9mm Parabellum Bulletのフロントマンによる初のソロ・プロジェクトは、作曲を9mmの滝善充、作詞をいしわたり淳司に託して〈歌手〉に専念した6曲入り。近作でヘヴィーな路線を極めた本隊とは対照的に歌謡曲のテイストを強めて、いなたさや猥雑さを加味したバンド・サウンドを展開。若き日の玉置浩二や沢田研二を彷彿とさせる、キザでニヒルな語り口で愛を歌う立ち居振る舞いに、得も言われぬ艶や色気が漂っている。
9mm Parabellum Bulletのフロントマン、菅原卓郎がソロ・アルバムをリリースする。しかも、コンセプトは〈平成最後に放つオルタナ歌謡曲集〉という、かなりツイストしたもの。その歌謡曲性はデビュー当初から指摘されていた9mmではあるが、平成と(昭和の文化とされている)歌謡曲、あるいはオルタナと歌謡曲という不思議な取り合わせのキャッチコピーに、まずは身構える。が、いざ『今夜だけ俺を』を聴いてみると、これが実にクールだ。
例えば、俳優の半田健人が70年代や80年代の歌謡曲~ムード歌謡のサウンドを偏執狂的なこだわりで再現しつつ、ねちっこいこぶしをきかせた歌唱で自作曲を歌う、という手法で作り上げた怪作『せんちめんたる』(2014年)と本作とを比べるとわかりやすい。あるいは、2015年にメジャー・デビューした〈DIYアイドル歌謡シンガー・ソングライター〉とでも呼ぶべき町あかりの音楽を引き合いに出してもいい。二人のアプローチと比較して浮き彫りになるのは、菅原が目指すのは、あくまでも〈オルタナ歌謡曲〉なのだという点である。
冒頭の二曲――ワウギターが印象的な表題曲と“ボタンにかけた指先が”のタイトでダンサブルなビートや乾いたサウンド。“悪女”のイントロの激しいメタル風のドラミング。BOØWYを彷彿とさせる、性急なビート歌謡の“Baby どうかしてるぜ”。V-Rock歌謡的なバラード“捨て台詞”。そう、『今夜だけ俺を』が掲げる〈オルタナ〉が意味するところは、オルタナティヴ・ロックであるとともに、〈歌謡曲のオルタナティヴ〉ということでもあるのだろう。
2008年の『VAMPIRE』まで9mmのプロデューサーを務めた、いしわたり淳治が全編を手掛けた歌詞にも注目したい。菅原が「僕の歌詞のお師匠さん」と呼ぶいしわたりの詞には、あからさまに艶っぽい言葉が並んでいる。そんな歌詞と菅原の、ある意味、非歌謡曲的な若干癖のある透き通った歌声は、絶妙な距離感を保っている。いやらしくこぶしをきかせるわけではないが、冷めているわけでもない。そのバランス感が、実に心地良い。
(……ところで、菅原卓郎、半田健人、町あかりのスリーマンで〈平成最後の歌謡ショー〉をやったらおもしろいのではないだろうか。三者三様、2010年代に登場した〈ニュー歌謡〉の潮流から、〈ポスト平成〉の来年以降も目が離せない。)