穏やか&グルーヴィーなアコースティック曲が心地良い、インドネシアの夫婦デュオが日本デビュー

 インドネシア発、南国産らしい解放感のある独特の心地良いヴァイブを湛えながら、ジャズやUSルーツ・ミュージック、ロックンロールなどの滋養に富んだサウンドを鳴らす夫婦デュオ、エンダー・アンド・レサ。地元ではこれまでに3枚のアルバムをリリースしており、初作『Nowhere To Go』(2005年)は自主制作盤にもかかわらずヒットを記録。同作が〈インドネシア・ミュージック・アウォード〉で最優秀オルタナティヴ・アルバム賞を獲得したのをはじめ、作品ごとに確かな評価を得ている。そんな2人が、このたび日本デビュー・アルバム『Endah N Rhesa』をリリースした。

 可愛らしくも凛とした歌声が魅力の妻・エンダー(ヴォーカル/ギター)と、アレンジャー/プロデューサとして屋台骨となる夫のレサ(ベース)から成るこちらのデュオの作品は、素敵な2人の関係性を窺わせる、穏やかかつグルーヴィーなアコースティック・チューンが満載。“Don’t Worry Be Happy”をはじめ数曲のカヴァーを含みつつ、〈オーガニック〉なんて形容詞だけでは語れない芳醇なサウンドで楽しませてくれるオリジナル・ナンバーがたっぷり収められた『Endah N Rhesa』について、2人に話を訊いた。

ENDAH N RHESA 『Endah N Rhesa』 Rambling(2014)

 

――まずは日本デビューおめでとうございます。この日本デビューに際しての率直な気持ちを聞かせてください。

レサ「ありがとうございます。とてもワクワクしていますが、その反面、ちょっと緊張しています。日本からのリスナーが増えることはとても嬉しいですし、新しい友達(=日本のファン)からの感想をいただくのが楽しみです」

――まず、エンダー・アンド・レサとして活動を開始するに至ったいきさつを教えていただけますか?

レサ「2003年に同じバンドで活動を始めたのが、2人の出会いです。ですが、そのバンドで活動していくなかで、2人とも他のメンバーと意見の相違があって、辞めることを決意しました。その後、2人で音楽活動をやっていこうと決めたのですが、最初はただの遊びと暇潰しのために活動していたんです。実はもともとエンダーのソロ・プロジェクトとして進めて、僕はあくまでプロデューサーに徹しようと思っていたのですが、エンダーがソロでやっていくことがあまりしっくりこなくて、トリオやクァルテットなどさまざまな構成で活動を試みました。でも結局、私たち2人だけでジャム・セッションをしたり、口喧嘩をしたりしながら音楽を作っていくのがいちばん心地良いと感じるようになって、〈デュオ〉というアイデアに行き着きました。これがエンダー・アンド・レサの誕生です」

――なるほど。今回の日本デビュー・アルバム『Endah N Rhesa』は、暑い夏の空気も爽やかにしてくれそうな心地良く溌剌とした楽曲揃いで、とても楽しませてもらいました。こういったサウンドはお2人がお住まいの環境も作用しているのかなと思ったのですが、どのような街で暮らしているのですか?

レサ「僕たちは南タンゲランケン(インドネシアはバンテン州の都市)のパムラングというところに住んでいます。ジャカルタからたった10kmしか離れていません。僕たちの故郷は開発が進んだ都市の近くで、往来が激しい道路もあり活気のあるエリア。レストランも多いです。住んでいるのは小さな区画で、シンプルな家。夜はとても静かなんですよ。パムラングは他のインドネシアの低地部と同じく、夏の雨期があります。日本の梅雨と同じように、いま、こちらも雨期に入っていて湿度も高くなっているんですよ。雨期の気温は23℃から、暑いときには35℃くらいにもなります。そうした環境がクリエイティヴな〈ムード作り〉に一役買っていますね。でもインスピレーション自体はどこにいようと関係ないと思います」

――影響を受けたアーティストというと、レサさんはパット・メセニーやデイヴ・マシューズ、エンダーさんはアラニス・モリセットにノラ・ジョーンズなどとのことで、それらのエッセンスはエンダー・アンド・レサの音楽から確かに感じられるなと思いましたが、実際にお2人が楽曲作りにおいてインスピレーション源となるものはどういったものなのでしょうか?

レサ「映画や本、音楽や物語です。でも僕たちのイマジネーションがいちばんのインスピレーション源です。僕たちはよく、音楽を作る前に物語のあらすじとキャラクターを作るんです。自分たちが作りたい楽曲のバックグラウンドや場所、シチュエーションを想像します。例えば“The King”という曲は、サヴァンナを駆けるライオンと、雌ライオンとの甘い記憶を歌った曲なんです。また“Living With Pirates”は海賊たちをどこまでも追い続けるオウムの視点から歌ったもので、映画〈パイレーツ・オブ・カリビアン〉にインスパイアされました。僕たちが頻繁に作る〈カウカウ・ザ・フィッシャーマン〉というストーリーは、航海して漁に出る間、決して諦めない漁師のことを描いたもの。キャラクターを作り出して彼らの物語を想像するのは楽しいことですし、音楽や歌詞を作っていく過程でもワクワクします」

――いまお話に出てきたナンバーも収録される『Endah N Rhesa』には、これまでに本国でリリースされている3枚のアルバムの収録曲とカヴァー曲などで構成されていますが、ライヴでの定番曲も多いのでしょうか?

レサ「ライヴのときに皆さんからよくリクエストをいただくのは“When You Love Someone”(リサ・ローブを思わせるスロウ)、“Wish You Were Here”(ノラ・ジョーンズを彷彿とさせるフォーキーなナンバー)、そして“Baby It’s You”(軽快なロックンロール曲)ですね。パフォーマンス中には、僕がエンダーの後ろに立ってひとつのギターを弾く、というお決まりのポーズをするんです」

エンダー・アンド・レサの“Baby It’s You”のパフォーマンス映像

――へ~、つまり二人羽織的な感じですね(笑)。

レサ「ほかにも“I Don’t Remember”“Living With Pirates”などなど、よくライヴで演奏する楽曲を中心に収録していますね。カヴァー曲だと“In The Jungle (The Lion Sleeps Tonight)”(トーケンズによるヒットで知られるオールディーズ名曲)がお気に入りです。たまにエンダーがギターの弦を切ってしまうことがあるのですが、そんなときは“Don’t Worry Be Happy”(ボビー・マクファーリンのカヴァー)を歌いながら弦を直すのがピッタリです、ハハハ(笑)。ライヴ時のセットリストは、イヴェントや観客の皆さんの様子に合わせて変えますが、ここで挙げたような曲をパフォーマンスしますね」

――ブルーグラスやカントリー調などUSルーツ音楽やロックンロール、ヒップホップ的なビート感の曲など、実に多様なサウンドが詰まっていますが、互いにこういったアイデアを出し合って曲を作っていくのでしょうか?

レサ「そうですね、作曲作業はいつも2人で行います。僕は強いリズム感とグルーヴを作るのが得意。ストーリーを考えてさまざまなリズムを参考にしながら、クリエイティヴなアイデアを拡げていきます。エンダーはハーモニーやメロディー、歌詞を作るのが得意です。僕たちのソングライティングの手法には2つあって、ひとつは作曲に入る前に、ジャム・セッションの時間を設けるやり方。セッションの間にコード進行やリズムなどのおもしろいアイデアを思いついたら、お遊びは止めてストーリーのあらすじを作りはじめ、その後メロディーを当てはめていき、歌詞と共に仕上げます。もうひとつは、まず最初にストーリーを決めていく方法。楽曲を通じて何が言いたいのか、何を伝えたいのかを決めたら、曲のストーリーに合うニュアンスや雰囲気について話し合っていきます。リリックを書いたり、絵を描いてみたり――映画のアニメーションに合わせて音楽を付けていくような感じです。最初にシーンを想像して、それに音楽を付けていきます」

――ご自身ではなかなか選びづらいかもしれませんが、個人的にお気に入りの曲は?

レサ「“I Don’t Remember”は、グルーヴ感が強いけどシンプルなメロディーラインが好き。元気になれるけど、同時にちょっと怖い感じもある“Spacybilly”や12小節のブルース“Baby It’s You”もいいですね。“I Can See Clear”は雰囲気が大好き」

エンダー「明るい歌詞で、やる気が出てくる“Kou Kou The Fisherman”、とても元気な歌で、シンプルだけどメロディーと歌詞がキャッチーな“In The Jungle”がお気に入り。あと、エンダー・アンド・レサを結成してから初めて作った“When You Love Someone”も、ロマンティックで印象的な一曲ですね」

エンダー・アンド・レサの“When You Love Someone”のパフォーマンス映像

――お互いに、パートナーはどういうアーティストだと思いますか?

エンダー「レサはとってもクリエイティヴな人。やりたいことが何なのかを明確にわかっているの。音楽とビジネスのセンスも抜群。とてもシステマティックだし、専門的な知識もある。レコーディングのときも優しく接してくれます。温かい人柄だから、いっしょに仕事もしやすいの」

レサ「彼女はとても協力的で、コミュニケーションに長けた女性。音楽に関することでも、そうじゃなくても、エンダーはとても話しやすい。僕の音楽の旅に欠かせない存在だし、僕が音楽をプロデュースしているときも、こちらの考えをすぐに汲み取ってくれる。とても僕のことを理解してくれていると思います」

――素敵ですね♡ では最後に、今回初めてエンダー・アンド・レサを知る人も多いであろうMikikiの読者にメッセージを!

レサ「このインタヴューを読んだ後、より深く僕たちの音楽を楽しんでくれるといいなと思います。そして、僕たちの音楽があなたのサウンドトラックになればと願います。あなたの〈音楽の旅〉の一部となれることが嬉しい。この『Endah N Rhesa』を気に入ってくれるといいな!」