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ジプシー・ジャズの英雄ジャンゴ・ラインハルトの運命と、リアルに描かれたその時代背景

 ジプシー・ジャズのギター・スタイルを創始したヒーロー、ジャンゴ・ラインハルトの、第二次世界大戦下における知られざる側面をドキュメンタリー・タッチで描く。逃場のないナチスの恐怖に息詰まるスクリーンを随所に挿入される演奏シーンが和らげている。

エチエンヌ・コマール,レダ・カテブ 永遠のジャンゴ ブロードメディア・スタジオ(2018)

 サウンドトラックの演奏は現代のマヌーシュ・スウィングを代表するギタリストの一人、ストーケロ・ローゼンバーグを擁するローゼンバーグ・トリオによるもので、ジャンゴの指の動きがクローズアップされるシーンでは実際の演奏者のものも使われているはずだが、それとほぼ遜色のない当て振りを披露する名優レダ・カテブもお見事。ジャンゴのこともそれほど知らず、ギターも弾けない状態からこの映画のために1年半かけて練習したという。18歳の時に火傷を負って左手が不自由だったジャンゴに特有な運指の雰囲気がとても美しく演じられている。

 ついつい音楽や演奏シーンにばかり眼がいってしまうのだが、ユダヤ人迫害の陰に隠れてしまいがちなジプシー達への容赦のない暴力を象徴するオープニング、全体を通奏低音のように支えるジャンゴによって書かれたとされるクラシック作品“レクイエム”、奔放な生活を楽しみながらも戦争の闇に追いつめられて苦悩して行くジャンゴ達、それらが紡ぎあわされるうち、エンディングに導かれ、そこに現れる人々にはっと心を突かれるという演出の縦糸が鮮やか。それを彩る刺繍のように、音楽の練習や釣り、恋と酒の日常が響きあう。演奏のシーンのみならず、本物のマヌーシュ・スウィングの巨匠が実際に出演し、若干の演技をもしていることや、ナチスが演奏につける、シンコペーションやソロ・パートにおける制限や条件が非常に細かいこと、それらの丁寧な音楽への考証が、戦争やナチスとジプシーの描写にも説得力を与えていることに気づく。

 憧れの英雄ジャンゴと戦争の悲劇の新たな側面に、印象深い光をあてている。