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思想的な理由で別れていた77年のベルリンを再現しながら現在について考える

 『現在ほど妄想や倫理的基盤の失った集団意識、ヒステリックな反動に落ちていく危険性がある時代は近年になかった』という言葉でこの映画の記者会見は始まった。

ルカ・グァダニーノ,ダコタ・ジョンソン サスペリア ギャガ(2019)

 監督ルカ・グァダニーノは彼の『サスペリア』は社会のはみ出し者、特に女性のアウトカーストを描いた映画だと語っている。1977年のアルジェントの映画 「サスペリア」に基づいているが、全く別の映画になっている。リメイクではない。1977年という年のベルリンという思想的な理由で二つに分かれていた都市が再現され物語は進む。

 あるアメリカ人のダンサーが名門舞踊団のオーディションに来る。メディアでは極左のテロリスト集団、ドイツ赤軍が飛行機をハイジャックしてたという事件が報道されている。舞踊団は1947年に初演されたコンテンポラリー・ダンス作品のパフォーマンスの準備をしている。戦後32年経った77年ではナチスの作り上げた民族と民衆の神話の後遺症に人々が悩まされている。極左の見ていた神話も77年から崩れて行った。

「人に妄想を与えることができる。宗教とはそういうものだ。第三帝国もそうだった」と映画の中で精神家の老人が語る。哲学的に考えさせられる会話だ。この老人を演じているのは、この映画で3役も演じる女優のティルダ・スウィントン。ルカとティルダはこの映画の構想を25年間も話し合って作ったという。

 音楽を担当したトム・ヨークは映画のロケ・ハンからも同行していた。ルカとティルダの仕事はレディオヘッドでのコラボの仕方と似ていたとトムは語っている。ルカ曰く「キューブリックの音楽の使い方は良かったが、今の時代にふさわしい新しいタイプの映画音楽を作りたかった」。魔女が儀式で歌う呪文の歌、1970年代のカンやノイを思い起こさせるドイツ・ロック風の曲、コンテンポラリー・ダンスのための呪文的なミニマルの作品、そしてトム・ヨークが歌う名曲が含まれている。ダンスはピナ・バウシュやマリー・ウィッグマンに基づいている。

 この映画は見る度に新しい発見がある。DVDで絶対に持っていたい。