INTERVIEW

曽我部恵一を反省させたベルセバの凄さとは? ギター・ポップ最強の勝ち組に学ぶ、失敗しないバンド術

ベル・アンド・セバスチャン『How To Solve Our Human Problems』

曽我部恵一を反省させたベルセバの凄さとは? ギター・ポップ最強の勝ち組に学ぶ、失敗しないバンド術

スコットランドを代表するバンド、ベル・アンド・セバスチャンが新作『How To Solve Our Human Problems』を発表した。まず、3か月に渡って、毎月EPをリリース。それを1枚のアルバムにまとめるというユニークなアプローチをとったのは、ファンに楽しんでもらいたからだったとか。そういう姿勢に、20年以上活動しながら、音楽を楽しみ続けているバンドの姿勢が伝わってくる。

そんな彼らの新作を、サニーデイ・サービスの曽我部恵一に聴いてもらった。ベルセバが結成されたグラスゴーは、曽我部と交流が深いトラッシュ・キャン・シナトラズをはじめ、パステルズやオレンジ・ジュースなど曽我部が刺激を受けてきたバンドを数多く生み出してきた。そんななかで、曽我部から見たベルセバの魅力はどんなところなのか。さらに、話のなかから浮かび上がってくるバンドの在り方やサヴァイヴァル術など、音楽好きはもちろん、バンドマンも必読のインタヴューだ。

BELLE AND SEBASTIAN How To Solve Our Human Problems Matador/BEAT(2018)

 

音が小さく密やかにやっているようなライヴを観て〈すごいな〉って

――サニーデイ・サービスが94年にデビューして、ベル・アンド・セバスチャンが96年デビュー。ほぼ同期ですが、当時からベルセバは聴いていました?

「グラスゴーの音楽は基本的に大好きなんですけど、ベルセバが出てきたときは、そんなに聴かなかったんですよ。自分のなかでネオアコとかギター・ポップのブームが終わっていた頃だったから。でも、ライヴを観に行ったらすごく良かった」

97年の楽曲“Lazy Line Painter Jane”
 

――いつ頃のライヴですか?

「多分、初めて日本に来た時、(赤坂の)BLITZで観たんです。コンサートって、普通、音がデカいじゃないですか。でも、ベルセバのライヴは、すごく音が小さかった。ほとんど生音なんです。密やかにやっているようなライヴで、それを観て〈すごいな〉って思ったんです」

2001年に行われた初来日公演

――ベルセバの初期の頃ってそんな感じでしたよね。繊細で秘密めいていて。

「そうそう。インタヴューも受けなかったし、顔も出さなかった。そういった姿勢はスミスより過激な感じでしたね。それがある時期から、〈売っていこう!〉というスタンスに変わったじゃないですか?」

――そうですね。2003年にラフ・トレードと契約したあたりから、サウンドも変化していって。

「でも、根本的なところは変わってない気がする。そういうところはおもしろいなと思って見てましたね」

2015年作『Girls In Peacetime Want To Dance』収録曲“The Party Line”
 

――そんななかで、新作『How To Solve Our Human Problems』を聴かれてどんな印象を持たれました?

「すごくグラスゴーっぽい、スコットランドっぽい音楽だなって思いました」

――〈グラスゴーっぽい音楽〉というと?

「メロディーがエモいっていうか。〈エモい〉と言っても、パンクなエモさじゃなくて情熱的なメロディー。アズティック・カメラとかトラッシュ・キャン・シナトラズの曲にもそういうエモさがある。今、アメリカやUKのチャートに入ってくる音楽でこういう音楽はないですよね。ベルセバのメンバーは今もグラスゴーに住んでいるんですか?」

――住んでるみたいです。ここ最近のアルバムは、アメリカとかイギリスに遠征してレコーディングしていましたが、今回は久し振りにホームグラウンドのグラスゴーでレコーディングしていて、リラックスした雰囲気のなかで作り上げたそうです。

「そうなんだ。なんか、グラスゴーのパブでみんなで飲んでる風景が浮かんできましたね。曲を聴いてて」

――作り手の生活感が伝わってくる?

「うん。そういうものが曲に出てますよね。いま、そういう生活感――日常における優しさとか愛情とか、そういうリアルな感情を音楽に出すのって、あまり流行らないじゃないですか。90年代のUKにはそういうギター・バンドがいたし、アメリカだったらパレス・ブラザーズみたいな人達がいたと思うけど」

――アメリカには〈ローファイ〉と呼ばれたシーンがありましたね。ミュージシャンの生々しい息づかいが伝わってくるような音楽。

「ベルセバはそういう息づかいを、生活感や情熱を大切にし続けているバンドだと思いますね。今のグラスゴーのシーンがどんな感じなのかわからないけど、このアルバムを聴くと、昔、旅行したグラスゴーのことを思い出す」

 

ネオアコでアメリカで売れたっていうのは奇跡

――全世界的に成功しながら、そういったパーソナルな音楽性を保ち続けているというのがすごいですね。今回のアルバムでは、エレクトロニックなサウンドとかドラムンベースみたいなビートを取り入れて、初期の頃よりメリハリのあるサウンドになっていますが、そのあたりは聴いてみていかがでした?

「そういうビートって、たいした使い方じゃなくて、バンド・サウンドを壊さない程度のものだから基本的な部分は全然変わってないですよ。音数も少ないし、コンプとかもかかっていない優しい音だし。でも、アメリカではどれくらい売れているんだろう」

――かなり人気みたいですよ。ベルセバは2000年頃に〈Top Of The Pops〉に出演しましたが、その頃からアメリカに頻繁にツアーに出掛けるようになってファン層を広げていった。その頃、アメリカの若者たちの間でスミスが聴かれるようになったんですけど、スミス人気とベルセバ人気って繋がっている気もします。シカゴのレコードショップを舞台にした映画『ハイ・フィデリティ』(2000年)に出て来る店員はスミスが好きで、店でベルセバが流れていたりするし。

「そうなんだ。スミスとかベルセバが好きなアメリカの若者って、クラスではマイノリティーなんだろうね。ドラッグとかやらないナイーヴな若者たち。ベルセバはそういった層を掴むことができたから、音楽性を変えずにアメリカに進出できた。でも、ネオアコでアメリカで売れたっていうのは奇跡じゃないですか?」

――奇跡だと思います。

「だって、アメリカからペインズ(・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート)が出てきたとき、絶対、日本向けに仕込まれたバンドだと思ったもん(笑)。アメリカの若者はジェイ・Zしか聴いてないと思っていたから。でも、スミスとかベルセバを聴いている若者たちがいるのなら、ペインズみたいなバンドが出てきてもおかしくない」

――間違いなく、ベルセバはグラスゴーでもっとも成功したバンドでしょうね。

「〈こうやって売れればいい〉っていう見本ですね。若いバンドがメジャー・デビューして、がんばりすぎてサウンドがぐちゃぐちゃになったりすることって、よくあるじゃないですか。ベルセバは、ちょっとだけ音をわかりやすくして核の部分は変わらない。それって理想的だと思う」

――そうですね。そう簡単にできることではないでしょうけど。

「ベルセバって、ヴォーカルがアノニマス(匿名的)じゃないですか。俺はそこが取っ付きづらかったんです。例えばスミスとかって、結構濃いじゃないですか。アズテック・カメラとかオレンジ・ジュース、トラキャンなんかのヴォーカルもソウルフルに歌い上げるでしょ。そういう、男っぽいヴォーカリスト感がベルセバにはないから、サウンドをちょっと分厚くしても繊細でナイーヴな感じが残る。それがバンドにとって、良かったんじゃないですか?」

――なるほど。確かにスチュワート・マードックの歌声って印象に残りにくいですが、それがバンド・サウンドには合っていますよね。

「スチュワートの歌声には特に魅力を感じないんですけど、サウンド全体として見たときに大切な役割を果たしていると思いますね。ヴォーカリストとしてどうこういう感じの人じゃないと思う。でも、そこが良いんじゃないかな。その濃くないところが。基本、世の中って濃いもので出来てるじゃないですか。音楽業界もそうだし。そんななかで、この濃くなさは重要ですよ。特にアメリカにおいてはね」

――その〈濃くなさ〉っていうのはナイーヴさに通じますね。

「うん。そのナイーヴさがグラスゴー感でもあると思う」

2015年の〈Coachella〉でのライヴ映像

 

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