空に映る心情
本作のなかでもっともアッパーな曲である“Kapachino”はインド、スティール・ギターをフィーチャーした“ローヌの岸辺”はフランスと、直接的に旅を題材とした楽曲も収録。なかでも〈19歳のときに初めて訪れて、いろんな場面で衝撃を受けた〉というインドは、小山田にとって特別な場所だ。
「“Kapachino”はバラナシにあるカフェの名前です。混沌とした街で、せわしなくて、そこが好きなんですけど、ふと〈なんで自分はこんなところにいるんだろう?〉って思うと、いろんなことに悩んだ結果、インドに何かを求めている自分もいて、そういう自分のなかの混沌としたものを曲にしたというか。なので、最後に歌っているように〈霧の中を 闇の中を〉進んで行くっていう」。
アルバムのラストを飾るのは、〈茜色の空 追いかけて走る〉という歌詞がandymoriの代表曲である“1984”の〈真っ赤に染まっていく公園で 自転車を追いかけた〉という一節を連想させる“夕暮れのハイ”。小山田はいつだって〈空〉にみずからの心模様を重ねながら、人生という旅を続けてきた。
「“夕暮れのハイ”はひとつの旅が終わるようなイメージですけど、最後はパワーのあるもので終わりたいっていうのは結構早くから決めてました。夕暮れってテンションが上がる一方で、〈斜陽〉みたいな、晩年のイメージもありますけど、空は自分の心を映すものというか……〈自分の〉というより、みんなそうなんじゃないかなって。だから、〈晴れやかな気持ち〉とか〈曇った気分〉みたいな言葉があるわけで。旅に出たときもよく空を眺めますね。インドの空もフランスの空も東京の空もそれぞれきれいなんですけど、場所によって色が全然違って、それにはすごく影響されてるかもしれない。もともと自分のなかにあったものを、普段見ない新しい空の色によってはっきり自覚するというか、自分の感情とか精神的なものがそこに映し出されることがある気がしますね」。
日はまた昇り繰り返す。ひとつの旅の終わりは、また新たな旅の始まりだ。次に小山田と再会するのは、どこの空の下だろうか?
「20代の頃は何が何だかわかってないときもあったんですけど(笑)、今は精神的な落ち着きも出てきて、いろんなことに捉われずにやりたいことをやれてるというか、音楽に対して真っすぐ向き合うことができてる気がします。なので、これからもいいものを作っていきたいし、いろいろ模索しながら、一番いい環境で音楽ができたらなって。〈まだまだやるぞ!〉っていう気持ちがありますね(笑)」。
小山田壮平の作品。
『THE TRAVELING LIFE』に参加したアーティストの関連作品。