エチオピア音楽を突き詰めたひとつの到達点

 エチオピアの音楽職能集団であるアズマリの家庭に生まれ、その伝統のもと育ったひとりの音楽家が、移住先のオーストラリアで自身のルーツを元にしたファンク・バンドを結成した。それがンデレブ・デッサレイ率いるデレブ・ジ・アンバサダーだ。2011年に初作がリリースされた後、ンデレブはクァンティックやデクスター・ストーリーの作品にもフィーチャー。7年ぶりとなる新作『Ethiopia』について彼は「クァンティックたちと共演したことで、作りたい音の輪郭がはっきりしてきてね。特にリズム面。それで今回はセルフ・プロデュースで作ろうと思ったんだ」と話す。

 「このバンドではダスティでオーガニックな、60~70年代のエチオピア・ソウルをやろうとしているんだけど、今回はよりアップリフティングでファンキーなものを求めて、いろんなリズムを試してみたんだ」

 ンデレブは幼少時代からエチオピア各地のアズマリベッド(アズマリたちが演奏する音楽酒場)で演奏を行ってきたが、結婚を機にオーストラリアに移住してからは音楽活動を休止。「10年ほどは自分が音楽家であることを周囲の誰にも言わなかった」という。

 「僕はエチオピア文化の真っ只中で育ったわけだけど、オーストラリアに移ってからはオーストラリアの文化を理解しなくちゃいけなかった。それがなかなか大変でね。エチオピアで育った自分と西洋文化のあいだで摩擦が起きたんだ。ただ、エチオピア音楽をプロモートすることに自分の役割があることは忘れなかった。僕らエチオピア北部の人間は伝統文化に情熱を持っていて、祖先から伝わる歴史を大切にしてきた。僕も子供のころから自分の役割を認識していたけれど、それをどう表現すればいいのか分からなかったんだ」

DEREB THE AMBASSADOR 『Ethiopia』 Dereb The Ambassador/ビーンズ(2018)

 彼にとってデレブ・ジ・アンバサダーとはその役割を全うするためのバンドでもあり、その意味でンデレブはエチオピア音楽の〈アンバサダー(広報大使)〉でもあるわけだ。最新作『Ethiopia』とは、異国の地でエチオピア音楽のなんたるかについて考え続けた彼のひとつの到達点ともいえる。そんなンデレブにあえて質問してみたい――エチオピア音楽の魅力とは?

 「難しい質問だね(笑)。エチオピア音楽はリズムだけとっても素晴らしくソリッドだし、僕のように子供のころから演奏し続けてきた音楽家ばかりだから技術的にも優れている。しかもみんな音楽学校ではなく、音楽の現場で技術を学んできたんだ。また、エチオピアの音楽家は数百年に及ぶスピリチュアルな教会音楽の背景を持っていると同時に、西洋のポップ・ミュージックやジャズからの影響も受けてきた。エチオピア音楽は単純じゃない。さまざまな側面があるんだ」