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ほんわかとあったかい津軽弁の魅力をジャズで広める
ジャズ・ヴォーカリストとして80年代から活動を続けてきた伊藤君子のもうひとつのライフワーク、それが〈津軽弁ジャズ〉だ。津軽弁というととりわけ田舎臭い方言の代名詞のように捉えられがちだが、伊藤が取り組むのは決して冗談めかした企画アルバムなどではない。2007年の『津軽弁ジャズ~ジャズだが?ジャズだじゃ!』以来となる津軽弁ジャズの新作『津軽弁ジャズ~ジャズだべ!ジャズださ!』もまた、津軽弁の魅力が存分に表現された作品となった。
伊藤は瀬戸内海の小島、小豆島の出身。そのためもともと津軽弁に馴染みがあったわけではなく、「最初は東北弁のひとつという感覚」だったという。それが津軽弁の保存活動を行っているタレント、伊奈かっぺいから「津軽弁でジャズをやってみません?」と提案されたところから〈津軽弁ジャズ〉という前代未聞のプロジェクトがスタートする。
「津軽弁は母音の数が5つだけじゃないんですよ。たとえば“あ”と“い”の間の微妙な音があって、そこが面白い。あと、津軽弁に対する津軽の方々の情熱。“これを残していかないと”というかっぺいさんたちの思いがとても強いんです」
新作『津軽弁ジャズ~ジャズだべ!ジャズださ!』に収録されているのはいずれもよく知られたスタンダード。《ラスト・ダンスは私に》《この素晴らしき世界》などが津軽弁で歌われていくが、一瞬どこの言語だか分からないような不思議な響きがあり、それが新鮮な驚きとなってこちらに迫ってくるのである。
「かっぺいさんに津軽弁の訳詩をお願いしたんですけど、書き上がった段階でメロディにちゃんと乗るかどうか、細かくチェックしてもらったんです。ただ、津軽弁上級編の曲ばかりなので、パッと聴いても何語か分からないでしょうね(笑)。元の言葉をどれぐらい残しておくか、そこも難しいところで」
ゲストには佐藤竹善や津軽三味線奏者の上妻宏光が参加。世界を股にかけて活躍する宮本貴奈がアレンジとプロデュースを手がけている。
「青森出身の佐藤さんでも知らない言葉があったみたいですね。“なんで私がやらなかったんでしょうね?”とおっしゃってました(笑)」
地方言語の保存活動と音楽表現が手を結ぶことはワールド・ミュージックの世界では珍しいことではないが、英語ないしは標準語(東京方言)で歌われるケースがほとんどのジャズにおいて、伊藤の試みは大変意義のあるものだ。そして、何よりも《津軽弁ジャズ》の独特の響き。そこから土地の文化や風土が透けて見えてくるのがこのアルバムのおもしろさでもある。
LIVE INFORMATION
津軽弁の日やるべし会
○10/23(金)会場:青森市文化会館
リリースライヴ
○10/24(土) 東京・青山Body & Soul
○10/29(木) 名古屋・ラヴリー
○10/31(土) 尼崎・あましんアルカイックホール・オクト
○11/1(日) 広島・スピークロー
○11/2(月) 熊本・CIB
○11/19(木) 川崎ジャズ・フェス ほか
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