©Nikolaj Lund

 

50年以上演奏されなかった作品に光を当てた録音

 ノルウェー出身の若きヴァイオリニスト、エルビョルグ・ヘムシングが、長年忘れられていた自国の作曲家、ヤルマル・ボルグストレムのヴァイオリン協奏曲に光を当て、デビュー録音にこぎつけた。

 「友人から楽譜をもらったのですが、1914年に作曲されたこのコンチェルトは50年以上忘れられていて誰も演奏しませんでした。弾いてみたらとても抒情的で、後期ロマン派を彷彿とさせ、ヴィルトゥオーソ的な面も含まれています。すっかり魅了されてしまい、自分のアイデンティティも強く意識するため、ぜひ録音したかったのです。でも、指揮者もオーケストラも初めて見る楽譜ですから、最初は大変でした。演奏が始まるとみんなが作品のよさを理解し、録音は嬉々とした雰囲気に包まれ、未知なるものへの挑戦で刺激的でした。達成感もありましたね。だれの演奏も残っていないため、自分が自由に表現できることもよかったです。今後は各地でこのコンチェルトを弾いていきたいです」

 CDで組み合わせたのはショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番である。

 「この作品はオイストラフに献呈されていますが、私がウィーンで師事しているボリス・クシュニール先生はオイストラフと交流がありましたので、その極意を伝授してくれます。ボルグストレムの作品がノルウェー的な明るさとリリシズムが特徴ですので、暗く苦痛に満ちているショスタコーヴィチの作品と好対照を成すのではないかと思い、組み合わせました」

 ヘムシングは母親も姉と弟もヴァイオリニスト。父親は自然保護の仕事に携わっている。父親は急に仕事が入るため、子どもたちはいつも母親のコンサートに一緒に行き、ずっと音楽を聴き続けた。

 「5歳からヴァイオリンを始め、6歳で最初のコンサートを行いました。8歳のときにプラハのコンクールに参加し、この地で教鞭を執っているアメリカ人の先生にレッスンに来るよう勧められ、長年プラハに通いました。ですからチェコの音楽が大好きです」

 2枚目のCDはドヴォルザークの協奏曲とスークの「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」。最後にスークの《愛の歌》の管弦楽版が収録されている。

 「《愛の歌》はベルリン・フィルのチェリスト、シュテファン・コンツの編曲。カザフスタン出身の指揮者アラン・ブリバエフとは長年の音楽仲間。密度濃いコミュニケーションができました。ピアニストのアンスネスからもいい助言をいただいたんですよ。今後はやはり長年交流しているタン・ドゥンが私のために書いてくれた協奏曲がリリースされます。私は常に新たな挑戦をしたい。いつも先を見ていたいのです」