極めてインディペンデントな活動を続けながら、限定店舗で販売した『横沢デモ』(2017年)とアルバム『ハイジ』(2018年)で、じわじわと話題を呼んだ一人多重録音シンガー・ソングライターの横沢俊一郎。2019年にはアメリカ・ツアーを敢行、『ハイジ』がFADERなどの米メディアから注目されるなど、海を越えた活躍も注目されている。その横沢が、待望のセカンド・アルバム『絶対大丈夫』をリリースした。

スウィートなメロディーとドリーミーなベッドルーム・サウンド、生々しくあけすけな歌詞……横沢の魅力は、本作でさらに研ぎ澄まされている。さらに『絶対大丈夫』は、バック・バンド〈レーザービームス〉と行っている精力的なライブの成果も伝える。アルバム・タイトルそのままの、とても力強く、ひたすらにピュアなポップ・アルバムがここに届けられた。

今回はそんな新作について、ライター/編集者の九龍ジョーがインタビューを行った。雑誌「POPEYE」で横沢を取り上げるなど、横沢の積極的な紹介者であり理解者である九龍の視点から、『絶対大丈夫』の背景と音楽家・横沢俊一郎の姿を明らかにする。

横沢俊一郎 絶対大丈夫 P-VINE (2020)

 

 〈気づかれていない〉ミュージシャン横沢俊一郎

――横沢くんを知ったのは、吉祥寺のバサラブックスで買った最初のデモCDでした。すごくよくて、そのことを「POPEYE」の本屋特集に書いたんですよね。あと、ココナッツディスク吉祥寺店も推してたから、やっぱり「POPEYE」の音楽特集に吉祥寺くくりで紹介したり。それにかぎらず、横沢くんって、音楽メディアじゃないところでちょいちょい話題になるんですよね。

「ただ、いっつもちょいバズ(笑)。ラブリーサマーちゃんが『Rolling Stone』の記事でお気に入りの10枚に挙げてくれたときも、〈これはバズるぞ!〉と思ったら、Twitterのフォロワーが100人ぐらい増えただけで」

――今回のアルバムが出ることで、さすがにみんな気づくんじゃないですか、横沢くんの存在に。

「だといいんですけどね。ただ、いまのところ〈気づかれていない〉だけなのか、〈気づかれたうえで、相手にされていない〉なのか、どっちなのかを知るのがちょっと怖いんですよね」

――たしかに。ファースト・アルバムの『ハイジ』は音楽誌のレビューとかもあまり載らなかったですし。

「なんでだと思いますか?」

――そこは〈気づかれていない〉ほうだと思いますよ(笑)。それでいて、昨年(2019年)の夏にはアメリカ・ツアーまでしてるんですよね。しかも、向こうで『ハイジ』のレコード盤までリリースされたらしいじゃないですか。

「いちおうそのレコードのリリース・ツアーだったんですよ。しかもポートランドにできた新しいレーベル(day to day records)の第1弾が僕っていう(笑)。日本ですら知名度ないのに、500枚もプレスしてくれて、ツアーの交通費もぜんぶ向こうで出してくれました」

2018年作『ハイジ』収録曲“遠い人”

――きっかけは何だったんですか。

「たまたま友だちの店でデモCDのサウンド・チェックをしてたら、そのレーベルの人がフラッと来て、すごく気に入ってくれたんです」

 

非日常なアメリカ・ツアー

――引きが強い(笑)。ツアーはいかがでした?

「ポートランドから南のサクラメント、サンディエゴまでずーっと移動しながら、8回ライブをしました。地元のバンドも何組か出て、僕のサポートも向こうのミュージシャンがしてくれたので、いちおう盛り上がりましたね。

けっこう会場が面白くって、ボーリング場の空きスペースもあったし、一軒家でのライブも2回。その家がまた広くって、ホーム・ライブなのに50人も入るんですよ」

――横沢くんって、日本でもライブハウスみたいな会場よりは、どちらかといえばショップとかスタジオとか、オルタナティヴなスペースでライブをしているじゃないですか。その延長のような感じもしますね。

「とはいえ、非日常感はありましたよ(笑)。1日10時間くらいクルマで移動するんですけど、その間みんなずっと馬鹿騒ぎしてるし」

――レコードを出したことで、NYのメディア・FADERにレビューも掲載されましたね。見出しがまたよくて、〈ティーンエイジ・ファンクラブとアヴァランチーズを等身大で表現したバブルガム・サイケ・ポップ〉っていう。

「ティーンエイジ・ファンクラブはすごく好きなので、うれしかったですね。どういう経緯かわからないですけど、〈KEXP〉でも曲を流してくれたんですよ。そのへん、インディー独特の距離感ってありますよね。ライブにもジェイ・ソム(Jay Som)とか、マック・デマルコの親友みたいな人とか、普通に観にきてくれましたし」

 

死なないかぎりは絶対大丈夫

――結果的にいい流れでセカンド・アルバムのリリースとなりましたね。タイトルの〈絶対大丈夫〉っていうフレーズはどこから?

「毎年、1年の目標やスローガンを決めるんですけど、今年はこれだなって。

悩みや不安、心配事はつきないんですけど、本当にダメなことって、死ぬとか、どこかに閉じ込められて永遠に苦痛を与え続けられるとかぐらいだなって。そうならないかぎりは、基本大丈夫。だから、絶対大丈夫!っていう」

――オール・オア・ナッシングですね(笑)。達観しているんですか?

「いや、そうでも思わないと、元気になれないんですよ(笑)。よほど極端なことが起きないかぎりはまあ大丈夫っしょって思うようにしています」

 

ぜんぶ言っちゃっても嫌われない人になりたい

――このインタビューに先んじて、Mikikiで3つのプレイリストを作ってもらいました。〈好きな歌詞〉〈好きなヴォーカリスト〉〈魂の10曲〉という。それぞれ、アルバム『絶対大丈夫』の音楽性にも反映されているリストだと思います。

「ホント素直に選びましたからね」

――選曲理由にある〈マジ歌〉とか〈わざとらしさがない〉〈一生懸命歌う人〉といったコメントが印象的でした。

「モロ出しな人を尊敬しているんです。ぜんぶ何でも言っちゃう人。それでいて、嫌われない人っていうのが、僕自身の理想です」

――たしかに、横沢くんの曲は以前からマジ歌っぽさがありましたけど、『絶対大丈夫』は、よりガチ感というか、感情の純度が上がっている気がします。

「これ、重すぎるけど大丈夫かなっていう心配もあったんですよ。まあ、なんで重くなったかといえば、単純にここ2、3年しんどかったからなんですけど(笑)。ミックスも自分でやったので、何周も聴くハメになって、改めて〈しんど~!!〉って」

――一時期、かなり切羽詰まっている感じが、ツイートなんかからも漏れ伝わってきましたからね。

「SNSは好きですけど、たぶん向いてない(笑)。〈横沢くんのツイート、私は好きだけどね〉みたいなスタンスの人も案外いて、ウケるかなと思ってやってたところもあるんですけど、どうやらそうでもない人のほうが多いことに最近気づいて。いまは裏アカを作って、そっちにぜんぶ吐き出すようにしました(笑)」

 

バレバレな天邪鬼=素直さ

――でも、そんな〈しんどさ〉とは裏腹に、曲はむちゃくちゃ聴きやすいんですよね。誰でも身近に感じられるようなフックやスイッチがたくさん埋め込まれているアルバムだと思います。

「わりとこれまでって、具体的な単語を歌詞に入れてたんですけど、『ハイジ』以降に出来た曲はけっこうぼやっとなったんですよ。観念的な感じというか。観念度を上げることで内容が自分に近くなるのか、逆に遠くなるのか、それはよくわからないんですが」

――両方なんでしょうね。アプローチが違うだけで。

「そう、〈あっ、かわいい〉って書けば済むこともあれば、〈あのとき感じた『かわいい』という感情はいったい何だったのだろうホニャラララ〉みたいな書き方もある。どっちもホントのことだから、両方あっていいんですよね。

でも最近って、SNSとかでも言葉数を増やして説明しなきゃいけないことが多いじゃないですか。ディフェンスしたうえで最後の解答までたどり着かなきゃいけないのは、ダリいなと思って」

――その気分が歌詞に反映されたと。

「とくに“プロローグ”って曲は観念度マックスですね。それで、いったん具体的な歌詞に戻ろうと思って“君のほっぺ”っていう曲を作りました」

――たしかに〈君のほっぺにさわってみたい〉って歌詞は明快でした(笑)。聴き手にどう届くか、については意識しますか?

「けっきょく意識しても、意外な受け取られ方をするんですよ。具体的に言い切ったぞっていう曲でも、お客さんはそういうふうに受け取らなかったり。逆に、かなりボカした曲でも、〈なんでわかったの〉っていうくらい具体的に伝わってしまっていることもある」

――ポップ・ソングの宿命だ。プレス資料にも書いてありますが、横沢くんって天邪鬼ですよね。

「最近ようやく〈そうかも〉って思えるようになりました。だって、毎日どれほど素直になろうかってことだけを考えているんですよ、僕。なのに、どうして天邪鬼なんて言われなきゃいけないんだろうって。

でもよく考えたら、天邪鬼な物語、けっこう好きなんですよ(笑)。ツンデレというか、ああ、天邪鬼ってかわいいのかもなって」

――バレバレな天邪鬼って、素直さのヴァリエーションですからね(笑)。

「そういうことか(笑)

 

宅録だけど〈バンド〉で録ったアルバム

――アルバムの制作期間は?

「収録曲は2、3年前のものから、つい最近出来たものまで、幅がある感じです。作業は去年の11月からスタートして、バイトもせず、ずーっと家に引きこもって作っていましたね。練習とライブでしか外に出ない、みたいな」

――制作中、念頭においたイメージはありますか?

「自分が普段、未聴感あるなと思うような音楽がやりたかったですね。“プロローグ”って曲のサウンドはかなりキモくて、気に入っています。

このへんのアイデアはファーストの時点であったんですけど、技術的にできないことも多かった。それが今回ようやく実現できたかなと」

『絶対大丈夫』収録曲“誰にもわからない”

――基本、宅録ですが、ライブでバック・バンドを務めるレーザービームスのメンバーとスタジオに入ってレコーディングするという選択肢は?

「もし予算が1,000万円ぐらいあったら、それもアリなんですけどね(笑)。どうしても時間とお金の制約があるじゃないですか。かぎられた枠内で録った中途半端なスタジオ・テイクよりは、家で録った練りに練りまくったアレンジのほうがいいなと思いました。

あと、たぶん僕はバンドにこだわりがないんです。さっきのプレイリストを見てもらっても明らかなんですけど、バンドよりは、プレイヤーがいて、作詞家と作曲家と編曲家がいて、プロデューサーがいてっていう音楽のほうが好き。

そういう編成が固定した状態を〈バンド〉と呼ぶのであれば、今回、僕は〈バンド〉で録ったつもりでもあるんです。実際、レーザービームスのメンバーにも参加してもらっているし」

――なるほど、“プロローグ”にギターで参加しているブレンデン・ラミレス(Brenden Ramirez)さんとはアメリカ・ツアーで出会ったとか。

「ええ、〈こういう曲を作ったから、ちょっとギターを弾いてみて〉ってお願いして、向こうで録ったものをデータで送ってもらいました。ツアーで弾いてもらってたので、安心してお願いできましたね。音楽インテリというか、楽理とかも理解している人で、パパッとフレーズを作ってくれて」

 

これで鳴かず飛ばずだったら旅に出るしかない

――改めてアルバムが完成してみて、いかがですか?

「いまの自己ベストですよね。とりあえず、あるものを全部出そうと思いましたから。ただ、あんまり押し付けたくないっていうのもあって。基本的に押し付けがましい人間なので(笑)」

――でも、メロディーもサウンドも歌詞も、横沢俊一郎色が全開ですよ。それは隠しようがないし、そこが素晴らしいと思います。

「あとは、どんな受け取られ方をするのかなっていうだけですよね。こうなると〈俺はまだ芽が出ていないだけなんだ〉っていう言い訳はできないし、それだけのものを作ったと思っているので。これで鳴かず飛ばずだったら、もう無理。旅に出るしかない(笑)」

――けっこう自分を追い詰めますね。

「たとえば、仕事しながら音楽をやってる人も多いじゃないですか。それってすごいことだと思うんです。でも、僕にはできない。

単純に、音楽をやるとお金と時間をどんどん使うので、生活がぶっ壊れてしまう。そもそもは〈楽しく生きたい〉〈幸せになりたい〉〈言いたいことを言いたい〉みたいなところから出発したはずなのに。

いまは微妙な時期で、まだ少し希望があるから続けていますけど、これでダメだったら、たぶん自分は何がしたいのかわからなくなってしまう気がする」

――それを聞くと、〈絶対大丈夫〉っていうタイトルの響き方も変わってきますね。

「〈絶対大丈夫〉には、べつに音楽をやめちゃっても大丈夫っていうのもありますからね」

 

ハイもサブもアングラもド素人も、みんな売れたらいい

――そこまで行きますか(笑)。横沢くんは、誰かに曲を提供したり、プロデュースしたりするのも向いてそうですけどね。

「プロデューサーはやってみたいんですよ。いまはセルフ・プロデュースでやってますけど、最終的には〈君と君と君とでやれば、いいものできるっしょ〉って指示を出すだけの、何もやらない人になりたい(笑)」

――横沢くんの飲み会にいくと、まだ世に出ていない才能あふれるミュージシャンがいっぱいいて驚くんですよね。上田フェアリー※とか。

※SSWの上田フェアリー裕太郎。〈三田のビージーズこと上田フェアリーバンド〉(Twitterのプロフィールより)としても活動

「飲み会の才能は自分でもあると思います(笑)」

上田フェアリーバンドのライブ映像。場所はココナッツディスク吉祥寺店

――プロデュースの才能じゃなくて、飲み会の才能(笑)。

「でも、ホントみんな売れたらいいなって思うんですよね。ハイでもサブでもアングラでもド素人でも、みんなどこかしらに居場所はあるんでしょうけど、発見されて悪いことはないと思うし、いろいろな可能性がある状態のほうが単純に楽しい。

僕自身、自分のことを売るっていうのが恥ずかしい気持ちが、いまだにちょっとあるんですけど、でも、今回はやっぱり売れてほしいんです。ホントに〈気づかれていない〉だけなんだとしたら、もっとみんな気づいてくれよって」