昨年、たった一度のライヴで音楽シーンの話題をさらったスーパー・バンド〈カーリングシトーンズ〉が、ついに待望のフル・アルバム『氷上のならず者』をリリースする。

カーリングシトーンズ 氷上のならず者 DREAMUSIC(2019)

バンドが結成されたキッカケは、寺岡シトーンのソロ・デビュー25周年記念ライヴだった。LINEグループでメンバーを募ったところ、この面々が集合。50才を少し過ぎたいい大人たちの遊び心が発端ではあったが、さすがにこのメンバー。やると決まったからには本気で、ライヴで披露する新曲の制作に挑んだ。奥田シトーン、浜崎シトーン、斉藤シトーン、トータスシトーン、キングシトーン、そして寺岡シトーンは、それぞれが30年前後のキャリアを持ち、全員が深刻ぶらず、ユーモアたっぷりの音楽を作り続けてきた。それは彼らが〈バンド〉を原点として音楽作りをしてきたことと、大いに関係がある。バンドのメンバー同士がお互いに楽しみながら音楽を作り、その楽しみをライヴでオーディエンスたちとシェアする。その原則はカーリングシトーンズにも活かされた。

6人はお互い忙しい日々の中で全員がオリジナル曲を書き下ろし、スタジオに持ち込んで他のメンバーのアイデアを塗り重ねていく。その日、スタジオにいる人間がドラムスを叩き、ベースやギターを弾く。歌詞に煮詰まると、「ちょっと、この後、書いてくれない」と引き継いでいく。おもしろければ、誰が弾いても書いてもオッケー。こんなレコーディングは滅多にない。

昨年のライヴで新曲の手応えがよかったので、アルバムとしてまとめようということになったときも、最初に録った時の感触がよかったものは、デモのテイクをそのまま使っている。この出たトコ勝負が大成功を収めた。今年の夏前に行なわれた追加レコーディングは、まるで〈大人の修学旅行〉のように楽しかったという。

「このレコーディングで分かったのは、メンバーみんな、〈オレたちひょうきん族〉世代だってこと。だってあの番組、コラボだらけだもん。俺たち、お笑いじゃないけど、あの自由なノリに憧れるとこはあると思う」と奥田シトーンが言えば、トータスシトーンが「そうそう、俺もいま頭よぎってさ。このバンドはお笑いで言うたら〈ひょうきん族〉以降よね。〈はねるのトびら〉にしても〈ダウンタウンのごっつええ感じ〉にしても、気が合った人たちのワチャワチャした面白さ!」。そこにキングシトーンが「単独でやってるお笑いの人が集まって、関所破りする!」とかぶせる。いつしか音楽から脱線して、お笑い談義に突入。

「ライヴで最後に歌った“涙はふかない”は、ドリフの〈8時だョ!全員集合〉のエンディングみたいに、めくるめく歌い継ぎをやりたかった」と寺岡シトーン。それぞれの笑いのツボが、バンドのグルーヴを生んでいるのだ。バンド名をそのままギャグにしてしまった“何しとん?”を作った斉藤シトーンは、「音楽で遊びたかったから、メンバーみんなで歌える陽気な曲を作った」と続ける。一方で“俺たちのトラベリン”を書いた浜崎シトーンは、「この歌はトム・ソーヤーがおじさんになったらっていう設定。50代の男の手探り冒険ソング」とちょっぴり哀愁をにじませる。

大の大人たちが、互いを楽しませることに命を懸けるワクワク感がたまらない。昨年のライヴにゲスト出演してくれた世良公則さんには「俺たちの世代じゃできなかったこと。君たち、大いにやってくれたまえ。そして絶対にずっと続けて欲しい」とお墨付きをいただいたそうだ。

「夏休みに友達の家でニヤニヤ笑いながら曲作りをしてた頃のことを思い出した」という寺岡シトーンの言葉が、このバンドの楽しさのすべてを言い表している。そこに彼らのキャリアが加わって、12曲なのに、その倍くらい聴いた満足感がある。リスナーが笑顔になること、間違いなし。ルーツをしっかり押さえつつ、この6人ならではのエンターテイメントになっている。

言ってみれば『氷上のならず者』は、日本を代表するロック・ミュージシャンたちが作り上げた、日本を代表するJ-Rockアルバムだ。年末からのツアーでは、ならず者たちの歌と演奏とおしゃべりを、心から堪能したいと思う。