LOS ANGELES' TIME 2018
[ 緊急ワイド ]深みと広がりを増すLAシーン
ビート・ミュージックとジャズからもう一歩進んで、LA産の音がますますおもしろい!
★Pt.2 KNOWER『Life』
★Pt.3 RYAN PORTER『The Optimist』
★Pt.4 GOD.DAMN.CHAN『Slush』
★Pt.5 RELATED DISCS
KINTARO
ブルーナ兄弟の末弟にして、インターネットの元メンバー……目覚ましいキャリアを持つビートメイカーがついに本邦初登場!
元インターネットのメンバーという経歴だけでも、あるいはロナルド・ブルーナーJrとサンダーキャットの実弟という出自だけを取っても、それだけでプロフィールとしてのアピール度はかなり高くなるはずだが、それに輪をかけるのが日本人には馴染み深いであろうアーティスト・ネームだ。そんな謎のキャッチーさを備えて、キンタローことジャミール・ブルーナーが日本デビュー。彼が昨年6月に発表したEP『Universal EP』と9月発表のミックステープ『Commando Existential』がカップリングされ、このたびringsから日本独自盤『Commando Existential & Universal EP』としてリリースされた。
「アルファ・パップと契約したときに、まず何らかのコンテンツをリリースしたいと思って、アンダーソン・パークとの曲が収録された『Universal EP』を出そうと思ったんだ。アンダーソンと曲を作れたのは、俺にとって大きな達成だったんだ。『Commando Existential』は、とにかく〈いままでよりもいい曲を作りたい〉という意志だけで、方向性を決めずに作ったものだ」。
楽曲ごとにスタイルは多様ながら、すべてを彼一人で手掛けたという全体的なプロダクションのベースとなるのはヒップホップ。ジャズやエレクトロニックの意匠も採り入れた作りは初期のフライング・ロータスのようでもあり、正統派のLAビート・ミュージックと捉えることもできる。子どもの頃からピアノを弾いていたものの、ミュージシャンシップを磨く方向に進んだ兄たちとジャミールは違うルートを辿ってきたわけだ。
「高校生の時にフライング・ロータスを聴くようになったんだけど、その後に兄貴がフライング・ロータスと仕事するようになったんだ(笑)。彼の音楽は俺のプロダクション・スタイル、プロデューサーとしてのアプローチに影響を与えた」。
そんな彼だけに、LAの〈Low End Theory〉~アルファ・パップとの関係は念願だったそう。
「フライング・ロータス経由で〈Low End Theory〉の話はずっと聞いていた。ずっと年齢制限で入れなかったから、2年前に21歳になって入れて嬉しかったよ。あそこは最新の音楽、アプローチに触れられるオアシスなんだ。あそこに行けて俺の音楽的知識は広がったよ。アルファ・パップと契約してからはホームになったね」。
一方でインターネット離脱の理由ははっきり語られなかったものの、メンバーたちとの関係は良好で、「シドは素晴らしいソングライターだし、彼女の歌詞の書き方は素晴らしいから、そこに影響された」とも明かす。他にもオースティン・ペラルタやジョージ・デュークなどさまざまな名前を挙げる彼は、まだ若いだけに発想も柔軟なのだろう。
「俺はアーティストとして自分を普遍的な存在だと思ってるんだ。俺の作品にはラップ、ダンス、R&B、ジャズなどいろいろな曲が入ってる。一つのジャンルの壁に閉じ込められたくないし、さまざまなジャンルをミックスして自分のサウンドを作ってる。いろんなジャンルにインスパイアされて、そこから受け取ったものを形にしていくんだ」。
ちなみにキンタローという名前は昔話の金太郎からではなく、江川達也のマンガ「GOLDEN BOY」のアニメ版を観て、その主人公(大江錦太郎)から取ったものだという。
「俺が16、17歳だった頃に、兄貴が『GOLDEN BOY』というアニメを見せてくれたんだ。それを観て俺はなぜか共感したんだよ。当時の俺はTHCというプロダクション・グループのメンバーだったんだけど、その仲間と一緒にこのアニメを観てたら〈この主人公ってお前そのものだよ〉って言われた。俺も〈確かに〉って言ったよ。主人公のキンタローは孤立している変人であまり社交性がなかった。あのキャラクターみたいに俺も変人だと思われてたんだ。最初はアルバムを『Kintaro』にしようと思ったんだけど、アーティスト名にしようと決めた。キンタローの日本のおとぎ話のことも調べたら、余計に気に入ったよ。キンタローという名前の持ついろいろな意味、スキル、才能が俺の一部になると思うんだ」。
現在は正式なアルバムの制作に取り組みつつ、「何人かの重要なアーティストとのコラボレーションも予定してる」と語るキンタロー。偉大な兄たちの存在に重圧を感じることも多いという彼の才能が真に開花するのはまだこれからなのだ。
ジャミール・ブルーナーの参加作品を一部紹介。