AKIHIDEがニューアルバム『L∞P WORLD』をリリースする。本作は聴き手を優しく包み込みながらも、強く導いてくれるようなメッセージ性にあふれており、混迷の時代に光を射す一枚となっている。こんな今だからこそ、生まれた渾身の本作に込められた想いをAKIHIDE本人に訊いた。

AKIHIDE 『L∞P WORLD』 ZAIN RECORDS(2020)

――1年でアルバムを2枚リリースとかなりハイペースですが、いつ頃から制作を始めたのでしょうか?

「制作を始めたのは6月頃です。コロナ禍になり、皆さん不安な日々を過ごしていたと思います。僕自身も音楽業界が全く動けない状況になって、〈いつが今日で、いつが明日なのかわからない〉不安な日々が繰り返し続く毎日に気が滅入っていたんです。この気持ちをどうにか形にしたいと思っていた時にBREAKERZで配信ライブにトライしました。その後、ソロでも何かできないかな?と考えて、ループペダルを使ってのライブ配信をしました。このライブ配信をきっかけに方向性が見えてアルバム制作を始めました」

――今作で特筆すべきは制作スタイルです。ループペダルを使ってAKIHIDEさんが完全に1人で手掛けたということですが、最もこだわった点は?

「ループペダルは自分が弾いた音を録音して再生しながら重ねることができる機材で、演奏者が1人でもバンド演奏やアンサンブルのようなパフォーマンスが展開できるんです。なので、1つミスをすると全てがダメになってしまうんです。バンドスタイルだったら、音のアレンジについてもその場で判断して進められるのですが、ループペダルは基本的に録音したフレーズが繰り返されていくものなので、今まで以上にきちんと楽曲の設計図を構築する必要がありました。なおかつ自分がそれに見合った演奏をしなければいけないので、つねに緊張感とライブ感をもって制作するようにしていました」

――アルバム『L∞P WORLD』のテーマと、タイトルの意味を教えてください。

「ループペダルを使ってどんなアルバムにしようか考えた時に〈繰り返される毎日=ループする世界〉を表現したいと思いました。そして今回8枚目のアルバムということで、LOOPのOOの文字を横にしたとき数字の8にも見えるし、無限の繰り返しを比喩するメビウスの輪(∞)のようにも見える。コロナ禍で終わりの見えない不安な日々が繰り返されていくという状況にリンクしているなとも感じました。明日が見えない状況が繰り返されているなかで、〈どうやってその世界から抜け出すための一歩を踏み出すか〉というメッセ―ジと希望を伝えたくて『L∞P WORLD』というタイトルにしました」

――今回のコンセプトストーリーは〈明日が見えない世界〉が描かれたファンタジーですがストーリーのアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

「僕は〈月〉をモチーフによく物語を書いているのですが、今回の『L∞P WORLD』の世界はコロナ禍という誰もが感じているリアルタイムな状況からストーリーをふくらませていきました。謎の生命体〈時樹の木〉が街の中心に根を張り、外に出ることができない世界。くわえてその木は、街のシンボルである月に絡みついて、月の満ち欠けを阻んでいる(=時間が進まない)という画がパッと浮かんだんです。〈進むことなく繰り返されていく〉という自分がダイレクトに感じたことが色濃く反映されたストーリーになりました。でも暗い作品には絶対したくなかったので、僕なりの〈希望〉を詰め込みました」

――アルバムの最初を飾る“迷子の朝”ですが、迷子という言葉が持つイメージとは真逆の優しくあたたかいメロディが印象的なナンバーです。

「コロナ禍の状況にインスパイアされた作品とはいえ、暗い作品にはしたくなかったんです。『L∞P WORLD』の入り口になる曲なので、聴いている人に〈暗闇のなかにいても光は必ずある〉という予兆をさせたくて。迷子という言葉は〈失ったもの悲しさ〉というイメージがありますよね。逆に朝という言葉は、〈始まり〉といったポジティブなイメージの言葉。そうした相反する言葉が昔から好きなので、楽曲の雰囲気もそんな感じになりましたね」

――このアルバムの要となるリード曲“LOOP WORLD” はAKIHIDEさんがこのコロナ禍で感じたことが詰まっている気がします。

「そうですね。聴いてくださる方が、前に進むための小さな一歩を踏み出す力になるような曲を作りたいと思って生まれた曲です。もともとはバンド編成で考えていた曲ということもあり、ループペダルをふんだんに使っているのでサウンドに厚みが出てパワフルな楽曲に仕上がりました」

――それぞれの環境・状況下で必死に闘っている人たちの気持ちがリアルに綴られている歌詞も刺さりますね。

「この曲に関しては、ストレートに〈自分が感じた事・聞きたい言葉・言ってほしい言葉〉を書きました。ある意味、今だからこそ書けた曲だと思っています」

――“夜の獣”はむなしさ、孤独感、焦燥感といったダークでヒリついた感情を全面に歌ったナンバーです。

「アルバムの世界観を構築していくなかで、ロックテイストの曲がほしいと思い作りました。どんな思いを込めようかと考えた時、コロナで環境が一変して皆さん眠れない日々があっただろうなと。僕自身も最初の頃は、夜眠れなくなることが多くて。夜って静かで落ちつく反面、気持ちが沈みやすくなりますよね。ふとした時、不安が形で表れるというか。その姿が獣のように思えたんですね。今回、暗い作品にしたくないと言いましたが多少、暗い部分がないと明るい部分が引き立たないというか。前を向くためにはそういった要素も必要だと思ったので、その獣と葛藤している姿を描きました」

――歌詞の世界観や歌い方も今までのAKIHIDEさんにはない新しい感じがしました。

「普段は少し暗い歌詞の世界でも希望を持たせて書いていることが多いんですが、今回はダーク全開になっていましたね。僕自身、ガツンと刺さる系の声ではなく柔らかいタイプなので、言葉でソリッド感とスピード感を出して、少し気だるい感じで歌うように意識しました」

――続く“樹海”ですが、樹海と聞くと怖いイメージがあるのですが、AKIHIDEさんが描く樹海は軽やかで優しさを感じます。どこかジブリの世界を彷彿としました。

「ループペダルで曲を作りたいと思っていちばん最初にできた曲です。でも、はじめから“樹海”というタイトルを考えて作っていた訳ではなくて。純粋に、和の雰囲気と疾走感のあるファンタジーな曲を作りたいなと思って制作しました。当初はタイトルがありませんでしたが、今回のコンセプトストーリーを考えた時、核となる〈時樹の木〉のアイデアの源泉はどこだろう?と思い返したら宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』の腐海でした。僕のなかで腐海は恐ろしさがありながらも、どこか幻想的で惹きつけられる異空間なイメージがありました。でも、『L∞P WORLD』に登場する樹海は怖い見た目にはしませんでした。恐くしてしまうと物語を受け取る側がしんどくなってしまうと思ったので、幻想的でありながらも少しポップなビジュアルに仕上げました。そして、作品をトータルでみた時にこの曲には〈樹海〉という言葉がハマるなと思ったので“樹海”というタイトルにしました」