近年、日本のロックシーンにおいて2000年代の楽曲や作品が見直される機会に多く出くわす。ミリオンセラーが連発し、J-POPという言葉が浸透した1990年代の余波を受けながらも、当時のバンドシーンは独自の発展を遂げていった。かつてをリアルタイムで知らないリスナーも〈下北系〉〈残響系〉なるワードを目にしたことはあるだろう。

ネットを中心に〈邦ロック〉という言葉の定着した時期について意見が飛び交ったことも記憶に新しいが、いずれにしても2000年代のロックシーンが現在の音楽に与えた影響は大きい。そこで、当時特に賑わいを見せていた〈下北系〉〈残響系〉のシーンについて、ライターの金子厚武に振り返ってもらった。 *Mikiki編集部


 

「ぼっち・ざ・ろっく!」のヒットで加速した2000年代〈下北系〉シーンの再評価

〈若い世代のオルタナティブなバンドシーンが面白い〉。僕の体感では、2023年ごろからライブハウスでそんな会話が徐々に交わされるようになり、2025年に入るとそれはインディ好きの音楽ファンにとって当然の共通事項となって、その流れは徐々にオーバーグラウンド化しつつあるように思う。その背景は様々で、コロナ禍の反動もあるだろうし、シティポップの飽和もあるかもしれないが、これをY2Kリバイバル的な側面で語ることも可能だろう。実際、現在の若手バンドの多くが2000年代の日本のバンドからの影響を公言し、特に〈下北系〉と〈残響系〉は現在のシーンを紐解くキーワードになっている。

〈下北系〉に注目が集まったきっかけとしては、やはりアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の影響が大きいと言える。2022年10月の放送開始からすぐに大きな話題を呼んだこのアニメは、下北沢を舞台に物語が展開し、結束バンドの結成&初ライブの舞台であるSTARRYのモデルとなったのが下北沢SHELTERで、結束バンドの楽曲の大半で編曲を手がけた三井律郎をはじめ、劇中の楽曲制作には実際に当時の下北沢のシーンを体験している人物が多く関わっていることもよく知られている。

当時の下北沢を振り返ってみると、90年代まではUNDER FLOWER RECORDSから作品をリリースしていたShortcut Miffy!やLOVE LOVE STRAWなど、〈下北系ギターポップ〉が盛り上がりを見せていたように思うが、そこから〈下北系ギターロック〉への転換を促したのはやはりBUMP OFCHICKENだったと言える。

BUMP OF CHICKENは1996年に結成されるとすぐに人気バンドとなり、1999年にインディーズデビュー。千葉県出身の彼らがなぜ〈下北系〉を代表するバンドになったのかと言えば、それはデビュー作『FLAME VEIN』が当時下北沢のバンドシーンのメッカ的存在だったレコードショップ〈ハイラインレコーズ〉の立ち上げたレーベルからのリリースだったことが大きく、この頃は下北沢CLUB251によく出演していたこともよく知られている。彼らが2000年にメジャーデビューを果たし、2001年に発表した“天体観測”の大ヒットが決定打となって、ここから本格的に〈下北系ギターロック〉の大波が生まれていった。

BUMP OF CHICKEN 『FLAME VEIN +1』 トイズファクトリー(2004)

ここで大きな役割を果たしたのがUK.PROJECTであり、バンプの盟友的な存在だったsyrup16gをはじめ、ART-SCHOOL、BURGER NUDS、LOST IN TIMEといったバンドたちがUK.PROJECTの関連レーベルからデビュー。特に2001年に〈歌とギターにこだわったバンド〉をリリースするレーベルとして発足し、syrup16gやLOST IN TIMEが所属、のちにレミオロメンや椿屋四重奏らも加わるDAIZAWA RECORDSはこの時代を象徴するレーベルだと言える。

他にもストレイテナー、ACIDMAN、Stereo Fabrication of Youthといったバンドが続々と頭角を現し、特に下北沢GARAGEをホームとするバンドに勢いがあった印象が強い。なお、GARAGEは2021年末に惜しまれながら閉店しているが、現在その場所は2023年にオープンした下北沢近道/おてまえとなっていて、00年代に憧れるバンドたちが数多く出演している。