現在クラシックから若手ジャズミュージシャンの抜擢育成まで様々な回路で大車輪している小曽根真の重要プロジェクトと言えるのが、15人にてビッグバンド表現にあたるNo Name Horsesだ。2005年以降、彼らは新曲を収録したベスト盤も含めば、創意と気持ちを込めたアルバムをこれまで7作発表してきている。

世界的なピアニストである小曽根(2025年は、世界を5周する予定が入っているそう)にとって、ビッグバンドという表現はどういう位置にあるものなのか。そして、その単位の作編曲に、彼はどのような意志を込めているのか。これまでの歩みを振り返るとともに、オリジナル新作としては5年ぶりとなる『Day 1』の進化について尋ねてみた。

なお、ここにはクインシー・ジョーンズの話も出てくるが、取材がなされたのは10月17日。ビッグ・Qの逝去前であったことを断っておく。

※このインタビューは2024年12月10月発行の「intoxicate vol.173」に掲載された記事の拡大版です

小曽根真, No Name Horses 『Day 1』 Verve/ユニバーサル(2024)

 

バンドの20年を支えた家族

――小曽根さんがNo Name Horsesを組んでもうすぐ20年ですか。

「まさか20周年のCDを出すようになるとは、思いもしなかった。皆さんのおかげですよね。特に妻の(神野)三鈴をはじめ、メンバーの家族のサポートがなくてはここまで来られなかった。いろんな問題が出てきても、そういうのを家族レベルでみんなで乗り越えてきた歴史があるんです」

――家族レベル、というのをもう少し説明していただけますか。

「海外ってミュージシャンの奥さんがギグに来るのは当たり前じゃないですか。でも、日本では夫の職場に妻が顔を出すという例はあまりなかったので、最初のツアーの時に相棒の三鈴が〈メンバーの家族も子供たちと一緒に見にくればいいじゃない〉と提案したんです。今は子供たちもみんな20歳を過ぎましたけど、当時は1、2歳でした。それで、ブルーノート東京の楽屋奥の個室にマットを敷いて、そこにぬいぐるみやレゴを置いたりして子供部屋にしたんです。そして、奥さんたちが交代で子供たちを見て、自分の旦那のソロを吹く姿を子供とちょっと見に行ったり。

本当にこのバンドはファミリーの存在がすごく大きくて。音楽は真面目にやればやるほど、自分が抱えるいろんな問題が出てくる。それを家族レベルでみんなで乗り越えてきた歴史がすごくあります。20年たった今、こういうバンドになっているというのは、メンバーはもちろんですけど、その家族たちが本当にこのバンドを大切にしてくれたことが大きいんじゃないかなと思います」

――No Name Horsesで、奥様会なり家族会みたいなのがあったりします?

「最近はないのですが、バンドが始まってからの数年はことあるごとに集まったりしていました。No Name Horsesがヨーロッパに行った時は、もう家族全員を連れて行きましたよ」

――すごい人数ですね。

「やっぱり旦那さんだけがそういう所に行くっていうのは……。向こうのコンサートでお客さんが総スタンディングオベーションになるようなシーンを家族がちゃんと見ておくっていうのは、すごく大事なことだと思いますね。2、3歳の頃に父親(ピアノ/オルガン奏者の小曽根実)に仕事場に連れて行かれ、人から喜ばれて拍手を受けお辞儀をしている父親を見るのは誇りでしたから」