インタビュー

ANDERS JORMIN 『Ad Lucem』

ラテン語が響かせる音霊

ANDERS JORMIN 『Ad Lucem』

 ECMレーベルの常連には、独自の音楽性を貫いているベーシストが少なくない。最近作『Ad Lucem』(2012年)の録音メンバーで5月に来日した、スウェーデン人のアンデルス・ヨルミンもそのひとりだ。スウェーデン・ラジオの委嘱作品であるこの音楽は、ヴォイス2人にサックス、ドラムス、ベースという編成のために書かれ、ヴォイスの2人はリード・シンガーとソロイストの二役を受け持つ。歌詞はデンマークの現代詩人ピア・タフドルップによる1編を除き、全てラテン語で書かれている。

ANDERS JORMIN Ad Lucem ECM(2012)

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 「音楽は若い頃から勉強していましたが、両親の意に反して(笑)音楽家を目指す決心をしたのは20歳になる直前で、それまでは化学や数学を専攻していました。ですから、通常の教育の一環としてラテン語は勉強していました。ラテン語を選んだのは、興味深い歴史に満ちている、グレゴリオ聖歌や中世ヨーロッパ声楽はこの言語で書かれている、母音が豊富でボーカリストが歌いやすい、少ない語数で様々な意味が示唆できる、などの理由からです。たとえば“ad lucem”は、“光に捧げて”や“光を求めて”などの意味に解釈できます。メロディは詩が完成してから、その韻律やシラブルの長さなどを元に書きました」

 それぞれの詩はもちろん、曲の解釈や演奏の方向性を示すものだが、《Vigor》では、“力”あるいは“エネルギー”を意味するタイトルが、それ自体は意味をなさない、ダダ詩のような音声によるヴォイスのインプロヴィゼイションの方向性を指示している。いっぽう、《Vox animæ》では、弓弾きのベースとサックスが、声の方に寄り添うような演奏をしている。

【参考音源】アンデルス・ヨルミンの2012年作『Ad Lucem』リリース記念コンサートの音源

 

 「ダブルベースでメロディを弾く時にはいつも、“歌う”ように心がけています。楽器を通して歌いたいという気持ちと、もともと人間の声を再現するために開発されたサックス、声を楽器のように扱うアレンジの組み合わせで、ダブルベースと声という、全く異なる音が互いに歩み寄っています。古くからある“楽器”に、新しい役割を与えているわけです」

 このように、作曲者が意図した曲によるコンセプトの違いを演奏者が繊細かつ明確に区別することで、『Ad Lucem』はシンプルな編成でありながら実に内容の豊かな作品に仕上がっている。そして、アンダーシュは独創的な新作を10月に発売予定だという。

 「スウェーデンの民謡歌手レナ・ヴィレマルクと二十五絃中川かりんとのトリオです。筝のために作曲するので、日本音楽も少し勉強しました。レナは自身の方言で歌っています。タイトルは決めていませんが、これもまた、ずいぶん変わった作品ですよ」

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