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2000年代の傑作群『mono』『omni』『ripple』、そして活動休止へ

――ここからは、2000年代にリリースされた『mono』(2002年)、『omni』(2003年)、『ripple』(2005年)という3枚のアルバムを振り返っていただこうと思うんですけど、やはり90年代に比べて作品の質感がガラッと変わっていくというか……端的に言うと、重くなっていきますよね。

「そうですね(笑)。その3作は、30代の頃に作った作品ということになるんですけど、ずっと悩んでいた感覚があります。

99年から2001年まで、最初のレーベルでやっていた頃のゴメスの作風は、いわゆるギター・ポップというか、色鮮やかな音楽を作っていたんですけど、そこで一度契約がなくなってインディーズになり、お金もあまり使えないっていうことになって。

で、ちょうどその頃、いわゆるDTM、パソコンを使って自分で録音できる環境が整ってきたことが重なって。大きいスタジオが使えないから、ある程度は僕が家で作るっていう形になっていったんですけど、それにしたがって、メンバー全員が顔を合わせることがどんどん減っていったんですよね。なので、この頃の作品は、どんどんどんどん、視点が個人的になっていって……その極致が、『mono』だったんです」

GOMES THE HITMAN 00-ism [mono/omni/ripple] compilation of the works in 00's (including some miscellaneous debris) VAP(2018)

『mono』『omni』『ripple』を収録した3CDセット『00-ism』

2004年のシングル“夜明けまで”。『mono』収録曲の新録ヴァージョン

――『mono』の頃の山田さんは、どんなモードだったのでしょうか。

「当時、アルバイトをしながら音楽を作っていくことになったんですけど、〈この先、どうやって生活していくんだろう?〉っていうところまできたときに、それまで〈自分はミュージシャンです〉と思っていたところが、何者でもなくなった感覚があって。そこで、生活を見つめ直す感じがあったんですよね。時間はやたらあるし、本を読んだり、ずーっとなにかを考えて思い悩んだりしていて。

ちょうど、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)が起こってウワーってショックを受けてしまったのもあったし、『mono』で一番ドーンと落ちたんです。で、そこからもう一度、新しいレコード会社でやれることになり『omni』で、また浮上するんですよね。『omni』の頃は〈またスタジオに帰ってこれたぞ〉という感覚があったと思います」

2003年作『omni』収録曲“愛すべき日々”

――確かに、『omni』は『mono』に比べても開けている質感のある作品ですよね。

「でも、『omni』を作ってみても、なにか満たされなかったんですよ。〈あれ? もっといけるんだけどな〉って……それでまた考えすぎちゃって、『ripple』でなにかをグーッと見つめている感じになっていく。

『ripple』の頃は、〈バンドって、どうやっていくものなんだろう?〉ということに悩み始めた時期だったなって思うんです。ずっと一緒にいるメンバーなので、コミュニケーションも段々おざなりになっていくし、自分が自宅で作りこんだデモをすごく気にいっているから、〈なにも手を加えないでほしい〉と思ってしまう。それをメンバーに伝えるのがしんどくて、ディレクター経由で伝えてもらったり。

2000年代は、メンバーと顔を合わせないで演奏している感じがずっとあったんですよね。でも、僕はその質感も面白いものだなって思っていたところがあって。すごく奇跡的なバランスでできたのが『ripple』だったんです。

で、そのツアーが終わったとき、〈しばらく先の予定を入れるのはやめよう〉ということになったんです」

2000年作『cobblestone』収録曲“手と手、影と影”

 

バンドって、自分のためだけにやるものじゃないな

――去年、RealSoundに掲載されたインタビューで、2000年代の山田さんにとって、大きな影響源となっていたのがウィルコだったと仰っていましたけど、具体的に、ウィルコのどういった部分に惹かれていたのでしょうか。

「2000年代は一番ウィルコから影響受けたと思うんですけど、やっぱり大きかったのは、〈普通にやらない〉というところでしょうね。そこに惹かれました。ギター、ベース、ドラム、ピアノがあって、ただただいい曲になるはずが、なにかが欠けている。そのバランス感覚の違和感みたいなものに惹かれたんですよね。

当時の僕は、〈一丸となっている〉状態ではないものを作りたかったのかもしれないです。どこか歪なものを作りたかったんだと思う」

ウィルコの2001年作『Yankee Hotel Foxtrot』収録曲“Jesus, Etc.”

――望まずに孤独になってしまった部分と、自ら孤独であろうとした部分が、2000年代の山田さんにはあるんですね。バンドの活動が途絶えて、ソロ活動を開始されて以降の期間、山田さんにとってゴメスとはどのような存在でしたか?

「ゴメスの存在は、亡霊のようにずっと自分の後ろにあるものでした。今でもそうなんですけど、自分のソロ名義でやっているものは、本当にインディペンデントなもので、誰からの指図も受けず、やりたいことをやりたいようにやっている感じなんですよ。

でも、ソロでも充実した活動ができるようになって、〈これで一生、死ぬまで自分は音楽をやっていくんだな〉っていうことがわかったときに、〈バンドをもう1回やり直してみたいな〉と思ったのが、今から5年前で。それで、2014年に〈GOMES THE HITMANのライブ活動を再開します〉って言ったんですけど、そのときのお客さんの嬉しそうな顔を見ると、〈みんな、そりゃあバンド見たいよね〉と思って。僕だって、自分の好きだったバンドが久しぶりに作品を出すと嬉しいし、実際、バンドの方のチケットはめちゃくちゃ売れたし。

そう考えると、〈バンドって、自分のためだけにやるものじゃないな〉と思ったんです。お客さんがこれだけ喜んでくれて、昔ライブに来てくれていた子たちがまたライブに来てくれたりもして……バンドって、僕がひとりで〈辞める〉と言って辞めることができるようなものではないんだなって思いました」

 

GOMES THE HITMANと山田稔明ソロのバランス

――それから今に至るまで、ソロとバンドを並行して活動されていますよね。

「自分でも不思議な感覚なんですけど、山田稔明とゴメスをレースさせている感覚があるんですよ。ここ5年間、山田稔明とゴメスの2デイズ・ライブを毎年やっているんですけど、そのチケットの売れ行きを、自分でずっと見比べているんです。〈やっぱりゴメスの方が売れるの?〉とか、〈あれ、ソロの方が売れてる!〉とか、ひとりで一喜一憂しながら(笑)」

山田稔明の2016年作『pale/みずいろの時代』収録曲“calendar song”

――ははは(笑)。

「その感じが、すごく面白くて。ソロのライブでは、MCでゴメスのことをクサしてみたりして(笑)。今のやり方が、一番バランスがいいなって思うんですよね。バンドでやるときには、バンドとしての使命を果たして、ソロでやるときは、本当に自分でやりたいことをやって……そのバランスでやれるようになったのが、この数年で。それぞれ全く違うことをやっている感覚だから、自分にはソロとバンド、ふたつないとダメなんだなって思います。

2000年代は自分のエゴを突き通すことでしんどくなってしまったけど、今、ゴメスをやるときには、〈みんなが嫌なことはやらない〉という暗黙の了解もあるし。90年代の頃も含めて、こんなに調子がいいことは、今までなかったんじゃないかな」

 


LIVE INFORMATION

GOMES THE HITMAN presents
new album『memori』 発売記念公演
“MEMENTO – TOKYO”

2020年2月25日(火)東京・渋谷 WWW
開場/開演:19:00/19:30開演
ゲスト:PLECTRUM
前売り/当日:4,500円/5,000円(いずれもドリンク代別)
主催:GOMES THE HITMAN.COM
​協力:UNIVERSAL MUSIC

GOMES THE HITMAN presents
new album『memori』 発売記念公演
“MEMENTO – NAGOYA”

2020年3月21日(土)愛知・名古屋 K.Dハポン
開場/開演:18:00/18:30
前売り/当日:4,500円/5,000円(いずれもドリンク代別)
主催:GOMES THE HITMAN.COM
​協力:UNIVERSAL MUSIC

GOMES THE HITMAN presents
new album『memori』 発売記念公演
“MEMENTO – OSAKA”

2020年3月22日(日)大阪・梅田 シャングリラ
開場/開演:18:00/18:30
前売り/当日:4,500円/5,000円(いずれもドリンク代別)
主催・企画制作:GOMES THE HITMAN.COM/Shangri-La
協力:UNIVERSAL MUSIC