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自分自身がキュンとしないと

 今回の新作『ノーメイク、ストーリー』は、〈私を見て!〉というストレートな願望を放つアップ“Look At Me!!”で幕を開ける。杏沙子自身のなかに自然に浮かび上がってきた言葉がもとになったというこの曲には、彼女が経験したリアルな感情の揺れ、そして、強い決意が反映されている。

 「心が動いたときに出てきた言葉をメモしてて、それが先行する形で曲になることが多いんですよ。作っている段階ではハッキリわかってなくても、曲が出来上がって、〈こういうことを感じていたのか〉と気付くこともあって。“Look At Me!!”はまさにそういう曲ですね。私はもともと、〈自分を見て!〉みたいなガツガツした人がちょっと苦手だったんですよ(笑)。〈本当の欲望は隠したほうがキレイ〉というタイプだったんですけど、それでは自分のことを伝えられないし、私が本当にいいと思っている曲も聴いてもらえないなと思うようになって。今は〈自分から掴みにいかないと、何も得られない〉という気持ちが強いし、それは“Look At Me!!”にもすごく出てますね」。

 また、〈夢を持って就いた仕事を辞める〉という彼女の親友のエピソードから生まれた“東京一時停止ボタン”も、このアルバムの起点になった曲の一つだ。

 「高校のときからの大親友で、一緒のタイミングで上京してきて。彼女が仕事を辞めて苦しんでいる様子と、〈全部止まればいいのに〉という言葉が心に残って、どうしても曲にせざるを得なかったんです。じつは3年くらい前に作った曲なんですけど、フィクションとして書いた他の曲と馴染まなくて。今だから出せる曲だと思います」。

 〈好きな人に会った後の、一人きりの長い夜〉を描いた“クレンジング”、恋が終わった夜の呟きから生まれたという“見る目ないなぁ”などのラヴソングも印象的。どちらも実体験がベースになっているそうだが、彼女の音楽制作を支えている山本隆二のアレンジによって、質の高い楽曲に仕立てられている。

 「質が高いかどうかは自分では正直わからないけど(笑)、曲を書いてみて、自分自身がキュンとするというか、〈いいな〉と思わないとディレクターには送らないんですよ。たとえば“見る目ないなぁ”は、実際に〈見る目ないなぁ、見る目ないなぁ、見る目ないなぁ〉と口ずさみながら歩いてたのがきっかけなんですけど、そのときに〈いい曲になるかも〉というワクワクがあって。そういう自分のなかのラインは大事にしてますね。アレンジに関しては、もちろん自分のなかのイメージもあるんだけど、アレンジャーの皆さんの力がすごく大きいです。山本隆二さんのアレンジは、〈そうそう、そういう感じにしたかったんです!〉ということが多くて。“クレンジング”も、ちょっと酔ってフワフワしている気分だったり、この曲の元になった、実際に感じた一人の夜の雰囲気を上手く音にしてもらってますね」。