2009年に亡くなった不世出の音楽家・加藤和彦のトリビュートコンサートが、2024年7⽉15⽇に東京・Bunkamuraオーチャードホールで開催された。7組のアーティストが参加し、120分にわたる加藤和彦作品の演奏で満員の聴衆を沸かせたコンサートのレポートが到着した。 *Mikiki編集部


 

コンサートは名曲“あの素晴らしい愛をもう一度”から

開演前、会場には加藤和彦の作品が流れ、これから始まるコンサートの期待を煽る。1983年リリースの“だいじょうぶマイ・フレンド”が終わると場内は暗転。「あなたの音楽は様々な世代の方によって愛され、歌い継がれています。誰よりも早く、誰もやれなかった、やろうとしなかった音楽を残してきた音楽家。あなたをリスペクトするミュージシャン、スタッフ、何よりも客席にいらっしゃるオーディエンスの方々の気持ちが少しでも伝わることを願いつつ。さぁ、コンサートの幕を開けようと思います」と場内ナレーションが終わると曲のイントロが奏でられ緞帳が上がる。舞台には坂本美雨、ハンバート ハンバート、高野寛、高田漣が横一線に並ぶ。オープニングは公開中の映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」のエンディングにも使われた、スタンダード曲“あの素晴らしい愛をもう一度”。各々のメンバーが歌い継いでいくのに合わせ、オーディエンスも大合唱で爽やかに幕を開けた。

続いては「フォークソングを独自の解釈で継承するデュオ」と場内ナレーションで紹介されたハンバート ハンバートのふたり。ベッツイ&クリスの“白い色は恋人の色”や“もしも、もしも、もしも”などのフォークソングを美しいハーモニーで聴かせる。ギターの佐藤良成が加藤和彦作品に接したのは小学1年生(1984年)の頃。「フォークソング好きの担任の先生がギターを弾いて歌ってくれた曲。今思えば小学生に聴かせる曲じゃなかったですけど(笑)」と歌ったのはザ・フォーク・クルセダーズのデビュー曲“帰って来たヨッパライ”。高田漣の弾くバンジョーに合わせ、佐野遊穂がヨッパライ風のファニーボイスで歌い、エンディングにはカズーや木魚も登場。原曲の持つコミカル感やハチャメチャ感をステージで見事に再現し、オーディエンスから大喝采を浴びた。

次にステージに上がったのは田島貴男。1曲目に選んだのは加藤がサディスティック・ミカ・バンド解散直後に発表した“シンガプーラ”。ハンドマイクで艶やかに伸びやかにソウルフルに歌う。なんだか横浜中華街辺りで聴いているようなエキゾチックテイスト溢れる楽曲だ。この曲が収録されたアルバム『それから先のことは…』は、米国のR&Bやサザンロックの名曲を生んだ名門スタジオ、マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオでレコーディングされた。田島は「加藤さんと一緒にマッスル・ショールズに行きたかった!」と叶わなかった思いを話し、続いて五木寛之が作詞を手がけた“青年は荒野をめざす”を歌う。かつてOriginal Loveのアルバムでカバーしたこともあるザ・フォーク・クルセダーズのナンバーだ。大きなボディのギターをかき鳴らしながらパワフルに熱唱。フォーキーな原曲を、ジャンピンジャイブスタイルで鮮やかに蘇らせ、オーディエンスを熱くした。

坂本美雨は、加藤が竹内まりやに書いた“不思議なピーチパイ”でスタート。彼女の柔らかい澄んだ歌声が、客席を幸せな空気に包み込む。今回のコンサート参加に際し、坂本は母・矢野顕子に「思い出の曲ある?」と訊ね、選んだのが次に歌った“ニューヨーク・コンフィデンシャル”。1983年発表のアルバム『あの頃、マリー・ローランサン』に収められた楽曲で、矢野顕子がレコーディングに参加、後に自身のアルバム『Piano Nightly』でもカバーしている楽曲だ。ジャジーな歌声はムーディな照明とも相俟って、夜のニューヨークを彷彿させた。

自身の小学生の頃の日記を読み返すと、お母さんとお父さんの友達のコンサートに行ったと書かれていたのを見つけたという坂本。その日(1988年2月1日)は、中野サンプラザで小原礼のコンサートが行われ、加藤和彦、高橋幸宏、高中正義らがゲストで参加していた。期せずしてサディスティック・ミカ・バンドの面々が集結した公演を観た彼女だが、日記には〈音がうるさかった〉としか書かれていなかったそうで、小学生ならではのエピソードを披露すると場内からは笑いが漏れた。「こんな曲が書けたらなぁと思う、大切な曲を見つけました!」と最後に歌ったのは『それから先のことは…』収録の“光る詩”。高田の奏でる美しいアルペジオと坂本の澄んだ歌声が溶け合い、唯一無二の空間を作り上げた。

それぞれの思い出と共に披露する名曲たち

ここからは、ファンの間でも人気の高いヨーロッパ3部作のコーナー。まず高野寛が『うたかたのオペラ』に収録の“絹のシャツを着た女”、『パパ・ヘミングウェイ』に収録の“サン・サルヴァドール”を歌う。高野が高橋幸宏プロデュースでデビューアルバムをレコーディングした際、高橋が「トノバンにギター借りよう!」と加藤和彦のスタジオに連れて行ってくれたそう。そこで加藤に薦められたのは「マーティンD‐45という凄いギター。ビビりましたね。その出会いを鮮烈に覚えています。僕の加藤さんのファーストインプレッションでした」と加藤との思い出を語った。最後に、安井かずみさんと初めて一緒に作られた曲を、と“キッチン&ベッド”を披露。目を瞑ればそこに加藤和彦がいるのではと思わせる歌声をじっくりと聴かせてくれた。

奥田民生はヨーロッパ3部作・最終盤『ベル・エキセントリック』に収められた“浮気なGIGI”を披露。オリジナルにあった独特の退廃感を損なわぬよう色艶やかに歌いあげた。続いてはザ・フォーク・クルセダーズの“悲しくてやりきれない”。自身でも2002年にカバーしシングルとしてリリースしている。原曲のフォークトーンを、ディストーションの効いたレスポールギターをかき鳴らしながらルーズなスタイルで歌った。奥田の“イージュー☆ライダー”をも彷彿させるフォークロック調だが、アレンジがどう変わっても、この曲の良さは映える! そんなことを思い知らされた。

 

盟友・小原礼も登場、加藤和彦との出会いの曲を披露

ザ・フォーク・クルセダーズ、ソロアルバム楽曲と続き、コンサートも終盤へ。いよいよお待ちかねのサディスティック・ミカ・バンドのコーナーに。ミカ・バンドのメンバーでもあり最後のバンドとなったVITAMIN-Q featuring ANZAのメンバーでもあった加藤の盟友・小原礼が高野寛と一緒にステージに登場。客席から大きな歓声が上がった。まずはミカ・バンドのファーストアルバム収録の“アリエヌ共和国”を小原と高野のツインボーカルで聴かせた。次の曲は、小原が初めて加藤に会った時に「ニッティー・グリッティー・ダート・バンドみたいですごく好きなんですよ、この曲」と話すと「わかる?」と加藤が嬉しそうに笑ったそう。そんな小原と加藤との出会いの曲がザ・フォーク・クルセダーズの“家をつくるなら”だ。この曲では高田のスティールギターをフィーチャーし、小原の優しげなボーカルで場内を和ませた。ここでステージに奥田民生がジョインし、3人で再びミカ・バンドの豪快なブギウギロックナンバー“ダンス・ハ・スンダ”を演奏。間奏ではドラムソロやギターソロも披露され場内の空気も熱を帯びた。

トリビュートコンサート、最後のアーティストは90年代生まれの若い2人、GLIM SPANKY。1曲目に選んだ曲は高橋幸宏が作詞したサディスティック・ミカ・バンドのサードアルバム『HOT! MENU』収録の“BLUE”。松尾レミが歌う美しいメロディと亀本寛貴の奏でるギターを堪能できるミディアムテンポのナンバーだ。木村カエラをフィーチャーした第3期ミカ・バンドの英語表記はSadistic Mikaela Band。松尾レミは加藤さんが生きていたら第4期ミカ・バンドに加入したかったそう。そんな想いを込めて「次の曲はサディスティック・〈レミ〉カエラ・バンドとしてやります!」と宣言。ステージには小原礼と、かつてミカエラ・バンドのステージにゲストで参加した奥田民生も加わってSadistic Mikaela Bandの“Big-Bang, Bang!(愛的相対性理論)”を豪快に叩き込む。そしてラストは日本ロック史上に燦然と輝く不朽の名曲。松尾レミからの「みんな時間を旅しましょう!」のかけ声で“タイムマシンにお願い”のギターのイントロが鳴り響くや、客席も一斉に総立ち。場内の盛り上がりも最高潮に達し、本編は終了した。

アンコールではGLIM SPANKY、田島貴男、小原礼、奥田民生、高野寛が登場。曲はサディスティック・ミカ・バンド『黒船』収録の“塀までひとっとび”。本編の盛り上がりをそのままに、会場をこれ以上にはないほどにヒートアップさせ、2時間21曲の加藤和彦トリビュートコンサート東京公演は幕を閉じた。この夜演奏された楽曲を振り返り、改めて加藤和彦のメロディの普遍性とエバーグリーンな魅力を思い知らされた。是非、第2弾も開催して欲しい。

〈加藤和彦トリビュートコンサート〉の模様は、2024年8月18日(日)20:00からFM COCOLO「SUPER J-HITS RADIO」にて放送される。また、CS放送・歌謡ポップスチャンネルで2024年9月29日(日)22:00からテレビ初独占放送予定。

 


SETLIST
ハンバート ハンバート、坂本美雨、高野寛
1. あの素晴らしい愛をもう一度

ハンバート ハンバート
2. 白い色は恋人の色
3. もしも、もしも、もしも
4. 帰って来たヨッパライ

田島貴男
​5. シンガプーラ
6. 青年は荒野をめざす

坂本美雨
7. 不思議なピーチパイ
8. ニューヨーク・コンフィデンシャル
9. 光る詩

高野寛
10. 絹のシャツを着た女
11. サン・サルヴァドール
12. キッチン&ベッド

奥田民生
13. 浮気なGIGI
14. 悲しくてやりきれない

小原礼、高野寛
15. アリエヌ共和国
16. 家をつくるなら

小原礼、高野寛、奥田民生
17. ダンス・ハ・スンダ

GLIM SPANKY
18. BLUE

GLIM SPANKY、小原礼、奥田民生
19. Big-Bang,Bang!(愛的相対性理論)
20. タイムマシンにお願い

ENCORE
GLIM SPANKY、田島貴男、小原礼、奥田民生、高野寛
21. 塀までひとっとび

バンドメンバー:高田漣(ギター)、白根賢一(ドラム)、伊賀航(ベース)、ハタヤテツヤ(ピアノ)
ナレーション:作・田家秀樹 声・田中乃絵

 


INFORMATION
ラジオ番組:FM COCOLO「SUPER J-HITS RADIO」内で2時間の特番を放送予定。
放送予定日時:2024年8月18日(日)20:00~22:00
※radikoプレミアムに加入(有料)すると、関西以外のエリアでも聴取可能。
テレビ番組:音楽専門チャンネル・歌謡ポップスチャンネルでテレビ初独占放送。
※スカパー!、J:COM、ひかりTV、全国のケーブルテレビ局で視聴可能。

〈加藤和彦トリビュートコンサート〉 公式HP:https://wwwww.co.jp/wwwww/kazuhikokato_tributeconcert/
映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」HP:https://tonoban-movie.jp/