50代になって歌を中心とした生活に再び人生をリセット、移籍第一弾をリリース!

 「2019年12月に勤めていた会社を辞め、事務所も辞めて、何も決まっていないゼロ状態になったんですね。周りには心配されたけど、いままでそうだったように、僕の人生って定期的に状況をリセットして、色々と準備した安定の道を歩くよりもそちらを選んできたんです。癌になったときも、39歳で歌手になったときもそうでした。50代を迎えて残された時間、何ができるだろう?と考えて、浮かんだのはやっぱり歌だった。この先いつまで歌えるかわからないし、歌を中心とした生活を組み立てようと決心したんです」

木山裕策 『ラヴ&メモリーズ』 キング(2020)

 にこやかにそう語る木山裕策。アットホームソングの決定版“home”から12年。キングレコード移籍第一弾となる心機一転作『ラヴ&メモリーズ』では、歌うことの楽しさや有難さを噛みしめながら目をきらめかせる彼と出会うことができる。村下孝蔵の“初恋”をはじめ80~90sヒットのカヴァーを主軸とした本作は彼のなかの懐かしい思い出たちが数珠つなぎになっているかのような作りであるが、ロック調に料理された森昌子の“越冬つばめ”など歌手として新たな扉を開ける試みも随所に散りばめられている。尾崎豊の“OH MY LITTLE GIRL”などでみせるいつになくウブな感覚も聴きどころだが、いちばんのトピックは初めて作詞・作曲に挑戦した“STAR ROAD~星へ続く道”だろう。歌詞もメロディも歌声もどれをとっても素朴な味わいを湛えたこのバラードは、彼にしか歌えない曲になっているのが素晴らしい。

 「僕にとって曲作りって魔法のような作業で、ずっとハードルが高いと感じていたんです。でも曲調をイメージしようとまずメロディを考えていたらピタッとハマる歌詞もすぐに書けて。僕、子どもの頃から困ったときは星を見上げる癖があって、自分を見守ってくれている星の存在があるような気がしていたんです。最近、それってもしかしたら自分自身なのかな?と思うようになったんです。ひとりの帰り道、あの時、僕は自分自身に語りかけていたのかな?ってふと思って」

 木山のトレードマークであるアットホーム系でいえば、社会人になった長男・竣策がコーラスで参加したチェッカーズの“I Love you, SAYONARA”や息子たちが全員集合したラッツ&スターの“め組のひと”の存在にも注目したい(NHK紅白歌合戦のときに赤ちゃんだった末っ子が13歳に!)。

 「同世代には懐かしさを運ぶ一方でオリジナルを知らない若い人には新鮮さを与える2度おいしいアルバムだと思う。今回は歌唱の幅が広がったという手ごたえもあり、そういった意味で分岐点になる作品じゃないかと。いい経験をさせてもらいました」