私というフィルターを通して今の時代を表現する音楽をピアノソロで

 窪田ミナのプロフィールには音楽を提供してきたさまざまな映画、ドラマ、アニメの作品名がずらりと並ぶ。劇伴の作曲家として多忙を極めるなか、少しずつ録音してきた楽曲をアルバム『Rain』にまとめた。

 「たとえば、機上で眺めた上空の風景、きれいな空の色、雲を照らす光などを目にすると、曲のアイディアが浮かんできたりします。この色を表現するにはこんな音がぴったりなんて、和音が聴こえてきたりして」

 インスピレーションの源はいろいろだが、作曲の背景にあるのは映像から解放された、自由な創作への渇望だろう。全曲から彼女自身の物語が聴こえてくる。2015年から始まり、劇伴制作の合間を縫ってのレコーディングだったためにおのずと共演者のいない、ピアノのソロ演奏になったが、いい選択だったと思う。演奏から英国王立音楽院と大学院で作曲を学び、凛とした姿勢で音楽に向き合う窪田ミナの根源が見えてくる。

 「作曲家の私としてはピアノらしい表現をたくさん入れたいと思い、妥協せずに作曲すると、ピアニストの私がいざ弾こうとすると、すごく難しくて、練習しないとダメで(笑)。“madoromi”とかは緩急をつけながら、現実と夢の狭間を表現するためにはどの程度演奏を揺らしたらいいのか、試行錯誤をしながら弾いた曲でした。でも、書いている時の想いを一番わかっているのが私、理解を深めるのは難しくないです」

 東日本大震災後に書かれた曲“Eleven”もある。

 「当時いつも心にあり、落ち込んでいたわけではないけれど、気持ちがモヤモヤしていて、その延長で自然にピアノを弾き始めて作った曲です。今も世界が揺れ動いていますが、この社会現象を表現するのはある意味責任というか、作曲家の使命と思います。世の中の空気を日々感じるべきというか、そうしないと、今の時代に作曲している意味がないと。もちろんそれを直接表現するのではなく、いつか私というフィルターを通して何が出てくるかが大切だと思っています」

 アイディアやテーマを明確に決めて、アルバム制作を始めたのではなく、当初あったのは「ちょっとジャズ、ちょっとクラシカル、ちょっと現代音楽」というファジーなイメージ。その背景にあるのは「自由に、その時書きたい曲を書く」という想い。約5年にわたり断続的に制作したアルバムは、本人の言葉を借りれば、想像以上に「ブラウニー」で、「中身がガシッと詰まった作品になった」と言う。それが聴き手を引き寄せる磁力となり、アルバム『Rain』は、彼女自身が「時空を超えて包み込むようなイメージの音楽」と言うように、音楽の中を自由に遊泳し、彼方へ誘われるようなイマジネーションが楽しめる作品になっている。

 


LIVE INFORMATION
窪田ミナ
2020年12月10日(木)東京・初台 東京オペラシティ リサイタルホール
開演:19:00
http://pyxie-llc.com/minakubota