STAY HOMEで楽器を始めるなら、三線はいかがですか?
みなさん方の中で、三線をお持ちの方はいませんか。カンカラ三線でもいいですよ。ちょっくら引っ張り出しましょう。(“自衛隊に入ろう”の節でどうぞ)というわけで、沖縄旅行の記念に三線を買って帰ったものの、そのままホコリを被っているなんて方は結構多いのではないか。旅先の勢いとは怖いもので、せっかく買うならと結構いい楽器を買ってしまったというのはよく聞く話だし、逆に空き缶に竿を通して弦を張っただけのカンカラ三線を面白半分に持ち帰った人もいるだろう(部屋の隅に放り出してあるかも知れないが、このカンカラ三線はちゃんとチューニングすれば使えるのだ)。そういった皆さんに是非お勧めしたいのが本作。三線を聴くだけでなく弾いても楽しむために制作された『三線で聴きたい弾きたい』シリーズの第8弾。これまでも沖縄民謡はもちろんJ-POPやフォーク、ポップスなどを採り上げてきたこのシリーズだが、〈愛と希望のうた〉と銘打った今作では、新型コロナウイルス感染症の影響で外出もままならない時期だからこそ心に響く歌を集めたというレーベル主宰の高橋氏が言うとおり、メロディーを少し聴いたら誰もが口ずさむくらいよく知られた、そして歌詞の内容も決して尽きることのない希望を感じさせる曲ばかりが集められている。
そんな曲の三線アレンジと演奏を担当したのは、このシリーズには何作も関わっている根岸和寿。ベーシストとして多くのアーティストのサポートを務めるだけでなく、作・編曲もこなすマルチなアーティストだ。ブックレットに「メロディをより華やかに彩る為に、複パートによる多重奏アレンジでの録音曲が過半数となりました」とあるように、三線ソロの曲だけでなく、複数の三線による曲もあるから、友人に声をかけて合奏を楽しむという手もあるだろう。いまだに外出が憚られる状況でもあるのだけど、有り難いことにこの自粛ムードの間にオンライン・セッションができる環境が急激に進化したから数人で合奏をして録画するのも面白い。同時に音を出すのでなくとも、それぞれがテンポを合わせて演奏した画像を集め、コラボレーション画像にまとめるのも楽しい作業だ。こうした作業をサポートするアプリやノウハウも急激に広まった事を考えると、STAY HOMEも悪くなかったのかも知れない。そしてブックレットに掲載されている楽譜にはコードも記されているし、それほど複雑ではないのでギターやキーボード、ウクレレなどで合わせても楽しいだろう。
それでも〈私は楽器からきしダメで〉というならばぜひこの演奏をガイドに歌ってみることをお薦めしたい。ゴージャスなカラオケとは違い、素朴な三線の音色に乗せて歌うと、聴き慣れたはずの歌でもまた違った印象が生まれるはずだ。また三線以外の楽器が入っていないので、BGMや気持ちを静める音楽としても重宝すると思う。ただできればそれぞれの三線の音色にじっくりと耳を傾けて欲しい。実はこのアルバムには高円寺にある沖縄三線製作工房ダスタジオによる5本の三線が使われている。胴や竿の造りや材質によって微妙に音色が違うから、そこを楽しむのも一興だろう。こうして異なる楽器を組み合わせるあたりは、沖縄音楽にずっと寄り添ってきたリスペクトレコードだからこその試みだといえるろう。
巣ごもりがちな昨今だからこそ、自宅でも声を出して歌ってみる。歌の力はきっと鬱屈した気持ちを晴らしてくれるだろう。