旋律ではなくある音符がずっと基調低音として続いている、そんな音が聞こえる〈ダブル・サイレンス〉展
美術の展覧会では珍しい〈同時代のふたり展〉が、金沢21世紀美術館で開催中だ。ミヒャエル・ボレマンス(57歳)は油絵、マーク・マンダース(52 歳)は、彫刻を主なメディウムとしている。ふたりとも、欧州現代美術界で最有力のギャラリーのひとつ、ゼノ・エックス・ギャラリー(アントワープ)に所属し、フランダース地方に住んでいる。ふたりの家は、車で40分ほどしか離れていない。
私が最初にボレマンスの作品を知ったのは、2008年のギャラリー小柳での〈Earthlight Room〉展だった。ルーベンスかベラスケスを思わせる卓越な筆のタッチにまず圧倒され、次に非日常的なシーンの画面から醸し出される、謎めいているけれども、なぜか既視感もある不思議な雰囲気に魅了された。ヨーロッパで開かれるボレマンスの展覧会に出かけているうちに、まもなくマンダースの作品に巡り合った。ルネッサンス期の塑像とも、アンコール・ワットの仏像とも見える一見粘土細工、実はブロンズの頭部部分が木片の間に挟まれた彫刻は、その暴力的な設定にもかかわらず、美しく魅惑的だった。
〈ダブル・サイレンス〉というタイトルは、作家たちが相談して決めたということだが、まことに妙を得ている。ボレマンスの作品もマンダースの作品も、観ていると音が聞こえてくる。しかし、それは旋律ではなくて、ある音符がずっと基調低音として続いている。観ている者は耳鳴りの真っ只中に取り残されて、周りの音は一切聞こえなくなるのだ。