私は、シンガーソングライターとして自分で作詞作曲をしている。初めの頃は、私に曲が作れても世間でたくさん聴かれているような曲たちは到底作れないと思っていた。その考えは私にずっと付きまとい、自分で曲を作ってライヴしてみてもなかなか自分の曲を認められなかった。いや、自分の曲だと認めたくなかったのかもしれない。完璧を求めるがゆえ、もっといい曲が作れるはずなのにと自分にどんどん圧力をかけていた。とはいえ、私は何もできない。勉強も運動も習い事も家庭も性格も容姿も人並み以上優れていないと嫌だった。いくつも嘘をついてなんとなく逃げてうまく誤魔化した。可愛い子と出かけた時、急に劣等感に押し殺され、自分は生きている価値がないとまで思った。だからいつも作る曲は架空の恋愛ソング、あのアイドルグループやバンドが歌っていそうな歌。自分を歌ったことがなかった。自分を歌うことは、怖かった。でもそれが、自分も、自分のいちばんリアルな生命体である歌も認めることができたいちばんの術だったのかもしれない。

 今回ご紹介する曲は、Base Ball Bearさんの“いまは僕の目を見て”です。特に歌詞に強く惹かれました。〈「正しく」よりも「間違わずに」伝えることに慎重になる〉——ものすごく素直であるのに、ありのままは伝えられないもどかしさに葛藤している心情が浮かびました。人物のまっすぐなキャラクターまでもが想像できる素敵な歌詞だなと思います。Base Ball Bearさんの曲はいつもひとつの短編小説を読んでいる気持ちになります。そこに、主人公だけでなく恋心を抱いている女の子のキャラクターまでもが見えてくる様子がとても楽しいです。私はこの歌詞に、曲を作っている自分を当てはめて聴いていました。〈手応えばかり求めて 言葉を重ね続ける〉。うまく自分の曲が好きになれなかった頃の心情にぴったりと当てはめてくれた言葉でした。曲の世界とまったく違うシチュエーションでも〈私のことを歌ってる〉と思えることがとても美しく愛おしく感じました。

 

“いまは僕の目を見て”を収録したBase Ball BearのニューEP『Grape』(DGP/ビクター)。CDはライヴ会場でのみ入手可能です!

 


原田珠々華(はらだすずか)
2002年生まれ、神奈川出身。ファースト・ミニ・アルバム『はじめての青』(TOWER RECORDS)が好評リリース中。10月19日には〈渋谷音楽祭2019 星空ラジオスペシャルバージョン〉に出演し、10月26日からは東名阪の3か所を回る〈原田珠々華 Cafe Live Tour〉がスタートします! 詳細は〈haradasuzuka.com〉にて!
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