2000年生まれ、元・禁断の多数決のシンガーソングライター、リれん。はましたまさし(禁断の多数決)、三沢洋紀、横沢俊一郎らの協力を得て初めてのアルバム『カマトツチ』を6月にリリースした。音楽活動を始めた中学高校の頃の話からアルバム制作についてまで、本人に訊いた。

リれん 『カマトツチ』 MY BEST!(2023)

 

旧ソれん時代

――去年(2022年)まで名乗っていた〈ソれん〉というのは、禁断の多数決に参加した時に付けられた名前だとばかり思っていたら、高校の頃、音楽活動を始めた時に自分で付けたとのことですね。その由来は?

「この名前で活動する気は全く無かったんです。本名で活動するのが嫌だったので、でも、いい名前が思いつかなくて。当時ゲームのプレーヤー名で使っていた〈ソれん〉を仮名として付けて、そのうち変えようと思っていたら定着してしまって、変えるタイミングを見失ってしまったんですよね。思想があるの?とかよく訊かれるのですが、まーったく! 何の意味もないです」

――音楽を作ろう、自分で歌おうとしたきっかけは?

「中学生の頃、学校に行けない時期が長いことあって、その時にやることがなくて自分の歌声を録音するっていうのを始めました。そうして音楽と触れ合ううちに、〈あ、この曲は私のことを代弁してくれているな〉みたいに思うようになって、そこから作曲に興味を持ち始めましたね。

学校の中で人間関係が上手くいかなくて、その気持ちのやり場が音楽しかなかったのかなあと、今振り返るとそう思います」

――その頃に作ったと伺った2曲目の“Daydreamin’”が特にそうですが、他に見られない転調のセンスは意識して身に付けたものですか?

「学校もですが、ライブハウスに出入りする中で同年代の人の輪の中に上手く入れなくて。普通は入れるように頑張ろうとするんだと思うんですけど、勇気がなかったり、あまのじゃくだったりする私は〈自分は他と違うんだぞ!〉みたいな方向に走っちゃいました。それを魅せるのに辿り着いた方法が、当時から好きだった転調だった、と思います」

『カマトツチ』収録曲“Daydreamin’”

――作詞の言葉のセンスには感心しましたが、歌詞はどうやって作っていますか?

「高校生の頃はひたすら自分の抱えている感情を吐き出すように歌詞を書いていました。ありのままです。作曲に興味が出たのが歌詞への共感からだったので。11曲目の“Q_Soren”にはそれが顕著に出ているかなと思います。

『カマトツチ』収録曲“Q_Soren”

最近は音楽に対する考え方がだいぶ変わって、歌詞と同等かそれ以上に音を重視するようになりました。その影響でシンプルに言葉を音として考えています。歌詞って音の一部になるなって強く思うようになって、耳触りの良い音になる言葉を選ぶように心がけています。聴き手を意識するようになりましたね」

――曲作りは?

「作曲方法はあんまり定まってないのが悩みなんです。いいものが出来れば過程に拘らなくていいかなって。だけど、ギターと歌だけなど、最低限の楽器だけで成立するメロディじゃないといい曲じゃないというふうに思ってます。どんな作り方をしたとしても、最終チェックは弾き語りで行ってます」

――それで曲が溜まってきてライブ活動をすることにしたんですね。

「初めてライブをしたのは確か2016年の冬だった気がします。いつも誰もいない場所で歌っていました。誰のために、何のために今ステージに立って、何を歌っているんだろう?って、その度に思いました。どんなミュージシャンも通る道かと思いますが……(笑)」

 

MV撮影の帰り道にギャラを落として……

――東京に出て来たのは禁断の多数決に入ったから?

「いえ、東京に来たのは高校2年生の4月(2017年)、音楽やるぞ!って思って。大した成果はあげられなかったですが他の人と違うことをやりたくて、11月には“Q_Soren”や“Daydreamin’”などを収録した『1st demo USB』というのを作って、文字通りUSBで販売しました。

高校3年生になって受験もあったし、誰も聴いてないのに歌うことに心が折れてしまって、音楽からフェードアウトしたんです。もうダメかもなって考えていた時に、ネットに禁断の多数決を弾き語りでカバーした音源を上げたら、リーダーのほうのきかずなりさんが声をかけてくださって、〈一緒にやろう〉って。それで音楽活動を再開しました」

――それが2019年12月の高円寺での路上ライブですね。この次の日に長州ちからに連れられて僕らと一緒に野球をやったのでした。打ち上げの居酒屋で相手チームの鈴木慶一さんや、チームメイトの川本真琴さんと臆することなく喋っているの見て驚いたんですよ。それで川本さんのMVに出演することになりましたからね。

禁断の多数決の2019年の路上ライブ動画

「このMV、見てわかると思うのですが、渋谷センター街での撮影だったんですよね。初めてのMV撮影で、張り切っていたし、思い出深いものなのに、なんと帰り道にうっかりギャラを落としてしまって……。もう、すごいショックでした」

川本真琴の2019年作『新しい友達』収録曲“ゆらゆら”のミュージックビデオ

――禁断の多数決にいた時は、曲は作っていましたか?

「その時はボーカリストとして歌うことだけでしたから、全く曲を作ってないんですよ。私がいた期間は短かったですが、ボーカルスタイルに大きな影響を与えてくれたので、すごくいい経験をさせてもらえました」