池田光(ヴォーカル/ギター)、渡邉麻美子(ベース/コーラス)、山本武尊(ドラムス/コーラス)の3人が2013年に結成したバンドCharles(チャールズ)。かねてから目標としていた〈閃光ライオット2014〉のファイナルまで出場し、その高い音楽性が注目を集めるも、目標を達成したため一度解散。しかし2018年には再結成し、深澤希実(キーボード/ヴォーカル)が加入。今年に入って名前をYENMA(エンマ)と改めた。
そんな彼らが、松岡モトキ、ヒダカトオル(THE STARBEMS/GALLOW)をプロデューサーに迎えた初の全国流通盤にしてファースト・アルバム『Piñata』(ピニャータ)を10月7日(水)にリリースする。Mikikiではそんな4人に、バンド結成のいきさつからアルバム全曲の内容、今後の展望までを訊いた。
出会うべくして出会った4人
――まだメディアにもそんなに出ていないと思うので、まずは改名前のCharlesの結成の話から聞かせてもらえますか。
池田光「もともと(池田光、渡邉麻美子、山本武尊の)3ピースだったんですけど、〈閃光ライオット2014〉に応募するために結成して、ファイナルまで行ったんです。でも〈閃光ライオット〉を目的にしていたので、その後でこれ以上バンドをどう進めるかを考えていなかったし、おのおの一身上の都合があったりもして、一度解散する道を選びました」
渡邉麻美子「その時は他のバンドもやってたり、他の道があるように感じられたりして〈じゃあこれで一区切りにしようか〉っていう感じでしたね」
光「当時は〈やるなら今じゃない〉っていう感じでしたね。でも解散してから4年くらい、ずっとCharlesという存在は心のどこかにあって、メンバーとの交流もありました」
麻美子「もともと友達だったし、解散してもちょこちょこ飲みに行ったり会ったりしてたね。会うと必ず音楽の話をして」
光「毎回バンドの話で盛り上がってね。ある日いつものように盛り上がっていたら、ふと起爆スイッチが入るような瞬間があって、そのままの勢いでスタジオに入って音を出して、〈このまままたやっちゃおう〉ってなったんだよね。ちょうど身支度というか、生活の面でもバンドをやれるように整ってきて。僕が新曲を作って3人で合わせてたんですけど、その時に鍵盤の音が欲しいってすごく思ったんです。もう一度バンドをやるのであれば、絶対にアップデートしたものをやりたいし、そこで同期ではなく生音の鍵盤を入れたかった。で、誰かを誘うって話してた時に、彼女(深澤希実)しか思い浮かばなかったんですよね」
深澤希実「私と光の出会いは面白くて、私の親友が光の高校の友人で、その子とジャズのライブをやった時に、光がたまたま観に来てくれていて。そこでは一言も喋らなかったんですけど、その時のことを彼はよく覚えててくれたみたいで」
光「本当に、めちゃくちゃ楽しそうに弾いてたんで印象に残ってたんです。その友達にも〈あの子いいね〉とか言ってて」
希実「その後に対バンでライブもしたのに、その時も一言も喋らなくて(笑)」
光「打ち上げでも喋らなかったね(笑)。その後しばらくして僕がお酒で酔っ払ったタイミングで希実に電話をして〈Charles入ってくれ〉って言ったんだよね」
――距離感の詰め方が急ですね(笑)。
希実「知り合ってから話すまで1~2年はかかったね」
光「顔合わせるタイミングは何度もあったのに」
――再始動するのにあたって鍵盤が欲しかった理由は分かったんですが、深澤さんじゃなきゃいけなかった理由はなぜだったんですか?
光「まず女性1人、男性2人というメンバーに対して絶対に鍵盤は女性がよかったんですね。僕の歌のキーが高いので女性コーラスのほうが馴染みがいいし、女性2、男性2でバランスを取りたかったというのもあります」
――2人2人ってあんまりいないですよね。ゲスの極み乙女。とかくらいで。
希実「そうなんです。あんまりいないですよね。誘われた時は本当に嬉しかったですよ。覚えててくれたんだ!って。最初は3ピースのコミュニティーが出来上がってるだろうから不安もありましたけど、光が〈絶対大丈夫だ!〉って根拠のない自信のある人で。初めてスタジオに入ったら武尊、麻美子とも一瞬で仲良くなれたし」
麻美子「私の前のバンドと希実の前のバンドで対バンしてたこともあったし。その時も一言も喋ってないんですけど(笑)」
希実「(笑)。武尊とは共通の知り合いがすごくたくさんいたしね」
山本武尊「僕は大学で音楽サークルに入ってて、そこのメンバーに希実の友達が多くて。世間は狭いね」
希実「出会うべくして出会ったじゃないけどさ(笑)。近いところにいたんだね」
〈ああ、私バンドやりたかったんだな〉
――ちょっと話を戻して、一度目標を達成してキレイに解散したバンドをもう一度始めるということに対して、抵抗感はなかったですか?
光「なかったですね。世間の風潮的には、復活したらダサいとか言う人もいるかもしれないですけど、僕は何も気にしなかったです。むしろCharlesというバンドは解散してもずっと僕の中で生きていたので、もう一度やれるというのがむちゃくちゃ嬉しくて」
武尊「最初解散した時は、僕が留学することが決まっていてやむなしというところもあったので、人生のいろんなタイミングが合わなかったんだなと思っていたんですけど、バンド自体はやりたかったし、ドラムをプレイするのもすごく好きなので、3年後に同じメンバーで集まってまた出来るっていうのは嬉しかったです」
麻美子「二人が言った通りで、抵抗とかはなくって。ある日突然、光から電話がかかってきて」
希実「いきなり電話かかってきがちだね(笑)」
麻美子「〈もう一回Charlesやんない? やるよね?〉みたいな電話がかかってきて、〈え!?……とりあえず保留ボタン!〉みたいな感じで(笑)。でもそれを言われた時に、改めて〈ああ、私バンドやりたかったんだな〉って気付いて。ちょうど別のバンドをやめて半年くらい経ってて、心の中ではどこかでベースをやりたいとか、誰かと音楽を奏でたいとか、そういう気持ちを抑えてた時だったので」
――最初は〈閃光ライオット〉に出場するという目標があったわけですが、再結成後の目標は何ですか?
光「どこまで大きく話すかな」
――どこまでも大きくいきましょう。
麻美子「でっかいよね」
光「でっかいよね。まず紅白に出たいですし」
希実「オリンピックで歌いたいですね(笑)。来年は間に合わないけど」
光「がんがんお茶の間に出ていきたいなって思ってます」
麻美子「全世代に愛されたいよね。みんなに馴染みのある顔になりたいです」
――じゃあ目標はかなりステップアップしましたね。
希実「たしかに! 全然違うね」
光「かなりステップアップしましたね」
CharlesからYENMAへ
――そして今年に入り、再始動後初の会場限定CD『西へ行こうよe.p.』をリリースしました。
光「その前に、手作りのデモ音源CDをライブに来てくれた人に特典として配ってはいたんです」
希実「盤面に手書きでメッセージをいろいろ書いてね」
麻美子「でも、やっぱりもっとちゃんと音源を届けたいという思いがあったのも事実で、ライブを何回か重ねるうちに十八番みたいな曲も増えてきたので、そういう曲を集めて、名刺代わりとなるようなEPを出そうと思ったんです」
光「しっかりパッケージしたものが欲しかったよね」
希実「〈きちんと売れるものを作ろう!〉みたいな」
光「結果として、あの時出せるすべてを詰め込めたと思います」
――8月にはバンド名をYENMAへ改名します。これはなぜですか?
光「バンドはお客さんをどんどん巻き込んで大きくしていかなきゃいけないのに、それにしてはバンド名が弱すぎると思っていて。なので改名は再結成の時から決めていました。Charlesだと検索にも引っかからなくて」
麻美子「もっとパンチのある名前を!ってね」
光「結局は響きとか語感で決めました。シンプルかつキャッチーかつインパクトもあって」
希実「視覚的にもカッコいいし」
麻美子「他にない言葉というのもありますね」
光「将来的には海外にも進出したいと思っていて、〈YEN〉という単語を入れてジャパニーズカルチャーを背負いたいっていうのもあります。自分的には満点のバンド名だなと思っています」
希実「4人で候補を何十個も出して、4~5時間ミーティングをした後に、最後の10分くらいで候補にはなかった〈YENMA〉という言葉を武尊が言い出して(笑)」
――どうやってこの言葉が降りてきたんですか?
武尊「今までのCharlesのちょっとキレイなイメージに対して、もうちょっと大人な雰囲気を出せるようにとか、それってキレイなだけじゃないよなとか、そういう話になって……〈あ、エンマ大王〉って(笑)」
一同「(笑)」
――エンマ大王って大人な雰囲気ですか!?(笑)
武尊「でも〈エンマ〉っていうサウンドもいいし、さっき光が言ってた日本円の〈YEN〉なのもいいし、面白いなって思ったんですよね」
――再始動時に改名するのではなく、しばらく経ってからの改名になったのはなぜですか?
光「〈閃光ライオット〉に出場できた影響力がすごく大きかったので、あそこで僕らに興味を持ってくれたお客さんに対してCharlesがまた始まるということを示したかったし、僕らが参加したコンピレーションアルバム(『閃光ライオット2014』)に、ぼくのりりっくのぼうよみが参加しているのもあって話題になることが多かったから、というのもありますね。再始動してから改名するまでの2年間は〈探求の2年間〉で、定まっていなかった方向性を定めて、いろんなことが固まって〈よし! レールを敷くぞ〉というタイミングで改名するのが、一番しっくりくると思いました」
それぞれのバックボーン
――そういった探求の期間を経て、今現在はどういう音楽をやりたいと思っていますか?
光「ロックをやってはいるんだけど、ジャンルには囚われたくないと思っています。それは4人のバックボーンがかなりバラバラで、そのバラバラのジャンルに対する理解を使わない手はないと思っているからですね。例えば一見関係のないクラシックでもラテンでも、うまく僕らの音楽に落とし込めれば、そういうジャンルのリスナーをも巻き込んでいけるかなと思うんです。やりたいだけやって、どんどん面白いバンドにしていきたいなっていうことですね」
――なるほど。4人それぞれにはどういうバックボーンがあるんですか?
武尊「僕は以前、洋楽のロックを中心にやっていたんですけど、学生時代から中南米のレゲエとかオーセンティック・スカとかラテン音楽とか、あとはアフリカのアフロ・ビートとかのドラムスをやっていました。なのでそういう要素をYENMAに入れ込みたいと思っています。僕がそういうアイデアを出すとそれをベースに光が曲を作ることもあって、いわゆるJ-Popになかったようなリズムを入れ込むことで、J-Popの幅を広げられるんじゃないかなと思っています」
希実「私は3歳のころからクラシック・ピアノをやっていたんですけど、高校3年生でそれをやめて、ジャズ・ピアノを独学で始めて、大学時代はジャズを勉強したり、セッションに参加をしていました。中学くらいから日本のロックバンドも好きで、特に自分のルーツになっているのはBUMP OF CHICKENですね。なので歌モノの音楽にジャズやクラシックの要素を取り入れていけるんじゃないかなとは思っています。光の作る曲ってどんなアレンジを加えても光らしさが必ず残るし、それがYENMAらしさにも繋がると思っているので、その分リズム隊はどんどん好きにアレンジしていこうと思っています」
光「僕は学生時代からいろんなジャンルを雑多に聴き漁っていて、J-Popはもちろん、洋楽の特にハードロック系とか、パンク、ヒップホップ……本当にいろいろ聴くんです。でも一番は、父親のカーステレオから流れてきた音楽が身体にしみ込んでると思います。昭和歌謡独特のもの悲しさとか、ユーミン(松任谷由実)さんや尾崎豊さんの持つ哀愁とか、ああいう曲からの影響はどういう曲を作っても出てきちゃうんですよね」
麻美子「実は私もクラシック・ピアノを幼い頃から大学卒業までやっていて、音楽への入りはクラシックなんですけど、高校の時にミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)とか東京事変とか、あと一番はGO!GO!7188にどっぷり浸かって、それらのベースをとにかくコピーするっていう日々を送ってました。なのでYENMAのベースラインには、アッコ(ノマアキコ)さんの歌うようなベースの影響を受けていると思います。あとは大学時代にソウルとかR&Bのダンスも習っていて、そういう要素を取り入れたり、ピアノの先生に教わったジャズの要素を取り入れたりもしています」
――深澤さんが、どんなアレンジをしても光らしさが残ると言ってましたけど、とにかくメロディーがキャッチーで、アレンジをするのが楽しそうだなというのは聴いているこちらにも伝わります。
希実「送られてくるデモのコード進行はけっこう単純なんですけど、単純だからこそアレンジし甲斐があるし、光もこだわりはもちろんあるけど任せてくれるところも大きいのでやりやすいですね。腹を割って〈ここは譲れない〉〈ここはどうしても変えたい〉とか話し合える仲だし」
麻美子「信頼があるんだなって思うよね。彼のデモはいつも全パートざっくり入ってるんですけど、〈ここのパートは希実にこうしてほしいんだな〉とか〈ここは武尊に幅を広げてほしいんだな〉とか聴いててわかるんです」
光「そこまで理解されてたか(笑)」
――そこで衝突することはないですか?
一同「(笑)」
希実「4人全員が違うことを言うこともあるし、3対1の時とかもあるもんね。でもけっこうみんな我が強いから折れなくて」
光「折り合いがつくまで徹底的に戦ってます(笑)」
希実「全部のパターンを試したこともあったね。で、らちが開かないから〈今日は録音しておいて一晩寝かせて聴いてみよう〉とか言って」
光「それで意外と主張してた者同士、自分じゃないほうをいいって言って、〈ええーっ!?〉って(笑)」
希実「でも、やっぱりそういう時にみんなの意見をまとめてくれるのが武尊で。〈みんなのお兄ちゃん〉じゃないけど」
――武尊さんは最年長ですよね。
武尊「はい。でも3人は絶対そう思ってないですけどね(笑)」
光「敬語使ったことないしね(笑)」
希実「私も1つ上だって知らなかったし(笑)」
――(笑)。ちなみに、YENMAのセールスポイントってどこだと思います?
希実「全パート聴いてもらえるところだと思います。麻美子のベースは歌うようなベースで、あんまりいないタイプだし、武尊も男らしいドラムスを叩いてるし。“シャンデリア”の2番のレゲエっぽいところは武尊の案で、生き生きしてるよね」
武尊「(笑)」
光「あとは僕のメロディー特有の昭和歌謡っぽさ、懐かしい感じは全曲通してあると思います」
麻美子「どこか懐かしいんだよね。あと、“Blue Monday”がそうなんですけど、今作から(光と希実の)ツイン・ヴォーカルの曲が増えてきて、かなり練られているので注目してほしいところです」
希実「ちょうど改名前に“Blue Monday”のデモが送られてきた時、改名もするし、この曲が新しい何かを導いてくれそうな曲だなって思いましたね」
光「“Blue Monday”を筆頭に、今後はツイン・ヴォーカルをがんがん増やしていこうと思っているので、そういう意味ではセールスポイントかな」