〈ニューエイジロックアイコン〉を謳ってデビューしてから10年――彼女の歌声がまた時を超えてみんなに会いに来た。まさかのソロ新作は次なる驚きの前ぶれだ!!

 十年一昔――そう言ってしまうのは簡単ですが、過去の先にしか現在はありません。いまやBiSHを筆頭に多くの個性を擁するWACKの礎となったのが旧BiSであり、その創始者こそが、言わずと知れたプー・ルイです。そして、彼女のマネージャーだった渡辺淳之介(現WACK代表)が舵取りし、サウンド・プロデュースを松隈ケンタ、衣装を外林健太が担当するという座組から生まれた最初のプロダクトこそ、彼女のファースト・アルバム『みんなのプー・ルイ』(2010年6月)でありました。同作リリース後にBiSを始動して名を馳せ、以降もLUI FRONTiC 赤羽JAPAN、2期BiS、そしてBILLIE IDLE®にて10年代を駆け抜けたシーンの裏VIPが、2020年を迎えて原点回帰? とはいえ、往時と同じ布陣で届いた10年ぶりのソロ・アルバム『みんなのプー・ルイII』は、彼女が運営する新グループ=アイドル研究会(仮)のイントロダクション。ともかく次の10年を見据えて、オリジネイターが帰ってきましたよ!

プー・ルイ みんなのプー・ルイII WcDONALD(2020)

 

次は何しよう?

――年末にBILLIE IDLE®が解散して、間を置かずに次のスタートとなりましたね。

「夏にNIGO®さんから〈解散します〉って話があったんですけど、恋愛でいうと次を見つけて男を乗り換えるタイプなんで(笑)、自分で辞めるんじゃなく相手から別れを告げられるのは初めてで、ビックリして。でも、今回は〈もうやめた〉とか〈結婚しようか〉とはならなくて、すぐに〈じゃあ次は何しよう?〉って考えはじめました」

――夏から動いてたんですね。

「最初は曲作れる友達とバンドをやる予定でした。同じ熱量で集まって上をめざしていくようなことがやれればバンドでもアイドルでもユニットでもよかったんですけど、憧れがあったんで、自分で選べるならバンドがいいなって。それで夏から2~3か月かけてじっくり相談してたんですけど、ちょっと意識にズレが生じた結果、まあ、大喧嘩して(笑)、その話はなくなってしまって」

――ソロ作の話はどこから?

「BILLIE IDLE®が終わるって決まった頃に3期BiSのラジオに出してもらって、その収録後に渡辺さんとゴハンに行ったんですよ。その時に〈お前どうすんの?〉って話になって、〈『みんなのプー・ルイII』作ろうぜ〉って誘われたんですけど、本気なのか冗談なのかわからなくて、私も〈ソロでやっても、その先のヴィジョンなくないですか?〉とか言ってその日は終わったんですね。で、次に会ってまた同じ話になった時にはもうバンドで動いてたので一回断ったんですよ。その後にバンドの話がなくなって途方に暮れてたところで、改めて渡辺さんに〈何がしたい?〉って聞いてもらってるなかで、自分でアイドル・グループをプロデュースする話が出てきた感じですね。最初はWACKのスタッフとしてプロデューサーやれば?っていう話もあったんですけど、今回は裏に引っ込む意識が全然なかったので、〈じゃあ俺が出資するから自分の会社を作って、俺がBiS作った時みたいにチームを集めて自分でやってみたら?〉って話になりました」

――完全に裏方に回る考えはなかったんですね。

「そうですね。2期BiSを辞める時はBiSをやりきったし、少し考えたこともあるんですけど……BILLIE IDLE®は自分で決めた終わりじゃないから、やりきった感じがしなかったというか」

――そこで同時にソロも動き出して。

「『みんなのプー・ルイII』をやるのも同時に決まりました。新しいことをやるまでの間に私が忘れられないように、っていう意味もあるし、10年前も『みんなのプー・ルイ』の後にBiSが始まったので、その流れをもう一回やったらおもしろいよね?ってことで。ゲン担ぎみたいな感じですね」

 

いまこんなの書けない

――話が戻りますけど、そもそもソロで歌っていく選択肢はなかったんですか?

「まったくないです! ソロほど興味のないことはない(笑)。今回みたいな企画はいいんですよ、渡辺さんと松隈さんと10年ぶりに作るのは楽しそうだなって思うし、理由があるから。客観的に私がソロって無理じゃね?とも思うし、そういうスキルを磨く気持ちもないので想像つかないです」

――最初にソロでデビューされた時とは考えが変わったんでしょうか。

「10年前はそこまで考えてなかったですね。トラウマになるほどのこともなく、何も捉えられてないし、すぐBiSになったので。最初に“限られた時間の中で☆”(09年11月)を配信で出してから、ただライヴだけやってた気がする。もう1曲“WHY?”(10年1月配信)があって……その後にアルバムか。いろいろ忘れてますね(笑)」

――アルバムを作った頃のことは覚えていますか?

「何にも覚えてない(笑)。BiSで成人したので、10代の頃ですね。YouTubeにちょっとだけ動画が残ってますけど、好きな男のタイプに合わせてメイクが変わる女だったんで、当時はギャルをめざしてたんですよ。眉毛細いし、目の周り黒いし……オーディションを受ける段階では当時の森ガールみたいな格好だった気がします(笑)」

――当時のMVも残っていますね。

「最初の“限られた時間の中で☆”のMVは、事務所の一畳ぐらいの物置に入って、ギター持たされて、サランラップをくしゃくしゃにしてレンズに輪ゴムで留めて渡辺さんが撮ってるんですよ(笑)。次の“WHY?”のMVは外林さんが撮ったんですけど、その日の朝に渡辺さんと外林さんが大喧嘩してたのを覚えてますね。どっちかが衣装を洗濯してきてくれたら乾いてなくてビチョビチョで(笑)」

――いま聞くと良いエピソードというか、皆さんの原点という感じですね。

「いま聴くと懐かしいし、声も可愛いし、始まりってこういうことなんだなって思うんですけど、当時は曲を作ってCDが出せる大変さとかも全然わかってなかった。渡辺さんにとっては自分が担当して作った初めてのCDだけど、がんばって作って〈出来たよ!〉って持ってこられた時に私は〈ああ、はい〉みたいな反応だったんで。お店に置いてもらう苦労とかも知らないし、〈へえ、出たんだ〉みたいな態度だったから、そりゃ仲も悪くなるなと思いますね(笑)」

――とはいえ最初から作詞もされてたり。

「恥ずかしいんですけど、高校の時からノートの端に詩を書いてたんですよ(笑)、ポエマーみたいに。母の友達に芸能事務所で働いてる人がいて、その人に〈歌手になるんだったら作詞ぐらいしとけよ〉みたいに言われたのを真に受けて。それがあったので抵抗はなかったですね」

――その後あまり書かれてないので、ラヴソング中心なのも新鮮です。

「プー・ルイがフランス語で〈彼のために〉なので、〈恋愛の歌を歌います〉っていうコンセプトがあったんです。今回の新作は『みんなのプー・ルイ』の再録も付いた2枚組になるんですけど、自分で歌い直しててむず痒かったです、特に自分の詞が。いまこんなの書けない」

――“You too”の初々しさとか、10代ならではの素晴らしさがあります。

「馬鹿にしてますよね(笑)? 自分でもヤバいと思いましたよ。学生だったんですよ」

――今回の再録まで、前作を改めて聴き返す機会ってありました?

「BiSでも“One day”をやってたり、ルイフロで“限られた時間の中で☆”をカヴァーすることがあるとか、そういう必要に迫られた時以外は全然ですね。でも歌ってみたら全部覚えてました」

 

察してください

――で、本編の『みんなのプー・ルイII』はそれをパワーアップした感じですね。オープニングが前作の“I'm coming!!”に対して今回は“I'm in love”だったりして。

「松隈さんも渡辺さんも制作が立て込んでて、私もBILLIE IDLE®に集中してたので、今年に入ってからキュッと作った感じなんですけど、これでやってくぜ!っていう作品でもないので説明が難しい。〈あの3人が10年経ってこうなりました〉みたいな記念のアルバム。〈みんな大きくなりました、私以外は〉というか」

――前作は当時のテクノ・ポップ感も含んだサウンドだったのが、今回はストレートなロックに乗せてまっすぐに歌う感じで。

「バリバリにオートチューンかかってましたからね、前のは。今回は変なクセもないし、ゴリゴリのロックというわけでもないし、松隈さんらしいキャッチーでめっちゃいいアルバムが出来たな、って思いました」

――歌詞で言うと“KEY ASK”の内容が気になるところですけど。

「それは何か渡辺さんが勝手に書いてきましたね。私もその曲で詞を書いてたんですけど、〈俺が最強なやつ書いたからこっちで〉って。まあ、わかる方は察してくださいという曲です(笑)」

――あ~。

「言えるのは、私が新しいことを全力でやろうと思った結果ってことです。グループを立ち上げたらチームのみんなに対して責任があるので、自分を追い込みたくて」

――その“KEY ASK”も含めて“スレチガイ”“NONONO”の続く後半が味わい深くて良いんですけど、同じ恋愛がテーマでも、10年前のフワフワ感はなくなりましたね。

「歌詞だけ見ると暗いですよね。“zuruzuru”ではハッキリしない関係を書いてたり、後半は立て続けに失恋、失恋、失恋、みたいな。全体的にすれ違ってるというか、“NONONO”とか10年前には書けないし、〈10代の恋愛〉から〈アラサーの現状〉になった(笑)。再録のほうもアレンジの雰囲気から全然変わってるんで、オリジナルの『みんなのプー・ルイ』も聴いといてもらえたらおもしろいと思います」

――ちなみに、そもそも『みんなのプー・ルイ』っていうタイトルはどこからきたんですか?

「松隈さんの家でレコーディングしてる時に、なんか渡辺さんに嫌味を言われたんですよ。それに軽口で〈ま、みんなのプー・ルイですからね!〉って言い返したら、〈それダサくていいじゃん〉ってことでタイトルになりました。当時は全然〈みんなの〉じゃなくて〈数人のプー・ルイ〉でしたけど。まだSNSの時代でもなかったし、渡辺さんと2人で、誰も観てないニコ生配信とかしてましたからね(笑)。そこから始まってるんで底辺中の底辺ですよ。その頃から比べたら多少は〈みんなのプー・ルイ〉になれてるかもしれないけど」

 

驚かせる自信がある

――で、3月には前作に倣ってソロでのワンマン〈LAST DANCE II〉があって、そこからは新グループの本格始動ですね。

「はい。〈LAST DANCE II〉以降はいろんな情報がバババッて出ていく感じになりますね。俊速で進んでいくので、もうアルバムの曲も揃っていて」

――新グループには新しくサウンド・プロデューサーの方がいて、『みんなのプー・ルイII』とは別の音楽性になるんですよね。

「バンド・サウンドっていう基盤は変わんないんですけど、松隈さんのスタイルとはまったく違いますね。曲を作ってる本人は〈グラム・ロック〉って言ってて、どう聴こえるかわからないけど、みんな驚いてくれる自信がありますね」

――楽しそうですね。

「楽しいです。いい人たちに出会って、毎日連絡を取り合って進めてる感じは、旧BiSのいちばん最初にちょっと似てるかもしれない。自分たちで勝手にフライヤー作ったりしてて、その間に裏で渡辺さんが松隈さんや外林さんと進めていたようなことを、いまは自分のチームで経験しているような感じです」

――立ち位置としては〈アイドル・グループ〉ということになるんですよね?

「使えるものは使っていこうと思って。アイドルって言葉が邪魔になってきたら〈楽器を持たないロック・バンド〉とか言えばいいかなって(笑)。それぐらいの感じです」

――あとはメンバーさん次第ですね。

「全員面接に250人ぐらい来てくれてビックリしました。なんかWACKと勘違いされてるんだろうなというのもありつつ(笑)、楽しみにしていてほしいです。蓋を開けたら該当者ナシかもしれないけど(笑)」