「僕らはいつも人々が逃避できるような曲を作りたいと思ってる。人って自分を殻に閉じ込めてしまうことがあるし、そこから解放されるのってなかなか難しいことだと思うんだよね。だから、僕らが明るい曲を提示して、そのフィーリングを感じることで解放され、自分自身であることを学んでほしい。他人が自分のことを悪く言っても、殻に閉じ込めようとしても、常に自分の中にハピネスを感じてほしいんだ」(コリン・パダレッキ)。

 TikTokをきっかけに世界で17億回超えの再生数を記録した“Sunday Best”によって一躍脚光を浴びたテキサス発のポップ・デュオ、サーフェシズ。トラックメイクを担うコリンとヴォーカリストのフォレスト・フランクがオンラインを介して出会ったのは2017年のことだが、そこから両者の織り成す心地良いベッドルーム・サウンドは瞬く間に多くの人に知られるところとなった。マイルドなヒップホップ・ヴァイプやメロウ・グルーヴにカリプソやソウル、レゲエ、ボサノヴァのフィーリングを加味した彼らのAORライクな楽曲は、心地良い陽光や爽快な風、海岸沿いの砂浜、ヤシの木などを鮮やかに連想させるもの。こうした作風については「二人とも目を閉じた時に広がる景色が〈海〉なんだ。テキサスの田舎で育ったからビーチの近くに住むことを夢みていたし。だからビーチの雰囲気が自然と表現されているのかもね」(コリン)とのことだが、それゆえの想像力が却ってある種の最大公約数的なイメージを喚起する音を生み出したというのもおもしろい。また、そうしたイメージは万人の求めるピースフルな穏やかさを満たすものでもあったというわけだ。

 2017年に初のアルバム『Surf』を完成した二人は、メジャーに舞台を移して2019年に2作目『Where The Light Is』をリリース。そこから生まれた“Sunday Best”のヒットを足がかりに全米ツアーを成功させる。そして今年2月に3作目『Horizons』をリリースしたところでコロナ禍に見舞われてしまうのだが、彼らのサウンドにそうした状況下の閉塞感を和らげる効能があったのは間違いないだろう。彼らの評判を知ったエルトン・ジョンとのコラボで6月には“Learn To Fly”をリリースし、その後も9月に“Sail Away”を発表するなど、彼らのゆるやかな音はささくれ立った世界へまろやかに浸透を続けている真っ最中なのだ。

SURFACES 『Sunday Best』 ユニバーサル(2020)

 そんなタイミングで届いた日本企画アルバムが『Sunday Best』である。初の日本リリースにあたって彼らが作成した独自アートワークも美しいが、中身もタイトル曲を筆頭に彼らの過去作からポジティヴな楽曲が選りすぐって収録。さらにはエルトンを招いた先述の“Learn To Fly”、最新シングル“Sail Away”も初フィジカル化され、バンド演奏による“Sunday Best”のライヴ音源も楽しめるベスト盤的なパッケージとなっている。

「いまの時期だからこそ伝えたいことはたくさんあるけど、根底にあるメッセージは〈穏やかにいこう。何事もきっとうまくいく〉なのかなって思う。僕らもそれを信じているから。もし君が生きていて、食べ物を口にできる状況にいて、さらに夢を持てているなら、それは素晴らしいことなんだって伝えたい。前向きに夢を持ち続けるべきだよ」(フォレスト)。

 もちろん、そこまでの気持ちになるのが難しい時もあるだろうが、彼らの音楽が備えたメロディアスで人懐っこいヴァイブは間違いなく受け手の気分に仄明るい心地良さをもたらすはず。ヘヴィーな日々を送るあなたも、ぜひお試しあれ。

 


サーフェシズ
コリン・パダレッキ(トラックメイク)とフォレスト・フランク(ヴォーカル)から成るテキサス在住のポップ・デュオ。コリンがSoundCloudに公開していた楽曲を聴いたフォレストがコンタクトを取り、2017年に結成。同年にファースト・アルバム『Surf』をリリース。2019年の2作目『Where The Light Is』に収録されていた“Sunday Best”がTikTokをきっかけにブレイクし、全世界で17億回以上の再生数を記録する。今年2月にサード・アルバム『Horizons』をリリース。その後のツアーなどは中止となるも、6月にはエルトン・ジョンとコラボした“Learn To Fly”、9月には“Sail Away”とコンスタントに楽曲を発表する。このたび日本独自編集盤『Sunday Best』(ユニバーサル)をリリースしたばかり。