多分野で才能を発揮してきた金子賢がついにDJとしての本性を露にする! 渾身の『XX』は知られざるヒップホップへの愛と敬意が化学反応を生み出した一撃だ!!

俺はファン目線だから

 俳優・タレントとして活躍するほか、格闘技やサーフィンにも精通し、2015年からはフィットネス大会〈SUMMER STYLE AWARD〉を主催するなどマルチな顔を持つ金子賢。その一方でDJ業も長く続けてきた彼が、DJ KEN KANEKO名義でファースト・アルバム『XX』を完成させた。

 小学生の時に観た洋楽のヒットチャート番組でブラック・ミュージックに興味を持ったという彼が、ヒップホップにハマったのは中学2年生の時。先輩に借りたアイス・TのCDを聴いて〈なんだこれは?〉と驚き、その後に先輩に誘われて行った六本木EROSでクラブを初体験。目の前で繰り広げられる鮮やかなプレイに触発され、DJを志すようになったのだという。

 その後、高1の冬にお年玉をかき集めてDJ機材を購入。すでにDJを始めていた先輩を師と仰いで練習に励み、親からもらった昼メシ代で昼メシを食わずにレコードを一枚買う……そんな毎日だったそうだ。

 「渋谷のレコ村で初めてジャケ買いしたのがア・トライブ・コールド・クエストの“Hot Sex”。もう一枚はファーサイドだったかな。当時はチーマー全盛で、ウーハーを積んだ車で渋谷をウロチョロしながら爆音で曲を流すのがカッコイイ時代。DJを始めた頃は、カセットテープに自分のミックスを録って、それを先輩の運転する車の中で聴かせ合うのが週末の楽しみでした」。

 DJデビューは93年。場所は渋谷J Trip Bar。その際にハコに常設されたDJ機材の使い方がわからなかった金子少年をアシストしてくれたのはDJ KEN-BOだったそう。その後、六本木のBUZZでDJをしていた時にオープンマイクを奪いに来たのがラッパ我リヤ結成前後のQ。横浜では風林火山やCORN HEADと邂逅し、原宿にオープンしたreal mad HECTICに通ううちにDJ MAGARAの部屋に入り浸るなど、日本語ラップ黎明期を支えた人物たちと二十歳前から知り合ってきた。

 それから約20年、トラックメイカーにBACHLOGIC、ラッパーにNORIKIYOとJAZEE MINORを招いたDJ KEN KANEKOとしての初シングル“Endless Summer”を発表したのが2015年。以降、年に3曲ずつのペースでコンスタントに新曲を配信してきた。

 「最初は〈DJ〉をつけなくてもいいと思ってたんです。ただ、地方にDJで呼ばれると、〈芸能人・金子賢〉としてパーティー向けのセットを求められることが多くて。それでもヒップホップをかけたくて、OZROSAURUSとかTOKONA-Xとかを混ぜたりもしていました。だったらDJ名義で曲を出せば、〈こういうのが好きな人なんだ〉と思ってもらえるかなと考えたんです」。

DJ KEN KANEKO XX K2(2019)

 本作『XX』には、日本武道館ライヴを成功させたばかりの般若や、「フリースタイルダンジョン」でお馴染みの輪入道のような人気者から、ずっとお気に入りだというYoung Hastle、目覚ましい活躍を続ける唾奇、MC TYSON、JAGGLAといった注目の若手まで全22人が参加。長年に渡って日本語ラップを日常的に聴いてきた彼の耳で選んだラッパー/シンガーたちが腕を揮い合い、値打ちものの絡みを聴かせている。

 「初顔合わせのコラボだけでやろうというのが大きなテーマでしたね。その組み合わせを実現させていくだけで大変だったけど、パズルがハマって曲が出来た時の喜びは格別だったし、俺は常にファン目線だから。自分の聴きたい組み合わせで曲を作るという欲求が強かったから、ここまでやれたんだと思う。アルバムのタイトルは全曲アーティストの掛け合わせだから〈X〉を入れようと。構想から入れると2015年からだけど、いまのスタッフと本格的に作り出したのが2年前。俺と彼の2人で2年かけて作ったから『XX』にしたんです」。

 

流行も気にしてない

 『XX』での掛け合わせに着目すると、大半の曲にシンガーや〈歌えるラッパー〉を迎えていることが大きな特徴。さらに全曲がミッドテンポに仕上げられている。そこには彼のルーツ音楽が影響しているようだ。

 「青春時代に好んで聴いたのはネタのあるものが多かったんです。サビが歌モノだったり、サンプリングのネタ感が強いもの。あと当時のヒップホップのいちばん好きなのはBPM90くらいのもので。ディスコでかかる曲も嫌いじゃなかったけど、自分が聴いてきたのは90~95くらいだし、今回のもBPMは大抵90台。そこで統一感を出したかったんです」。

 全11曲が収録された本作のトップを飾るのはSHINGO★西成×JAGGLAによる新録曲“ウエニイコウ”。アコギ主体の清涼感溢れるレイドバック・チューンで、2人の人懐っこい人間味が伝わってくる曲だ。

 「トラックを聴いた時に、2パックの“Thugz Mansion”に似た雰囲気を感じて心地良かったから、ここにインパクトのあるラッパーを乗せたいなと思ってたんです。そしたらSHINGO君からあのフックが返ってきて、〈これ来たわ〉と思って鳥肌が立って。SHINGO君の3ヴァース目に出てくる〈にっちもさっちもいかない10代/必死のパッチ がむしゃら20代~〉って各年代の特徴を歌っていくリリックは〈まさに!〉と思った。周りの奴らに聴かせまくってるし、DJする時に〈20代、手を挙げろ~。よし聴け~!〉ってやりたいくらい(笑)」。

 KiDNATHANとGOODMOODGOKUを迎えたもうひとつの新録曲“The Answer”はネタの早回しが印象的なメロウなナンバー。現在トラップ・シーンを主戦場としているKiDNATHANは今作の顔ぶれとしては少し異色だが、「彼の“Fun”が大好きで今回ぜひやりたかった」とのこと。GOODMOODGOKUはKiDNATHANからのリクエストもあって新味のコラボが実現した。

 「今回はいろんなタイプのアーティストに参加してもらったけど、いちばん気にしたのは滑舌ですね。一聴して耳に入る歌を作りたかった。俺は歌詞カードを見なくても歌詞が聴き取れる曲が好きだし、俺が紹介することでヒップホップとは違う村の人たちも聴くと思うから、リリックの内容に口出しはしないですけど、誰にでも普通に聴き取れるようにラップしてほしいとは伝えてました。例えば“JAPAN”に出てくる紅桜の〈スマホじゃなくて子供を撫でろ〉っていう良いラインとか、そういう言葉がちゃんと届くようにしたかったんですよ」。

 参加陣の人選や組み合わせと、それに見合ったトラックのチョイスにこだわり、キャスティング・プロデューサー/エグゼクティヴ・プロデューサーといった役割でアルバムを仕上げたDJ KEN KANEKO。そうしたプロデュース方法は、海外ではDJキャレドが知られている。

 「キャレドなんて滅相もない。流行も気にしてないし、ただ好きでやってるだけだから(笑)。でも、これで若い子がフックアップできたらと思うし、今後も曲は作り続けていきたいです。この『XX』を出したことによって、今回よりはオファーもしやすくなるだろうし。目標は来年くらいに次のアルバムかな。そうすると制作が1年なんで、次のタイトルは『X』になるかもしれないけど(笑)」。

 

『XX』参加アーティストの関連作を一部紹介。