左から、まさし(ギター)、ハコ(ベース・ヴォーカル)、下田(ドラムス)
 

古都の夕べではベース・ヴォーカルを担当し、過去にはthe chef cooks meでコーラスを務めたこともある紅一点のハコ(ベース・ヴォーカル)と、バンドを組んでからドラムスを始めた下田、バンド結成当初にギターを売ろうとしていたまさし。御多忙プピーピの3人は、ミュージシャンというより限りなく一般人に近い(とは本人たちの弁)。けれど、CD-Rでリリースされた初作『取り急ぎご確認下さい』における音楽理論をまるで無視した楽曲と、寸劇を交えた彼らのライブ・パフォーマンスは、ごくごく一部の物好きには引っかかるものがあり、Mikikiではレビューで取り上げライブ・イベント〈Mikiki Pit Vol.9〉にも招聘。その結果、〈Mikiki Pit〉ではオーディエンスだけでなく出演者までもが驚きと爆笑の渦に包まれた。

そんな3人が10曲入り(※)のファースト・アルバム『パフェはジャリ』を、ライブ会場の物販限定で12月30日(月)にリリース。近くストリーミングでの配信や通販も予定されているという。(※10曲のうち3曲が『取り急ぎご確認下さい』からの再録、1曲は新録、残りの6曲は新曲) 素人同然の3人が生み出す音楽が、なぜごくごく一部の人には病みつきになってしまうのか、3人に話を訊いた。

そしてインタビューの最後には、『パフェはジャリ』をレコーディングしたエンジニア、井上勇司氏(クロスロードスタジオ)から3人への激励のメッセージも掲載する。

御多忙プピーピ パフェはジャリ (2019)

あなたはパフェの食感について考えたことがありますか?

――〈Mikiki Pit Vol.9〉、出演していただきありがとうございました。

下田「いいイベントでしたよね、みんないいバンドで。いままで出たライブのなかでいちばん良かった」

――前作(『取り急ぎご確認下さい』)の内容が衝撃的で、ライブを観たらもっと衝撃的だったので絶対に出てもらいたくって。前作はどれくらい売れました?

下田「200枚行ってないくらいですね。CD-Rで遂次焼いてたから在庫もないし」

ハコ「今回新作が出るので生産は終了しました」

――前作の5曲のうち4曲は今作にも入ってるわけだしね。今作も、この独特の脱力したジャケはハコさん画で。

ハコ「私、何かをやれって言われるとできなくなっちゃうんですけど、下田さんに今日こそは描いてって言われて。飲み会帰りの深夜にね」

下田「このCDを売る予定の年末のライブがいよいよ迫ってきてるからね。ハコさんの絵の世界観いいでしょ」

――たしかに(笑)。タイトルの『パフェはジャリ』というのは?

ハコ「今作にも収録されている“クロスダンス”っていう曲があるんですけど、もともと“パフェはジャリ”っていう曲になる予定だったんですよ。酒井さん(インタビュアー)、パフェの食感で大事にしているものってあります?」

――え、パフェの食感!? 考えたこともなかったです。

下田「パフェはジャリジャリ感が楽しめるのが大事だよねって」

まさし「ほら、下のほうにコーンフレークが入ってて、ジャリジャリしてるじゃないですか」

――え、あれ無くてもいいなあ!

下田「うわあ~……一定数いる〈ジャリ要らない派〉だ!」

ハコ「私と下田さんは〈パフェジャリ派〉で、まさしは何も感じてない人」

――ジャリって食感、そんなに大事!? コーンフレークじゃなくてスポンジだけでもいいんじゃ。

下田「もうそれパフェである必要ないじゃない」

ハコ「みたいな話から“パフェはジャリ”という曲を作ろうとしてたんですよ」

下田「その日、三軒茶屋のクロスロードスタジオでレコーディングをする予定で、向かってる途中に、エンジニアの井上さんの体調が悪くなってレコーディングが中止になっちゃって。喫茶店に入ってパフェ食べててね」

ハコ「〈ところでまさしはパフェどんなのが好きだい?〉とか言ってて(笑)。〈パフェはジャリだよね〉〈じゃあそんな曲作ろっか〉ってなって、公園でパソコンに打ち込んで、出来た曲がなぜか“クロスダンス”(笑)」

一同「(爆笑)」

ハコ「で、その言葉を使わなかったから、アルバム名にしようってなってね。だからジャケットもパフェのグラスの絵なんです」

『パフェはジャリ』ジャケット
 

まさし「この子は何を持ってるの?」

ハコ「レジ袋。ネギが出てるんだよ」

――なんでパフェにネギ(笑)。

ハコ「よくわからない」

下田「我々も説明できないんですよ(笑)。でも、これがハコさんの絵の良さなんだよ。酒井さんは〈ニュルニュル派〉?」

――俺は〈パフェはニュル〉だな~。

一同「(爆笑)」

ハコ「まあ、それぞれ思い思いの食感でいいんですよ。ジャリじゃなきゃダメな訳じゃないので。ただ、私は〈パフェはゴリ〉でも〈パフェはガリ〉でもいいから食感が欲しくて」

――ソフトクリームって先端がいちばんおいしい気がしない? ケーキだったらいちばんとんがってる先端のところ。だからパフェも最初のニュルが大事。ハコさんたちは食べ応えが大事なんですね。

下田「パフェのいいところって、すべての食材が細いグラスに入ってて、だんだんグチャグチャになりながら食べる感じだと思っていて。クリームとアイスと別の味のアイスとチョコの棒とかがグチャグチャになって、ひとつのうまいものに変化していく。その時にジャリッと感があると無いとじゃ全然食べ応えが違うんですよ」

まさし「食感のアクセントね」

――まさし氏もそれは必要なんだ。要らない派じゃなくて。

まさし「要る要らないより、言葉がすごくいいなと思って。『パフェはジャリ』って半濁音と濁音が入ってるし。〈御多忙プピーピ〉もそうじゃない(笑)。語呂もいいし、言葉としておもしろいからいいなと思って」

下田ハコ「ああ~」

――なるほどね、食べ応えか……。だからアルバムも食べ応えを大事にしてる、と。

下田「関係ないっす(笑)」

ハコ「それはまったく考えてなかったですね(笑)」

まさし「(爆笑)」

――でも、そういう価値観が3人で共有できるのはいいなって思います。

下田「いやいや、みんな〈パフェはジャリ〉派だよ。酒井さんがレアケース」

――俺は〈パフェはフニャ〉!

下田「〈ニュル〉じゃないの?」

――あ、〈パフェはニュル〉だ(笑)!

一同「(爆笑)」

演奏が下手だから、おもしろい寸劇を

――それではバンド結成の話から簡単に聞かせてください。

ハコ「私は高2からベースを始めたんですけど、田舎だから身の回りで一緒にバンドをやる人がいないし、東京に出てきても忙しくて余裕がないし。その頃に下田さんと出会って、その後に転職もしたから、ようやく余裕ができてきてバンド組みたいなってまた思い始めたんです。で、下田さんの大学の後輩のまさしがギターやってたって聞いたから、まず、まさしと組むことにして。でも当初は歌うつもりもなくって、ヴォーカルとドラムスがいないなってことで。でも人見知りだから知らない人を入れるのは嫌だったし、気は進まないけど楽器をやったことがない下田さんにドラムスをお願いしよっか、ってなったんです。ヴォーカルはいつか入れるつもりだったけど、だんだん3人で固まってきちゃって、いまに至るという」

――まさし氏は下田氏の何の後輩?

下田「大学の委員会ですね。これもバンドに通ずるところで、俺とまさしは学園祭実行委員会の企画担当をやっていて、ミスコンをやったり、ビンゴ大会を企画したり。そこで俺もまさしも相当おもしろネタみたいなやつを考えていて」

まさし「なかでもビンゴ大会がいちばんおもしろかったんですけど、ビンゴそのものじゃなくて、必ず演出みたいなものを入れて、それがおもしろかったんです。そういう演出とか企画が、ライブの時の寸劇に活きていて」

ハコ「この話、初めて聞く人には伝わるかな~」

――ライブでは必ず凝った寸劇を入れてるしね。最初から曲のほかに寸劇もやろうとしてたんですか?

ハコ「それが違うんですよね。第1回ライブの時はあまりに演奏が下手だから、これじゃお客さんがかわいそうだと思って、ライブ以外でおもしろいことをしようっていうネガティヴな気持ちで寸劇をやってたんです。演奏が素人すぎるし、私たちの方向性として、いいバンドを目指すのは無謀だったし。で、ライブをする度に、〈また寸劇をおもしろくしたい〉ってそっちがメインになってきちゃって」

演奏の前後には必ず〈茶番〉と呼ばれる寸劇が入る
 

まさし「ビンゴ大会のノリで、おもしろネタを考えるほうが楽しくってね」

ハコ「私はそれがおもしろいかどうか判定するだけ(笑)」

まさし「でもハコちゃんもすごくアイデア出てくるよね」

ハコ「出てきたっけ……」

下田「ハコさんは多才なんですよ。声もおもしろいし、着眼点もおもしろい。結局ハコさんがいちばんおもしろくなっちゃう」