変わりゆくものと変わらないもの――昨年末から続く3枚のEPを束ねた変則的な〈アルバム〉に滲む確固たる自信。デビュー時の瑞々しさを保ちつつも、音楽的な洗練や成長を続けてきたキャリアの結晶がここに!

 2015年の前作『Girls In Peacetime Want To Dance』は、ベル・アンド・セバスチャンが意識的に変革を求めたアルバムだったと言えよう。プロデューサーに指名したのはベンH・アレン。ベンはダンス・ミュージックのグルーヴ感をインディー・ポップに採り入れる手腕に長け、アニマル・コレクティヴやウォッシュト・アウトらの作品を手掛けてきた人物だ。彼とのタッグによりそれまでのベルセバにはなかったシンセを大胆に使用したことで、バンドは新たな魅力を開花。デビューから約20年が経過した彼らには新陳代謝が必要なタイミングであったし、本人たちもリリース直後の来日時に「ベンとの作業は刺激的だった」と話していたのを覚えている。

BELLE AND SEBASTIAN How To Solve Our Human Problems Matador/BEAT(2018)

 あれから2年が経とうとしていた頃、『How To Solve Our Human Problems』と名付けられた作品が、アルバム形態ではなく3枚のEPとして登場することが報じられた。〈Pt.1〉〈Pt.2〉はそれぞれ昨年12月と年明け1月に配信及びアナログ盤でリリース済み、ラストを飾る〈Pt.3〉もこのたび発表され、さらにその3枚を纏めたCDが日本先行でお目見え。思い返せば、ベルセバは2作目『If You're Feeling Sinister』(96年)と3作目『The Boy With The Arab Strap』(98年)の間にも、EPを立て続けに3枚リリースした経験がある。メンバーはその頃の感覚を取り戻そうとしているのだろうか。もしくは、前作でのサウンドの変化に続いて、〈アルバム〉というルーティンな出し方からも脱却しようとしているのだろうか――そんなふうにあれこれ考えていたのだが……。

 「みんな気にしすぎなんじゃないかな? プロデューサーとかエンジニアとか、ひとつの音を作る必要性にこだわりすぎだと僕は思うよ。そういうのを僕たちは全然気にしないし、それどころか幅の広いレコードのほうが感触の良い場合も多いとすら考えている。サウンドが、ここと、ここと、ここ……って散らばっていたほうがレコードとしておもしろくなることだってあるからね」。

 スチュワート・マードック(ヴォーカル/ギター/キーボード:以下同)のオフィシャル・インタヴューを読む限り、どうやら筆者は勘ぐりすぎていたようだ。確かにこの『How To Solve Our Human Problems』にはさまざまなタイプの曲が混在している。『Girls In Peacetime Want To Dance』の路線を引き継いだシンセ・ポップや、初期を思い出させる哀感を滲ませたアコースティックなギター・ポップなど、すべて新曲なのにまるでベスト盤を聴いているかの如き、ベルセバのキャリアを総括したようなナンバーが並んでいて印象深い。そう、メロディーの親しみやすさと瑞々しさは一貫して変わらないが、作品ごとに新たな表情を加えていった彼らの変遷が追える内容なのだ。

 「今回は小さめのスタジオで作業してさ、前作に負けない良い音に仕上げるのはチャレンジだったけど、20年以上もやっていればどうすればいいか自分たちでわかるからね。このグループの強みは、いつでも音楽やアイデアを共有できている点。これは素敵なことだ。つまり相手を頼りにできる、ということだから。音楽的に信頼できるメンバーの存在って、本当に力になるんだよ」。

 年輪を感じさせながらも、新人のような初々しさがここにはある。『How To Solve Our Human Problems』は、メンバー同士の信頼と友情が20年前から変わらないからこそ完成し得た作品だ。そして、バンド内の良好な関係性が伝わってくるような音楽を真摯に作り続けてきたからこそ、ベルセバは長きに渡って世界中で愛されているのだろう。