現在を生きる三味線の音色――EDMにも踏み込んだ意欲作
これまでもジャンルの枠を超えた活動で津軽三味線の可能性を探ってきた上妻宏光だが、彼にとって「未知の領域だった」というEDMにも踏み込んだ本作は、かなり針が振れている。
「昨年、カザフスタンで行われた万博で演奏をさせていただいて、現地のミュージシャンとも出会って刺激を受けたんです。彼らの音楽には伝統的なものにもダンスがある。もちろん日本の民謡にも踊りはあるけど、三味線は伴奏的な役割が大きい。そこを、三味線をメインにしつつ人々が踊りたくなったり、クラブでもかけられる音楽を作りたいと思ったんですよね」
そんな彼のアイデアを象徴するようなナンバーが、現在最もエッジィなサウンドクリエーターのひとり、網守将平とコラボレーションした《CROSS OVER》。ここで聴かれるポップな浮遊感、そしてエフェクトをかけてメロディをリフレインしていくような三味線のサウンドには「今までとは明らかに違うアプローチで、三味線を面白くいじってくれたと思います」と確かな手ごたえを感じたようだ。
「若いコンポーザーやエンジニアと仕事するにあたり、まず三味線のことを知ってもらうのが重要だったので、そこには時間をかけましたね。三味線を使うとこういうことができると分かれば、彼らの引き出しも増えるのではと思います。自分も彼らの音楽の受け取り方や音の加工の仕方などを見て新しい発見があったし、刺激をもらいました」
アルバムにはEDM的なダンスチューンに加えて、ピアノの入ったジャジーなナンバーや、宮沢和史が歌い、三線と三味線のバトルも聴ける《いいあんべえ》、パーカッショニスト大儀見元とのデュオなど、従来のファンも楽しめる多彩な楽曲が並んだ。そしてラストを締める《JONKARA(旧節)》は、あくまでもベースは伝統的な三味線にあるという強烈なメッセージだ。
「三味線は伝統的であると同時に現在を生きている楽器。だから当然、今の音楽も奏でることができます。民謡が人々の生活の中から生まれてきたように、このアルバムは現代の僕たちのライフスタイルと密接に繋がっている。そんな想いをタイトルに込めました。三味線はみんなが考えているよりも自由な楽器なんだとこのアルバムを聴いて知ってほしいですね」
年明けには本作の楽曲を披露するライブツアーも決まっている。ここでは本作で得た新しいサウンドが存分に楽しめるはずだ。
「会場にはDJブースも作ります。DJと僕の三味線ががっぷり四つに組んだバトルとか、みんながびっくりすることもしたいですね」
LIVE INFORMATION
『NuTRAD』発売記念ツアー
○1/16(水)1st 17:30開場 18:30開演 / 2nd 20:30開場 21:15開演 会場:名古屋ブルーノート
○1/17(木)1st 17:30開場 18:30開演 / 2nd 20:30開場 21:15開演 会場:ビルボード大阪
○1/24(木)1st 17:30開場 18:30開演 / 2nd 20:30開場 21:15開演 会場:ビルボード東京
【出演】上妻宏光(津軽三味線)はたけやま裕(perc)伊賀拓郎(p)
【ゲスト】朝倉さや(vo)DJ’TEKINA//SOMETHING a.k.a.ゆよゆっぺ