた頃はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとかシューゲイザーが好きで、その流れでクリエイションとかを聴いたりしていて。それでDJの小林兄弟とも話が合ったんですよ。ただ、その頃は自分たちの地元のシーンにあんまり馴染めてなかったというか。もともとミクスチャーとかが強い地域で、タトゥーがガンガン入っててギターをダウンチューニングして、みたいな雰囲気なんです(笑)。

だから、当初はどういう音楽を作ろうというより、まず自分たちの居場所を作りたい、みたいな気持ちがあったんですね。で、自分たちのパーティーで演奏をしていくなかで、この雰囲気やロケーションにハマるもののほうがいいよねとなり。だんだんシューゲイザー色は後退していき、いまのサウンドに近付いていったという感じです」

2016年のEP『Park C』収録曲“Yankee”
 

――具体的には、どんな音が雰囲気や会場にハマっていると感じたんですか?

山崎「僕らはいつもイヴェントの最後にライヴをするので、お客さんもお酒が入っているんですよね。あと、逗子は別に風土としてカラッとしているわけではなくて、どちらかというとジメジメしているので、そんな空気感ともあいまって酩酊感を持った音やトライバルなビートがいいなと。そうした方向性からダブやサイケデリックな要素が増えていきました。DJの2人はサイケとかでも生音を好むので、彼らの曲に対するリアクションとかも参考にしつつ、〈こういうほうがもっと楽しめるよねー〉という音になっていったんです」

宮野「今回のEPでいうと、もともとドラムの都筑はジャズをやっていて。ボサノヴァやアフロビートなんかが好きなんです。で、彼がガッツリと叩いた曲もあるので、そのエッセンスが入ったことでトライバルになったのもあると思う。さらにベースの遥さんは、もともとダブやファンクのバンドをやっていたので彼女の要素も加わって」

――確かに今回のEPは、3人編成のときに発表したEP『Park C』と比べて、グッとグルーヴィーになっていますね。セカンド・サマー・オブ・ラヴやマッドチェスターといった90年代初頭から半ばの雰囲気というか、あの頃のイギリスの音楽にあったバレアリック感にすごく近い印象でした。

宮野「僕らはよく〈Rhyming Slang〉に出させてもらったり、インディー周りのバンドと共演しているんですけど、その一方で朝倉さんはもともとクラブ畑の人なので、彼が主催しているテクノやハウスのイヴェントにも出演して、〈この中間には、いま誰もいないかも〉と思ったんですよね。だから、インディーとクラブの狭間で何かおもしろい音楽を作りたいなと。その結果、ブレイクビーツに思いっ切りディストーション・ギターを被せたりしつつ、マッドチェスター的な音になっていったのかも」

※東京を拠点に、海外の〈DIYパーティー〉をイメージしたラインナップで開催されているインディー・イヴェント

山崎「あと、宮野のギターがテレキャスターからレスポールになったのも大きいね」

宮野「そうだね。レスポールの魅力はDJチームに気付かされたんですよ。彼らはクラシックなロックがすごく好きで、そうした選曲のDJを聴いていくなかで再発見があった。自分がもっと若かった頃には思わなかったような新鮮さを、彼らがかける音楽から感じて、〈ダーティーな歪みって、すごくカッコイイね〉となったのもあります。イギー・ポップはヤバイとかツェッペリンって超カッコイイとか(笑)」

――バレアリックという言葉は、いまのイメージだとチルアウト的なニュアンスが強いけれど、本来はもっと雑多で自由度の高い感覚を表していたと思うんです。そういう観点からいっても、HMBCには真の意味でのバレアリックを感じます。

山崎「気が付いたらそうなっていましたね。それぞれ音楽の趣味は違うなかで、被っている箇所を探っていくと折衷的になったというか」

宮野「高橋さんと朝倉さんの2人とVJメンバーが入って、さらに音楽的な引き出しが多くなりました。“Monica”を作ったときは、VJのメンバーがレイヴ好きで、彼は音楽的なことはそこまでわからないんですけど、ここは16小節長いほうが気持ちいいとか、レイヴァーの感覚でアドヴァイスをしてくれて」

――あと、高橋さんの持ち込んだブラック・ミュージック的な要素なのかもしれないですけど、猥雑な雰囲気や埃っぽい質感がブラックスプロイテーション映画のサントラを思わせました。

宮野「“Bee Line”を作っているときには、NETFLIXでア・トライブ・コールド・クエストのドキュメンタリー『Beats, Rhymes & Life: The Travels of A Tribe Called Quest』(2014年)を観て、これはヤバいねとなっていたんですよ。とはいえ、サンプリング元はジョン・マーティンという昔のサイケのフォーク・シンガー。それと同じノリでDJの晋くんのDVDラックから『タクシードライバー』(76年)を取り出して(笑)」

山崎「その頃、DJシャドウの新しいのが出て聴いていたので、アブストラクト・ヒップホップのムードも意識していますね。この曲はミックスをシーシャ(水たばこ)バーでやったんです(笑)。もともとはインタールード的な小品のつもりだったんですけど、シーシャをやりながらミックスしているうちに1曲として着地して。シチュエーションからアウトプットの質感を変えるというのは、いろいろとトライしていますね」

 

価値観を共有した少人数だからこそできる音楽

――過去の音楽を再発見しつつ、自分たちの流儀で新たなものにしていくという意識は強いんじゃないですか?

宮野「めちゃくちゃありますね。『Screamadelica』(91年)をいま聴くと、これまでとは違った新鮮さを感じている面があって。なんだろう……2011年の〈マデリカ再現ライヴ〉にも行ったんですけど、そのときヤバイと思っていた感覚と、いまヤバイと思う感覚はちょっと違うように思うんですよね。ローゼズのファーストとかも同じ。でも、DJのメンバーは学生時代から、ずっとそれらの作品が大好きなんですよ。僕からすると、彼らと知り合ったときには〈いまそれ聴くんだ?〉みたいに思ってしまった(笑)。

それが聴いていくうちにドンドン新鮮さが増していったし、自分たちもここをめざしたいなというのはありました。完全にパクるとか再現するとかというよりは、このエッセンスを使って何かリニューアルとか新しい表現をできないかなと」

山崎「なるべく、まだ聴いたことのない手触りのものにしたいという想いがあります。全部をDIYでクォリティー・コントロールして、レコーディングもなるべく自分たちで完結させたい。巨大なバジェットとか予算があるからこそできる表現ってあると思うんですけど、そうでないのであれば逆に多くの人が関わるプロジェクトだと再現できない、ホントに価値観を共有している何人かの限定されたメンバーでやれるもののほうが、いびつさみたいなものが残るんじゃないかと思っていて。そういう〈いびつなものをいびつなまま良いものにできたら〉というのは、HMBCをはじめたときから思っていますね」

――あとから入った朝倉さんと高橋さんは、HMBCに関わる上でどんなやり甲斐を感じられていますか?

朝倉卓也(サンプラー/シンセサイザー)「HMBCにしても自分自身にしても客観的な逗子を表現しているという意識はまったくなくて、なので客寄せパンダですらないんです。というより、自分自身が思っている逗子の情景を表している。さっきもヤマくんがジメジメしていると言っていたけど、自分の知っている逗子もぜんぜん晴れてなくて曇っているし、別に海も青くない。そこに共感できたからこそメンバーになれたというのが、シンプルでいちばん重要なのかなと思っていて。だからサポートから加入という流れも、特に突っかかることはなくて、曲作りにも参加できたし、この先こんな音を作りたいなーというイメージも具体的にある」

高橋遥(ベース)「マンチェスター出身の知り合いがいるんですけど、その人にHMBCの音源を聴かせたとき、〈すごく地元っぽい〉と言っていたんですよ。マッドチェスターって地名が由来になっているじゃないですか? 私たちも逗子をイメージして作っているのであれば、これを聴いて〈あ! 逗子だ!〉 とわかってもらえたらすごく嬉しいなと思います。なので、特に神奈川出身の人に聴いてほしいですね。藤沢や湘南とは違うカルチャーがあるんだと伝えたい」

宮野「そもそもHMBC自体がアッパーなイヴェントではないので、海の家の現状とかを見たうえで、こういう質感じゃないなって気持ちとかが、楽曲に出ているのかもしれない」

――ブライアン・ウィルソンが海岸を歌ったとき、それは彼にとって理想化された風景だったように、HMBCの音楽にも、みなさんのなかにある〈こうあってほしい〉という逗子が落とし込まれているのかもしれせんね。

山崎「HMBCというイヴェントは日常の延長線上である特別な一日というイメージが僕にはあるんです。だから、僕らの音楽もそういう日に鳴らして気持ちいいものでありたい」

宮野「僕が詞を書いているんですけど、そういう点でいえば、言葉とかはそんなにダイレクトにこないものにしたいとは思っているんです。ただ、桃源郷感とかを逆手にとって、亡霊って言葉を入れたり、焼酎って言葉とか生活感のある単語を入れたり、そういうところにも生活があるんだよというのを表現したいとも思っています。理想郷と言われるけど、そこで暮らしている人はそんなことを別に思ってないんですよ」

――最後に、今後のHMBCはどんな活動をしてきたいですか?

宮野「イヴェントはあいもかわらずあの場所で、規模も変えずにやっていけたらと思っています」

――すでに一つのプラットフォームになっているんじゃないですか?

宮野「はじめた当初より、〈次はいつやるんですか?〉と訊かれるようにはなっていますね」

山崎「イヴェントがあることによってメンバーみんなが集まれるんですよ。バンドはバンド、DJはDJでバラバラに活動することはあるんですけど、全員が揃える場所があることによって、活動団体としての信頼関係が築けているんじゃないかな」

――そういえば、もともとライヴや音源発表をする際にはHalf Mile Beach Groupと名前を変えていたのが、いつのまにかHMBCに統一されましたね。

宮野「それは、あまりに間違えられることが多かったから(笑)。でも、結果的に良かったと思いますね。場所を作ることも、音楽も、DJ/VJも、写真も、カクテルを作ることも、あらゆるアウトプットがHalf Mile Beach Clubとしてできるんです」

 


Live Information

〈リリース記念インストアイベント〉
2018年5月18日(金)21時スタート
東京都 タワーレコード渋谷店 4Fイベントスペース
内容: ミニライブ & サイン会
http://tower.jp/store/event/2018/05/003032
 
〈Half Mile Beach Club 『Hasta La Vista Release Party』〉
2018年6月16日(土)下北沢 Basement Bar
2018年7月15日(日)京都 Live House nano